【書籍紹介】「サイ・エンドフィールドのカードマジック」:ルイス・ギャンソン著 高木重朗訳

サイ・エンドフィールドのカードマジック

「サイ・エンドフィールドのカードマジック」は、ダイ・バーノンの作品集などの著作で知られた、著名な奇術書著者であるルイス・ギャンソン”Lewis Ganson”の”Cy Endfield’s Entertaining Card Magic”を邦訳したものです。

日本が世界に誇る奇術碩学、高木重朗氏による翻訳で、金沢文庫から出版されていました。

 

サイ・エンドフィールドは本業は映画監督で、今で言うB級映画のような作品が多かったと思います。

趣味のマジックの世界では正統派のカード奇術家として著名で、近代カードマジック史に確固とした足跡を残している人物です。

 

1975年、今から40年近く前に発行されたこの本は、まだまだカードマジックに関する情報の少ない時代、カードマジックを志す人のバイブル的な位置づけの本となり、多くのマジシャンに影響を与えています。

実際、内容は今見ても素晴らしく、1955年出版のこの本を邦訳紹介された高木重朗氏の慧眼には敬服するばかりです。

 

なお、「サイ・エンドフィールドのカードマジック」は上製本の豪華版と、簡易な装丁の普及版の2種が出版されたようですが、わたしが持っているのは普及版のほうです。

この記事での紹介も、普及版の内容によります。

 

「サイ・エンドフィールドのカードマジック」の解説作品

ルイス・ギャンソンによる”Cy Endfield’s Entertaining Card Magic”は元々60ページほどの小冊子が3部構成となった本でしたが、日本語版「サイ・エンドフィールドのカードマジック」ではこれらが1冊にまとめられています。

日本語版で、第一部、第二部、となっているのがそれぞれ、原著では別々の冊子となっていた内容です。

また、原著では文章と写真による解説でしたが、日本語版ではこの写真をTON小野坂氏の手になるイラストに差し替えられており、原著よりもむしろ見やすい内容となっています。

 

では、内容の紹介に進みましょう。

第一部

 予言する2

サンドイッチ現象の手品です。

いわゆるダウンジングによって、木の棒を使って地下鉱脈などを見つける人の話をしながら、カードを使ってそれを再現しようと言います。

2枚の2のカードを使って観客のカードを見つけようとしますが失敗し、最後はビジュアルに2枚の2の間に客のカードが出現します。

有用な二つの技法

ポール・カリーのターンノーバー・チェンジと、バーノンのマルティプルシフトの、サイ・エンドフィールド流のやり方の解説です。

骨の魔法

テーブル上に置いたAと、客の選んだカードが入れ替わるトランスポジション現象です。

カードの配置と、題名から連想されるような気味の悪い呪術的なプレゼンテーションによって、単純なマジックが面白くなる好例。

名探偵スペードのA

4枚のJを悪漢、スペードのAを名探偵としたストーリー仕立てのカードマジックです。

魔術的な能力の持ち主である名探偵に悪漢が翻弄され、彼らがどれだけ逃げても逃げ切れないという物語。

ポケットに通うカード

サイ・エンドフィールドの”Signature Effect”とも言える大作カードマジックです。

いわゆる古典的な「ポケットに通うカード」の手順で、12枚のカードが順番に演者のポケットに通うというものです。

巧みに組み込まれたミスディレクションと、途中で4枚一気に飛ばしたりするなどのスピード感のある手順構成は素晴らしく、「ポケットに通うカード」のひとつの完成形と言えるでしょう。

とくに、最後の3枚のハンドリングは多くのカードマジシャンが優れていると認めるものです。

なお、この作品は「カードマジック事典」にも解説されています。

ビドル・ムーブ

エルマー・ビドルによって考案された有名な技法の解説です。

脱出する銃士

3人の観客が選んだカードが魔法のように消失するカードマジック。

観客自身がはっきりと見て、自分のカードが入っていると確認したはずのパケットから、客が選んだカードだけが消失します。しかも3人同時に!

消えたカードは、マジシャンのポケットから出現します。

すばらしい雑誌テスト

即席で出来るブックテストです。

観客が適当に出した小銭の年号と、一組のデックから取り出したカードの数字によって偶然決められたページに書かれている単語を読み取るというメンタルマジック。

本もカードも小銭も全て借りたもので演じることができる実用的な手順です。

トランプ1組を使うので、何か他のカードマジックの演目と一緒に演じると自然で効果的かと思います。

原著では当然アメリカのコインを使う手順となっていますが、邦訳版では日本のコインで演じるためのアイデアも書かれています。

第2部

スリー・カード・モンテ

スリーカードモンテの手順と、いくつかの技法やアイデアの紹介。

通常のフォールス・スローのテクニックはもちろん、コーナーを曲げるやり方、鉛筆でしるしをつけるやり方、画鋲でカードを留める方法、ペーパークリップを付ける方法などが解説されており、充実した内容です。

カードの選ばせ方とコントロール

サイ・エンドフィールドが使っていたグリンプスとその関連技法、そしてサイドスチールの解説です。

とくにサイドスチールの解説は独自かつ詳細なもので、わたしは今でもこの解説の中のいくつかの点を守ってサイドスチールを行っています。

カードの読心術

カードをリフルして色々なカードを見せ、自由に1枚のカードを心の中で覚えてもらい、それを当てます。

近年はリフルだけでなくファンにしたりスプレッドしたりして選ばせる、同原理の手品が考案されていますが、サイ・エンドフィールドのこれはその種の手品のはしりのひとつでしょうか。

実際にはさらに、ダイ・バーノンの”Out of Sight, Out of Mind”に似たメソッドも併用された巧妙な手順です。

サブ・アクア

2枚の皿を暗室に見立てて、白紙を水の中に漬けた状態で、観客が選んだカードの名前が白紙に「現像」されます。

水の中で文字を書くという独特な手順による奇術。

貫通して変化するカード

ハンカチの中に包んだ関係ないカードが、一瞬で選ばれたカードに変化するという手品。

ハンカチを使うというところが、ある意味単純な変化(交換)現象を面白く奇跡的なものにしていると思います。

ホフジンサーのトップチェンジ

ミスディレクションに頼らない独特なトップチェンジの解説。

この技法の解説としては最高の文章だと思います。

エースが5枚ある

デックから取り出した4枚のエースをゆっくりと公明正大に数えてみると、なぜか5枚あります!

4枚のエースを使ったマジックの前に見せる、バイプレイのような小品カードマジックです。

専門家のための5枚のエース

スタンレイ・コリンズによる通称「コリンズ・エーセス」の、サイ・エンドフィールドによる洗練されたバリエーション。

4枚のエースが消える美しさを重視した作品だと思います。

なお、このマジックの原題は”Aces for Connoisseurs”で、どこにも「5枚の」という単語はありません。なので日本語名も「専門家のための4枚のエース」が適当ではないかと思うのですが・・・

目次でも、本編でも「専門家のための5枚のエース」となっているので、ここではそのように紹介しておきます。

第3部

アンビシャス・カード

多くのマジシャンに扱われているアンビシャスカードですが、サイ・エンドフィールドによるこの手順はちょっと独特です。

最初は通常のアンビシャスカードのように、選ばれたカードが1番上に出てくる現象を見せますが、途中から観客は、同じカードが何枚もあるような錯覚に襲われます。実際、デックはすべてのカードが選ばれたカードで構成されているように見えるのですが、次の瞬間にはデックからそのカードは消えてしまい、財布の中から現れます。

後半のほうは、”Everywhere and Nowhere”(どこにでもあってどこにも無いカード)に近い現象になっている、珍しい手順です。

パケットトリックでこのような構成になった作品は見たことがありますが、デック全部を対象にしたものは他に見たことないですね。

参考になる技法

カードスピニング(カードをブーメランのように飛ばす技法)と、各種ピーク(グリンプス)の技法が解説されています。

カードスピニングは、今日メジャーな指先で弾くようにして飛ばす方法ではなく、手首のスナップによって投げるやり方です。

この方法を熟達すれば、非常に長い距離を往復させることが出来るようになると聞いています。

サインされたカードがポケットから

サインされたカードをデックに戻して揃え、その直後にそのカードがポケットから出現する、というある意味単純なマジック。

この解説は実際には、ほとんどはダイアゴナル・パーム・シフトの解説に割かれています。

彼の行うこの技法は、アードネスのダイアゴナル・パーム・シフトのバリエーションです。

時は語る

時計の形に並べたカードの中から客のカードを当てるというマジックなのですが、よくあるセルフワーキング系統の手品ではありません。

他ではあまり使われたことのない、特殊な原理を用いることにより、借りたカードでも即席に演じることのできるマジックではあるのですが・・・これはかなり難しいです。少なくともわたしは失敗無く実演する自信はありません。

上手く演じることが出来れば、これは奇跡に近いと思います。

エースの1枚ずつの飛行

ダイ・バーノンによるスローモーション・4エーセスの、サイ・エンドフィールド流の手順。

バーノンのようにTフォーメーションではなく、パケットを四角形に並べます。

誰にも負けない賭博師

マジシャン対ギャンブラーのテーマのカードマジックです。

自由に混ぜたカードを、指先の感覚だけでコントロールするという、”ギャンブラーのテクニック”の実演を見せますが、最後にはそれらギャンブリングテクニックだけでは説明の付かないどんでん返しが待っています。

 

サイ・エンドフィールドのカードマジックの作品補足

この本はわたしにとっても非常に思い出深いもので、気に入った作品などの補足をさせていただきます。

 誰にも負けない賭博師

まず、この本の中で私が最も気に入り、実演回数も多いのは、最後の「誰にも負けない賭博師」です。

同じテーマのマジックにポール・ルポールの内気なクイーンや、ハリー・ロレインのマジシャン対ギャンブラーなどがありますが、サイ・エンドフィールドのこの作品はそれらよりは技巧の要素を多く含んだ手順だと思います。

しかし決して技巧のための技巧のようなところにおぼれることなく、技巧と効果が絶妙のバランスを保った傑作です。

この作品ウィザードインの柳田昌宏氏が演じているのを見たことがありますし、松田道弘氏の著書によれば、フレッド・カップスも彼流の改案を演じていたそうです。

それだけ、多くの人に認められている名作ということなのでしょう。

 専門家のための5枚のエース

サイ・エンドフィールドのカードマジック「コリンズエーセス」

「専門家のための5枚のA」(コリンズ・エーセス)

この手順は、日本における「コリンズ・エーセス」の源流のひとつだと思います。

若き日の松田道弘氏はこの本に載っているこの手順を何度も練習し、そのテクニカルな美しさに惚れこむとともに、一般人相手の実践にあたってマニアックな4Aトリックの限界をも感じた、という趣旨のことを書かれています。

松田氏が現在のようにカードマジックの道を追求される、原点のひとつとなったカードマジックなのかも知れません。

また、プロマジシャンのカズ・カタヤマ氏はコリンズ・エーセスをプロとしてのレパートリーに入れられていますが、氏にとってのコリンズ・エーセスの原点もやはり、このサイ・エンドフィールドの手順であったということです。

 貫通して変化するカード

この作品は比較的簡単でありながら、効果の高いマジックです。

日本で演じている人は個人的にあまり見ませんが、欧米では名作のひとつと見なされているようで、マイケル・アマーの「Easy to Master Card Magic」シリーズの第2巻に、この作品が収録されています。

脱出する銃士

この作品も比較的簡単にもかかわらず効果の高い手品です。

また、普通の一組のデックを用いるカードマジックですが、数人相手のクロースアップから、数十人相手のサロン規模まで対応できる実用性の高いマジックでもあります。

 

その昔、プロマジシャンの深井洋正さんがこの作品を演じられているのを見たことがあります。

またつい最近、同じくプロマジシャンであるカズ・カタヤマ氏によるこの奇術の演技を拝見する機会がありました。

かつてこの本が数少ないカードマジック教本のひとつであった時代を過ごした世代のマジシャンにとっては、共有される名作カードマジックなのかも知れません。

 

サイ・エンドフィールドのカードマジックの現在

「サイ・エンドフィールドのカードマジック」は現在、残念ながら絶版となっています。

原著の”Cy Endfield’s Entertaining Card Magic”はまだ入手しやすいですが、Amazonなどでは古書のみの販売となっており、Dover Booksのシリーズのようにそうたやすくどこでも買えるというわけではないようです。

 

また記事中で書きましたように、サイ・エンドフィールドの「ポケットに通うカード」については、「カードマジック事典」に解説されています。

もちろん事典ですから、元解説ほど詳細なものではありませんが。

 

ちなみに、「サイ・エンドフィールドのカードマジック」は、復刊ドットコムでのリクエスト対象に挙がっております。

復刊したら是非購入したい!という方は、投票されてみてはいかがでしょうか。

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コメント

  1. わたしはまだ持っていないのですが、『松田道弘のリスト』に入っている事もあり、購入検討中でいろいろ探しました。

    どうやら英語版でも、1~3に別れているものの他に、全部が合本になった版が存在するようです。これは詳細が判らず探求中です。

    手に入れるだけであれば、Lybrary.comでe-book版が出版されているようです。
    ただ写真が差し替えられているらしく、画面の組み方などがどうなっているかはわかりません。
    (あと差し替え後の写真のモデルが、個人的に嫌いなPaul Gordonなので、わたしはこれを買う気にはなりません)

      • Shanla Type2
      • 2012年 6月 04日

      英語版でも合本があるんですね。初めて知りました。
      e-book版があるのは見つけていましたが、写真が別の人になっているんですか。
      まあ私は金沢文庫版でじゅうぶん満足しているので、それを買うことは無いと思います^^;

      金沢文庫版のこの本が絶版なのは惜しいことです。トランプの不思議も復刻されたことだし、もしかして可能性はあるかな。
      しかし元々の版で、権利関係がクリアになっていたのかどうか、ちょっと心配ではありますが。

    • daihati
    • 2012年 6月 15日

    サイエンドフィールドのスローモーション4Aを練習していて、なんとなく、「このマジックってネットに載ってるのかな? どんなこと書かれてるかな? まあ、絶版だしないだろうな・・・・・・」という気持ちで検索していて引っかかりました。すごい詳しく書かれていて驚きです。僕は図書館で取り寄せてもらった部分的なコピーしかもっていないので、知らない部分もありました。
     すごい詳しい方だなと思ったら、shanlaさんでしたか。以前のサイトをとても参考にさせていただいていました。勝手ながら、すごい身近に感じてしまいました。
    4Aに関するところなどすごく面白かったです。
     最後に、僕はサイエンドフィールドの「専門家の~」などで使うバニッシュがすごく好きです。よくわからないんですが、好きです。

      • Shanla Type2
      • 2012年 6月 15日

      >daihatiさん
      以前のサイトもご覧いただいていたようで、ありがとうございます。
      サイ・エンドフィールドのスローモーションAを練習されているとは、通な方ですね^^ 私はその手順は昔ちょっと練習しただけで最近はやっていませんが、スローモーションAのテーマは好きなので、また思い出してやってみようかなと思っています。
      彼のコリンズエーセスはマニアックですが美しいですよね。バニッシュが好きという気持ち、分かります。
      なかなか一般の観客とは共有できない価値観かも知れませんが。

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  • @t_aldehyde 紙の書籍やレポートのどこかにある文言を探すのに、つい「Ctl+F」で検索して~と考えてしまう現象に名称はあるでしょうか。できたらいいな、ではなく、たまに素で一瞬そう思ってることが。
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