「アンビシャスカード」 ”Ambitious Card” カードテクニックの即興演奏

アンビシャスカード

アンビシャスカードは、カードマジックの中でもとくにポピュラーな手品で、プロアマを問わず、カードマジックを本格的にやるマジシャンなら必ずやると言っても過言ではないでしょう。
とくに近年のテレビ番組を通じたマジックブームの中で、常に視聴者の興味を引くマジックであり続けました。
前田知洋さんやふじいあきらさんの演技がとくに有名ですね。

Yahoo!知恵袋などの質問サイトでは、「真ん中に入れたカードが一番上に上がってくるマジックのタネを教えてください」といった系統の質問が1ヶ月以上なされなかったことは無いように見えます。

マジシャンの側でも、アンビシャスカードをカードマジックの鉄板ネタと考えている人は数多いです。
とくに若年層のマジシャンの間では、”アンビ”という略称で通るほど、メジャーな手品となっていますね。

 

アンビシャスカードの現象

アンビシャスカードの現象は非常に単純です。
「選ばれたカードが、一番上に上がってくる。」これだけです。

この単純さにより、あらゆる年齢層の観客に理解できるものですし、それを見た後の一般客が他人に現象を説明するのも容易です。
また観客がカードを選んだり覚えたりすることもなく、シャッフルもしないでいいし、カードを数えることも無い。
このような観客の負担の軽さも、多くの人に好まれる理由でしょう。

そしてアンビシャスカードのもうひとつの特徴は、同じ現象を何度も繰り返すことです。
一番上に上がってくるだけでなく、変化を付けるためにときには一番下に下がったり、表向きのままで上がってきたりすることもあります。
カラーチェンジ系の現象と組み合わせて演じられることも多いです。

以下の動画は、私が演じるアンビシャスカードの、最も単純なパターンのひとつです。

一般観客相手には、ここでやってるような3回ぐらいの手順が良いかも知れません。

「一番上に上がってくる」というアンビシャスカードの現象は、移動現象の一種に分類されます。
デック内部での位置移動ということですね。

そういうわけで、その他のカードの移動現象との親和性が高く、色々な移動系カードマジックと組み合わせられることも多いです。
代表的な例を挙げると、財布に通う、ポケットに通う、レモンの中から出る、カードケースの中から出る、小箱の中から出る、天井に貼り付く、グラスの下から現れる、などなど・・・
これらはどれも、アンビシャスカードの手順の中で演じられることがあります。

アンビシャスカード”Ambitious Card”という名称については、直訳すると「野心を抱くカード」ということです。
目立ちたがりで野心にあふれるカードであるから、真ん中に入れてもすぐに一番上に上がってくるのだ、という演出から付けられた名前ですね。

 

アンビシャスカードの方法論

ここで書くのはアンビシャスカードの方法ではありません。方法論です。

手品の一般原則として謳われる、いわゆるサーストンの3原則に、同じ現象を繰り返してはならないというのがあります。
上に上がる現象を何度も見せるアンビシャスカードは、この原則に真っ向から逆らうようなプロットです。
どのような原則にも例外があるというよい例で、アンビシャスカードにおいては繰り返すことで、より現象の面白さが強調される特徴があるのです。

もちろん同じ方法を何度もただ繰り返すのではいけません。
その点はアンビシャスカードとて、3原則に則っています。
そうではなくて、見た目は同じに見えながら、実際には少しずつ方法を変えて見せてゆくことによって、個々の方法が持つ弱点をお互いに補完して、全体として強固な説得力を生み出すのです。

見た目は同じように見せながら、実際には少しずつ異なる方法を組み合わせて用いるという方法論は、マジックの世界ではよく用いられますが、中でもアンビシャスカードはその典型例です。
カードマジックにおいては、同じような考え方でサインドイッチ現象を繰り返して見せるような演技も見たことがありますが、やはりアンビシャスカードのシンプルさこそが、この方法論にはふさわしいでしょう。

 

またアンビシャスカードは、複数の独立したフェーズの集合体のような手品であるため、全体として決まった形が無いというのも特徴です。
演じるマジシャンの数だけ、アンビシャスカードのバリエーションがあるといわれる所以です。

組み合わせるメソッドの内容や数によって、短くも長くも出来ることから、その場の雰囲気に応じて即興で組み立てる、ジャズでいうインプロヴィゼーション(即興演奏)のような面があります。
自分の気に入ったアンビシャスカードのメソッドをいくつも覚えておくと、自分の演技のバリエーションも広がるでしょう。

 

アンビシャスカード全部乗せ

アンビシャスカードはある意味で技巧の塊のような手品であり、カードコントロール、スイッチ、チェンジ系統の技法なら、どんな技法でも適用できると言っても過言ではないでしょう。

アンビシャスカードというひとつのプロットに適合する自分の技巧をいくつもコレクションしておいて、その中から観客の反応や状況に応じて、何を繰り出すかを考えてゆく。
そういうアドリブ的楽しさがあります。

また色々な技法が使えるという意味で、技法の練習曲的な手品としても最適ですね。
以下の動画はそういう意味で、現在の私がアンビシャスカードに使う可能性のある技法をほとんど盛り込んだ、”アンビシャスカード全部乗せ”の演技です。

基本的にはダローの手順に含まれているものが多いです。

まあこれで完全に全部ってわけでもないですけどね。
効果がかぶる技法もありますし。
とくにクライマックス用の手順には、併用は出来ない(やらない)ものもたくさんありますし。
※アルティメット・アンビションの後にカード・トゥ・ウォレットとか、どう考えても蛇足ですよねw

それでもこれは長すぎますよね。
この演技をこのとおりそのまま観客の前でやることは、よほどの場合でないとありません。
あくまで自分の手持ちのメソッドがこれだけある、と確認する意味であって、この中から適宜状況に応じて短くしたり長くしたりして演じるわけです。いや、これより長くはなりませんけどね。
そういう意味では、1つのパターンだけでなく、メソッド相互の順番を変えたりして練習しておくのも良いと思います。

 

アンビシャスカードの功罪

アンビシャスカードは確かに誰が演じても分かりやすく不思議で、カードマジックの中では鉄板ネタと言われるのもうなずけます。
しかし、だからこそ安易にいつでもどこでもアンビ、という単純な考えからは一歩置く思慮深さが必要にも思えます。

わたしがテーブルホッピングをやっていた頃に研究会でお世話になったベテランマジシャンの方は、「テーブルホッピングでは安易にアンビシャスカードを使わない。本当に大切な瞬間のために取っておく」といったことを仰っていました。

どんなマジシャンのレパートリーの中でも、少々の悪環境でも受けを取れる、という意味ではアンビシャスカードは上位に来る資産でしょう。
そう考えたとき、自分が余裕を持って演技できるとき、演出に充分力を入れることが可能な場合などには、あえてアンビシャスカードは使わないということも、賢明な選択といえるでしょうね。

アマチュアでも、例えば何度もマジックを見せる機会のある相手に対して、初対面でアンビシャスカードを見せてしまうと、それ以降に見せるどのレパートリーも、インパクトで上回ることが出来ないというハメにもなりかねません。
鉄板ネタだからこそ、使うときを選びたいものです。

 

アンビシャスカードを学ぶための資料

アンビシャスカードを学ぶ資料として、主なものを紹介します。

アンビシャスカードを学ぶことの出来る本としては、まず「カードマジック事典」があります。
これにはダイ・バーノンの手順とポール・ハリスの”Solid Deception”が載っていますが、いずれもかなり特殊な手順です。
バーノンのアンビシャスカードはクラシックと見なされてはいますが、サッカートリック的なフェイクムーブなどが多く含まれており、うまく演じるには演技力など総合的な力量が必要でしょう。
“Solid Deception”も傑作ですが、現在ではオムニ・デックが使われることのほうが多いため、この原案そのままの演技はあまり見ません。

その他、「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」には、基本的なアンビシャスカードの手順が解説されています。
まず最初にアンビシャスカードを覚える日本語書籍としては、これが良いのではないでしょうか。

松田道弘氏の「あそびの冒険シリーズ1巻:トランプマジックスペシャル」には、主にダブル・リフトを基軸としたアンビシャスカードの歴史ややり方が解説してあります。
歴史上のいろいろなマジシャンのアンビシャスカードの手順や、ダイ・バーノンがフーディニを引っ掛けたアンビシャスカードの解説などがあって興味深いものです。

日本語書籍では様々な本に散発的な解説があるのみですが、洋書ではアンビシャスカードのみを扱った専門書が出版されています。
ダローによる「Ambitious Card Omnibus」です。
この本はダロー自身がFISMで1位を取ったときの手順から始まり、売りネタの”Ultimate Ambition”を含む60種類近くのアンビシャスカードのメソッドが写真付きで解説されているものです。
残念ながら絶版であるようです。

映像では、上記と同じくアンビシャスカードで有名なダローによるDVD、その名も「アンビシャス・カード」が出ています。
これは上記の「Ambitious Card Omnibus」に準じた内容で、書籍よりは収録件数は少ないですが、多数のアンビシャスカードのメソッドが解説されています。
嬉しいことに、スクリプト・マヌーヴァ社によって日本語化されています。
今のところ、日本語で学べるアンビシャスカードの教材としては、これが最も充実したものでしょう。

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