カードマジック

【書籍紹介】「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」:加藤英夫著 カードマジック入門書の決定版

カードマジックに興味を持った初心者、あるいはこれから始めたいという方から、「本格的なカードマジックを学ぶのにおすすめの本を教えてください」といった相談を受けることがあります。

 

ちょっとした宴会芸とか、バーなどでたまに披露するために2~3のネタを覚えておきたい、という程度ならば、普通の本屋に売っている初心者向けの本で充分かも知れません。

しかし本格的にカードマジックを趣味としたい場合は、学ぶべき用語や理論、技法などといった、バックボーンとも言うべき事柄が多数あります。よくある初心者向けの種明かし本では、こういった本格的なカードマジックのバックボーンを形成する視点に欠けたものも多くあります。また本格的なカードマジックの解説書では、カードマジックの基本事項や技法を学んでいない人への配慮に欠けた本も多く、初心者の方がいきなりこの種の本を手にすると、意味が分からず途方に暮れるといったことも考えられます。

 

「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」は理想的な教科書

その点において、「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」は理想的な教科書と言えます。

デックの持ち方や各部分の名称といった本当の基礎から始まり、あらゆるカードマジックのベースとなる基本技法を軸にして各章が構成されています。

カードマジックにおいて、技法は手順を構成するパーツであり、マジシャンの武器です。いくつもの技法を自らの辞書に加えてゆくことによって、マジシャンとして表現できる不思議の可能性が広がってゆくのです。

技法の中にはさほど重要でない、応用範囲の狭いものも存在しますが、「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」に収録された20カテゴリの技法は、どれも必須といえる重要なものばかりです。本格的なカードマジックを目指すなら、覚えなくてもよい技法はひとつも含まれていないと言えるでしょう。

 

また、技法単体で練習するのは、初心者にとっては結構苦痛であるとも思えます。なぜならば、それだけ練習しても、マジックが出来るようになるわけではないからです。技法単体で他人に見せるほど愚かなことはありません。(もちろんマジック仲間で出来具合の確認で見せ合うのは別です。)

その点、「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」では各技法解説の章の後半には、その技法を使用したマジックが解説されています。技法の練習と併せてこれらのマジックを覚えてゆけば、レパートリーも増えて、練習する楽しみも出来ます。

 

各技法の章の後半に解説されているマジックは、技法の練習曲的な意味あいのものもあり、本の後半に解説されているような本格的なカードマジックと比べると、いささか物足りないと感じるかも知れません。

しかしこれらも軽視せず、しっかりと練習することをおすすめします。

技法の章の後半に解説されているマジックの中でも、たとえばイモーショナルリアクションなどは歴史に残る大傑作カードマジックですし、「小さな奇跡」も実際にラリー・ジェニングスがショーで用いている印象的なカードマジックです。

 

「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」での学び方

初心者の方が「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」でカードマジックを学んでゆくにあたっては、適当に拾い読みするのではなく、カードを手に持って、最初から順番に読み進めてゆくことをおすすめします。

ブレーク、スプレッド、カット、シャッフルやコントロールといった、基本中の基本が最初に出てくるので、まずこれを理解しないと先に進むことはできません。

また、教科書と同じで、後から出てくるマジックには、それまで学んだ内容や技法が使われており、順番どおりに読みすすめてゆけば、未習の内容が出てきて戸惑うということもありません。

 

技法については、カードを持ちながら本を読んでそのメカニズムを理解し、ある程度動きができるようになったら、次の章に進んでも問題ないと思います。

技法を練習して完璧にすることは大切ですが、「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」の各章において出てくる技法を、その都度完璧に出来るまで練習していたのでは、いつまでたっても次へ進めないからです。

たとえば、本の中でも比較的早く出てくるクラシックパスという技法などは、完璧に行うには年単位、場合によっては10年単位の練習期間が必要な技法であり、本を読んでいる最中にこれを完全にマスターするというのは現実的ではありません。

 

第21章までを学び終えたら、それで「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」の内容は一通り卒業としても良いでしょう。ここまでの内容を全て覚え、自分の手である程度再現することが出来るようになれば、カードマジックの基本は一通りマスターしたと言って差し支えありません。

もう少し本格的な本や、カードマジックのDVDなど、自分の好きな教材を手にとってもよいでしょう。

 

もちろん「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」の後半にあるカードマジック傑作選を読み進めても構いません。

この部分は新版で追加されたもので、ラリー・ジェニングスや著者の加藤英夫による傑作カードマジック、さらに日本人名手による傑作が掲載されています。昨今のテレビでも有名な前田知洋氏の若い頃の作品や、沢浩氏による独創的なカードマジックも解説されています。

個人的には、この本に掲載された中では片倉雄一氏のダブル・ダウンが好きです。片倉氏は日本でも最高峰のテクニックと演技スタイルを持つクロースアップマジシャンでしたが、若くして亡くなってしまいました。

ダブル・ダウンは、片倉氏の代表作であるダブル・ショックのバリエーションですが、原案と甲乙つけがたい味のある素晴らしい作品です。

 

「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」の旧版と新版

現在発行されている「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」は新版で、これは1992年に発行されたものです。

元々の版は1972年に発行されました。加藤英夫氏がラリー・ジェニングスの元に武者修行に行き、その成果を教科書としてまとめたもので、それまでの日本のカードマジックに見られる誤りを正し、ダイ・ヴァーノンの流れを汲む近代的なカードマジック理論に基づいた、”正しい”カードマジックを教えることを目的としています。

 

その後長らく絶版状態が続き、入手困難でした。プロマジシャンのジョニー黒沼氏のレクチャーノートにこの本のことが書かれており、カードマジックを初歩から学ぶのに最適の本であり、真剣にカードマジックを学びたいという人には貸すこともある、と書かれていました。

それから数年後、テンヨーによって新版が発行されたわけですが、黒沼氏は自分の影響もあって再版されたのではないか、などとおっしゃっていました。まあ、真相はテンヨーの人でないと分からないでしょうけども。

 

前田氏や片倉氏の作品解説などは、新版になってから付け加えられたもののようです。また掲載されているテクニックにも追加が加えられ、現在では本格的にカードマジックを目指す人必読の、またとない教科書となっています。

 

「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」の入手方法

ラリージェニングスのカードマジック入門

新版ラリージェニングスのカードマジック入門


「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」はマジック用品メーカーではないテンヨーが発行する本ですので、出版社のルートには乗らず、一般の本屋さんには置いてありません。恐らく取り寄せも出来ないのではないでしょうか。

 

大き目の百貨店や、東急ハンズ、LOFTなどといった雑貨を扱うお店で、テンヨーの商品を豊富に扱っているところには置いてあることが多いです。

実演販売が行われているテンヨーのマジック用品売り場ならば、大抵の場合は扱っているでしょう。

 

専門のマジックショップにも置いてあります。マジックショップの中にはネットショップを開設しているところも多く、そういったところで購入するのが便利です。

ネットならば、大手ネット本屋のアマゾンでも扱っています。アマゾンならば送料無料なので、購入しやすいですね。

その他には、ヤフオクなどのオークションでも売られていることが多いです。新品でなくても良いという人は、こういうものを利用しても良いでしょう。

また、わたしは見たことはありませんが、図書館に置いてある例も結構あるようです。立ち読みの出来ない本なので、どんな内容か見てみたいという人は、図書館で探してみてもよいでしょう。

 

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コメント

  • コメント (2)

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    • 峯崎浩一
    • 2012年 5月 31日 8:40am

    新版もその後に中味が改訂され、アンビシャスカードの手順が加わってます。あとP26のブリッジサイズの記述ですが、加藤さんは後にこの考えを否定してますね。

      • Shanla Type2
      • 2012年 5月 31日 1:16pm

      そもそもその考えはジェニングスが言ってることで、加藤さんが元々考えているということではないですからね。
      実はわたしの新版は人に貸しっぱなしで戻ってこないので、中身も変わっているならそのうちまた購入しようかと考えています。

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