「カンガルー・コインズ」”Kangaroo Coins” by Dai Vernon ダイ・バーノンのスマートなコイン・スルー・ザ・テーブル

ダイ・バーノンによるコイン・スルー・ザ・テーブルの作品、カンガルー・コインズ”Kangaroo Coins”を紹介いたします。
コインズ・スルー・ザ・テーブルというコインマジックは、硬いテーブルをコインが貫通するという、誰にでも分かりやすく不思議なテーマで、コインマジックの古典として有名なものです。
近年の傾向としては、テーブル無しで、ビジュアルに見せられるマジックが好まれ、このようなクラシカルなコインズ・スルー・ザ・テーブルは若干時代遅れと見なされている印象も無いではありません。
しかしやはり、骨太の古典には時代を経て生き残った風格というか味わいがあり、きちんと演じれば現代でも十分通用することは間違いないです。
コインズ・スルー・ザ・テーブルについて
手順としてのコインズ・スルー・ザ・テーブルには、大きくわけて二つの系統があります。
ひとつは、バーノンの作品であるチャイニーズ・クラシックや、スライディーニの演技に代表されるような、複数枚のコインが一気に貫通する作品。
もうひとつは、アル・ベイカーの作品が源流となっている、コインを1枚ずつ貫通させるやり方です。
どちらにも一長一短はあると思いますが、今回ご紹介するカンガルー・コインズは、後者の系統に属する現象です。
名著「Stars of Magic」に発表されました。
カンガルー・コインズの演技
では、私が演じるカンガルー・コインズの演技をご覧下さい。
基本的なコンセプトは、アル・ベイカーの原案に近いものですが、カンガルー・コインズを最も特徴付けているのは、グラスを用いるということでしょう。
コインが貫通した瞬間、グラスに落ちる音がしますから、貫通の不思議さが聴覚によって際立ちます。
グラスを使う分、テーブルの下で行う仕事はアル・ベイカーの手順よりも増えているのですが、それを補って余りある効果はあると思います。
また、ラスト1枚の貫通に関しても、グラスを使った巧妙なミスディレクションが仕組まれています。
アル・ベイカーの手順などでは、この部分ではハン・ピン・チェンを使い、それはそれで非常に巧妙なものですが、カンガルー・コインのこのラストの処理も、それに勝るとも劣らない優れた解決法です。
個人的には、このラストのコインの処理こそが、カンガルー・コインズの一番の魅力だと思っています。
実際、このラストのアイデアは他のマジシャンの研究対象となっており、カナダのクロースアップマジックの大家、ギャリー・ウォレット”Gary Ouellet”は、このムーブを使った詩的なワンコインルーティンを発表しています。
右の動画の0:50あたりから演じている、「Silver Dust」という手順です。
カンガルー・コインズの名称について
オーストラリアにカンガルー・コインと呼ばれる金貨がありますが、一応演出としてこのコインが演技に使われたこともあり、関係はあるようです。
Stars of Magicのセリフ例では、コインが人から人へと次々に移ってゆくさまをカンガルーに例えて、カンガルーのように飛び跳ねるから、テーブルの上から下へジャンプするのだ、というような話が書かれています。
ダイ・バーノンの有名なエピソードに、次のようなものがあります。
彼がオーストラリア旅行中に、カンガルーと衝突する事故を起こしたそうです。
それで、ちょっと悪趣味な話ですが、そのカンガルーの死体に上着を着せて記念撮影をしたとのこと。
しかし、撮影中にいきなりそのカンガルーが生き返って跳ねて逃げてしまったため、上着に入っていたバーノンのパスポートなどが持っていかれてしまった、という話です。
カンガルー・コインの名称がこれと関係しているかどうかは分かりませんが、すくなくともバーノンはオーストラリアやカンガルーにそれなりの関心を持っていたのは確かでしょうね。
カンガルー・コインズを覚えることの出来る本など
カンガルー・コインズは、名著「Stars of Magic」に解説されています。
日本語版が1992年に発行されていますが、部数限定でしたので、今からは入手困難でしょう。
この奇術の元となったアル・ベイカーの手順については、松田道弘氏の「クロースアップ・マジック」という本が秀逸な解説でおすすめです。
この本は元々「即席マジック入門」として発行されており、長く絶版となっていた名著です。
fukkan.comより復刊され、上記の書名となりました。
映像では、L&L Publishingから出ている「コイン・スルー・ザ・テーブル」というDVDの中で、ギャリー・ウォレットによるカンガルー・コインズの演技と解説があります。

コメント
この記事へのトラックバックはありません。

この記事へのコメントはありません。