「デビリッシュ・ミラクル」エドワード・マーロー “Devilish Miracle” Edward Marlo

当サイトではすでに数十種類のカードマジックを紹介してきましたが、確認してみると今までにエドワード・マーローの作品をまだ1つも紹介していませんでした。

 

エドワード・マーローはカードマジックにその生涯をささげた、文字通りカーディシャンと言える研究家で、ダイ・バーノンと並んで20世紀のカードマジックに大きな足跡を残した巨匠です。
彼の名前はエドワード・マルロー、エド・マルローなどとも表記されます。
そもそもカーディシャン”Cardician”という言葉自体、1953年に出版された彼の作品集に付けられた造語の題名で、そもそもはカーディシャンとはエドワード・マーローのことである、と言っても差し支えないぐらいです。
バーノンがカード、コイン、カップ&ボールその他、マジックのあらゆるジャンルに傑作を残したのに比べて、マーローの主な業績はカードマジックに集中しています。

 

さて、そんなエドワード・マーローのカードマジック傑作はオイル&ウォーターやエレベーターカードなど多岐にわたりますが、今回ご紹介のデビリッシュ・ミラクルもそのひとつです。
Youtubeで”Devilish Miracle”と検索しても、弟子筋にあたるビル・マローンによる演技動画が一つヒットする程度なので、それほど広く演じられているとは言いがたいのかも知れませんが、個人的には彼の代表作のひとつだと思っています。

 

ちなみに記事ヘッダーの画像は、ミシャエル・パッハー作「聖アゴスティーノと悪魔」という1480年頃の絵画です。
“Devil”すなわち悪魔つながりということで借用してみました。
マーロー&ダミコによるオリジナルのパンフレットの表紙にも、悪魔が召喚されているような場面のイラストが描かれています。

 

デビリッシュ・ミラクルの内容

わたしの演技動画をアップしてありますので、まずはよろしければご覧ください。

 

>>動画リンク<<

 

世の中にカード当てのマジックは数多いですが、2人の観客のカード当てを効果的につなぎ合わせて見せる手順は意外と少ないです。
そんな中でも、意外な形で2人目のカードが出てくるこの作品はわたしのFavoriteのひとつです。

 

Open Traveler/Invisible Palm Acesでもそうですが、この「見えないカード」という演出が私は非常に好きなのです。
いかにもありえなさそうで、バカバカしくもある演出を大真面目に演じて、それが一定程度信じざるを得ない事象が現出する。
この、視覚的な不思議とバカバカしさのバランスのさじ加減が、個人的には奇術の最大の醍醐味のひとつです。

 

なお、この動画の演技はマーローの原案そのままではなく、バリエーションである高木重朗氏の「デビリッシュリー・ダイレクト」のセットアップ手順を取り入れています。
原案ではこの部分は即席Duplicateを使用したりして、かなり疑り深いマニアの目を騙すことを意図したような、複雑な手法が取り入れられているように思えました。
その後”見えないカード”以降の部分のハンドリングは、ほぼ原案の通りです。

 

この手順でおそらく最大の見せ場は、1枚目のカードがデックに戻るところでしょう。
そこに至るまでの、”見えないカード”の演技では、観客はマジシャンのバカバカしいセリフに付き合いつつ、「おそらく何かテクニックを使ってカードを隠しているに違いない」と予想します。
しかしその予想を完全に裏切る形で、手元にあったはずのカードがデックに戻る。
そこから2重のクライマックスに向けてたたみかけられます。

 

このプロセスは一種のDelayed Climax的なものであり、またタイム・ミスディレクションの一種とも思えます。
客のカードが消えたり見えるようになったりといった現象を何度か見せる一連のプロセス自体が、確かに自分のカードがそこにあるということを強調する心理作戦にもなっている面がありそうです。

 

このような観客の心理操作は巧妙で、主にはマジシャンの観客向けの戦略でしょうけども、一般観客にも十分通用するものです。
ただ、やはり”見えないカード”という演出は非常識でバカバカしいものですから、観客の知性を軽視する印象を抱かれないような配慮は必要です。
そのへんはパーソナリティにもよりますが、多少おどけるような感覚で、しかし演技そのものは大真面目にやる、というような感じになるでしょうか。

 

わたしにとってのデビリッシュ・ミラクル

わたしがデビリッシュ・ミラクルという作品の名前を初めて知ったのは、どの本だったか忘れましたが確か松田道弘氏の著書においてでした。おそらく20年ほど前のことでしょうか。
その本で松田氏が高木重朗氏のことを紹介する文章の中で、「愛おしむようにしてデビリッシュ・ミラクルなどの奇術を何度も練習しておられた」というような趣旨のことを書かれていたと記憶しています。

 

確かその文章はトライアンフ関連の内容で、上述の記載も高木氏とトライアンフとの関連という文脈で語られていたような印象でした。
この記載が印象に残っていた私は、デビリッシュ・ミラクルをトライアンフ現象の一種であろうと認識して探していましたが、なかなかその方向では情報は見つかりませんでした。

 

その後実際には、デビリッシュ・ミラクルそのものよりも先にバリエーションのほうを知ることとなってしまいました。
1992年に日本語版が出版された、リチャード・カウフマン著「高木重朗の不思議の世界」原題:”Amazing Miracles of Shigeo Takagi”です。
この本に掲載されたデビリッシュリー・ダイレクトという作品はデビリッシュ・ミラクルのバリエーションで、現象のアウトラインはほぼ同じですが、かなり簡略化されたものです。
松田氏の著書において言及された、「高木氏が練習を繰り返されたデビリッシュ・ミラクル」というのが、実際にはこの手順だったのか、マーローの原案だったのかは分かりません。

 

上記と多少前後して、1992年に発行されたJon Racherbaumer著 “Flashpoints: Edward Marlo’s Full Tilt and Compleat Devilish Miracle”という本を手に入れました。
この本は、ティルトという技法とその関連アイデアを徹底的に解説した前半部と、1948年にカーメン・ダミコとの共著で売り出されたパンフレット、”Devilish Miracle”を合わせた本です。
なぜこの2つが1冊にまとめられているのか分かりませんが・・・
この本で初めて私は、マーローのオリジナルのデビリッシュ・ミラクルの姿を知ることができたというわけです。

 

デビリッシュ・ミラクルを解説した文献等

原案は元々1948年発行のワン・トリックのパンフレット”Devilish Miracle”に解説されましたが、これはなかなか入手困難でしょう。
上に書きましたように、1992年に発行されたJon Racherbaumer著 “Flashpoints: Edward Marlo’s Full Tilt and Compleat Devilish Miracle”には上のパンフレットがまるごと含まれており、今日ではこちらの本が比較的入手しやすい文献かと思います。

 

日本語では、原案に比較的近い形の手順が、松田道弘著「ミラクル・トランプ・マジック」に解説されています。
一時絶版でしたが、近年復刊ドットコムで復刊されました。
ただ、最近はまた新品の販売を見なくなっているので、再び絶版となっているかも知れません。
ミラクル・トランプ・マジック (松田道弘 あそびの冒険)(Amazon)

 

また、上で言及しました高木重朗氏のバリエーションは東京堂出版「高木重朗の不思議の世界」に掲載されています。
しかしこれは絶版ですので、現時点では古本を買い求めるしか入手方法はなさそうです。
高木重朗の不思議の世界(Amazon)

 

日本語で解説されたその他のバリエーションに、ブラザー・ジョン・ハーマンの「悪魔の技」”A Devilish Miracle Retold”があります。
これは彼の作品集「ブラザー・ジョン・ハーマン カードマジック」に掲載されています。

 

映像では、マーローの弟子にあたるアメリカのプロマジシャン、ビル・マローンによる6巻組のDVD「Malone Meets Marlo」1巻に収録されています。
またイギリスのマジシャン、マイケル・ヴィンセントによるDVD「The Quest for Mastery」にも演技のみ収録されています。

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コメント

    • カズ・カタヤマ
    • 2013年 1月 21日

    マジックランドで、高木氏翻訳のパンフが販売されていました。原案の書かどうか、手持ちのが行方不明でわかりませんけど。

      • Shanla Type2
      • 2013年 1月 21日

      >カズ・カタヤマさん
      コメントありがとうございます!

      高木氏が翻訳されていたのですか。
      貴重な情報をありがとうございます。

      原案のセットアップ部のハンドリングはあまりに対マジシャンを意識しすぎのような気もするので、高木先生の訳であれば適宜アレンジされているかも知れませんね。
      カードマジック事典でもコインマジック事典でも、先生の著書では原案を尊重というよりは、やさしく出来る形で紹介する、という方針が見えますし。

    • いちしげ
    • 2013年 1月 22日

    「Malone Meets Marlo」は6枚組みではないでしょうか?
    https://www.frenchdrop.com/detail?id=2312

      • Shanla Type2
      • 2013年 1月 24日

      >いちしげさん
      確かにそうでした。確認不足失礼いたしました。
      本文のほうも訂正させていただきました。ご指摘ありがとうございます。

  1. いつも楽しく拝読。マジックは、大好きなだけでたいした知識の無い私は、貴記事に感心しながら、動画にビックリしながら楽しませて頂いております。今回のトリックもすっかり忘れていたものですが、途中で松田氏の本のことが頭に浮かび、とりあえず引っ張り出してから残りの文章を、読ませて頂きました。当時松田氏ご紹介の技法「ザ・オートマチック・ジョグ1」には、ビックリ。あれとあれが、ワン・タッチであの位置にくるとは!!今トランプを、手にして何とか手順を、思い出した次第です。読まずに積んでおいた高木氏「デビリッシュリー・ダイレクト」ハーマン氏「悪魔の技」も読むつもりです。向後ともよろしく楽しませて頂けます様。

      • Shanla Type2
      • 2013年 1月 24日

      >菊池孝人さん
      ご訪問ありがとうございます。
      以前のサイトでもお世話になっていた菊池様に、今回の新しいサイトも気に入っていただけたなら望外の喜びです。

      記事を書く際には、少なくとも日本語化された情報についてはなるべく体系的に網羅しようと努力はしていますので、その過程で自分の学びがあることもしばしば。
      今回のハーマン作「悪魔の技」もその例で、この記事を書くまでは関連作品として認識していませんでした。
      このテーマは好きなテーマなので、「悪魔の技」もそのうち紹介したいと思っています。
      「デビリッシュリー・ダイレクト」も動画はYoutubeに上げてあるので、そちらも近いうちにサイト記事にします。

      今後ともよろしくお願いします。

    • 峯崎浩一
    • 2013年 4月 13日

    そういえば昨日、カタヤマさんとやりとりしてた様子でしたが
    差し支えなければ教えていただけますか?

      • Shanla Type2
      • 2013年 4月 13日

      一番上のコメントで仰っていた解説書が見つかったので、昨日の機会に持って来ようと思っていたのだけども、つい忘れてしまった、というようなやり取りでした。
      そこまで気にかけていただいて有難いことです。

    • 峯崎浩一
    • 2013年 4月 13日

    なるほど、そういう事でしたか。ありがとうございます。
    片倉さんの件といい、楽しみな話題が多く良いですね。

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    about 1週間 ago
  • 「virtuoso」という言葉、高校生か大学生くらいの頃にパガニーニの話を読んで、自分が将来奇術作品集を出すなら是非題名に使ってやろうと思ってた。けど、メーカー名で使われてしまったな。 まあvirtuosoと呼べるような技術は私には付いてないので、どっちにしても使えないんだけど。
    about 3週間 ago

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