「ヴィジター」ラリー・ジェニングス “Visitor” by Larry Jennings ジェニングスの代表作のひとつ

幼少時、ヴィジターという言葉はアメリカの同名のテレビドラマの題名として覚えました。

人間の皮を被った爬虫類型宇宙人による地球侵略を描いたドラマで、確か映画化もされていたと思います。

 

ラリー・ジェニングスの代表作といえば、オープン・トラベラーがもしかすると第一に来るかも知れませんが、それに勝るとも劣らずよく知られた傑作カードマジックが、ヴィジターです。

 

上記テレビドラマの記憶もあって、カードマジックの題名でビジターというのを初めて聞いたときは、語句の短さもあいまって、何か神秘的な印象を感じてしまいました。

まだマニアになりたての頃、京都のマジックショップ「マジカルアートクリエーション」で、Nさんというマジシャンの方から見せてもらいました。

全くありえないように思える移動現象を見せられた後、それが用具として売られている商品ではなく、「カードマジック入門事典」に載っていると教えられたのも驚愕でした。

その後「カードマジック入門事典」を購入した、一番の動機でもあります。

 

ラリー・ジェニングスのヴィジターは、1枚のカードの移動という昔からある基本的な奇術現象を、斬新なアイデアで解決した傑作で、多くのマジシャンによって演じられ、また改案も作られ続けている作品です。

 

「ヴィジター」の現象

ラリー・ジェニングスによるヴィジターの原案を、私の演技で動画にしてみましたので、よろしければご覧ください。

 

>>動画リンク<<

 

アイデアの元は、従来からあるサンドイッチ・エフェクトです。

ただしいわゆるサンドイッチ・エフェクトでは、選ばれたカードを2枚のカードの間に出現させることによって、当てることを趣旨としています。

このヴィジターでは、カード当ての要素は無くなり、出現と消失がテーマとなっています。

 

トリック全体としてはカードの移動現象となってはいますが、この奇術の一番の創作意図は、出現と消失の鮮やかさ、不可能性にあるような気がします。

最初の出現現象の不可能性を高めるために、前もって色違いの絵札の間に、疑いなく選ばれたカードを挟んでおくといった手続きになるわけです。

 

さらに、現象の構成を客観的に見ると、それは選ばれたカードが行って戻るという、2回の移動現象となっています。

しかし実際に見た観客の印象は、2回の移動というものとはかなり異なるものでしょう。

むしろ、手順の最後で自分のカードが始めの場所から動いていないということを示され、一瞬前に見たサンドイッチ状態での出現そのものがまぼろしであったかのような感覚です。

 

この奇術の原題は単に”Visitor”ですが、「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」では、「まぼろしの訪問者」と題して紹介されています。

単なる移動現象ではない、一瞬の幻覚を見たような印象さえ残すこのマジックの特徴を、よく表したネーミングですね。

 

なお、上記動画では最初の移動をセリフだけで済ませて実際には示さず、その後戻したと言って何もないことを見せる、マジックではよくあるギャグを取り入れています。
このギャグは「カードマジック入門事典」などの解説にはありませんが、Mike Maxwell著のラリー・ジェニングスの集大成とも言える作品集”Classic Magic of Larry Jennings”の解説には含められています。
恐らくラリー・ジェニングス本人もこのギャグを取り入れて演じることが多かったのだろうと思います。
参考にしてみてください。

 

「ヴィジター」の手順構成的な特徴

ラリー・ジェニングスのヴィジターを、他のサンドイッチ・エフェクトやカードアクロスなどの移動現象もろもろから際立たせる特徴は、2つあると思います。

 

そのうちのひとつは、イギリスのマジシャンロイ・ウォルトンによって創案されたアイデア、”Walton Display”の援用です。

1組のサンドイッチから、別のサンドイッチの間への移動というヴィジターのプロットを考えるとき、まともに古典的標準的な手法で解決しようとすると、PalmやSide Stealといったダイレクトなメソッドを採ることになるでしょう。
またそうでなければ、Duplicate Cardの使用もすぐに思いつきそうな方法です。
しかしヴィジターでは、これらのいずれの手法も忌避するところから発想が始まっているようです。
そのために採用されたのが、いわば即席Duplicateとも呼べそうなWalton Displayの援用です。

 

またもうひとつの特徴は、選ばれたカードが一旦移動した後に、また逆戻りする際に用いられるムーブです。
こちらのムーブは、とくに名称が付けられてはいないようですが、恐らくラリー・ジェニングスの創案になるものでしょうか。
パケット同士の間でのカードの移動を表現する場合には適したムーブで、他のいろいろな手順に使用されている例を見かけます。
”1枚のカードの移動”という目的のイメージに拘泥しない、発想の転換のようなムーブで、個人的にはWalton Displayの使用以上に天才的にさえ思えます。

 

これらのアイデアが理想的な形でシンプルなプロットに結実し、カードマジック史に残るヴィジターという傑作が生まれたわけです。

 

「ヴィジター」を解説した文献等

ラリー・ジェニングスによるヴィジターの原案は、高木重朗、麦谷眞里両氏編「カードマジック入門事典」に解説されています。

この本は入門の名前を採りつつも、技法を駆使した結構本格的な作品も収録されていますが、このヴィジターもそのひとつですね。

 

他には、加藤英夫著「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」にも、「まぼろしの訪問者」と題して解説されています。

 

これら2冊の掲載手順は、微妙に異なっていますが、「カードマジック入門事典」掲載の手順のほうが”Expert Card Mysteries”に解説された原案に近いようです。

 

洋書では、オリジナルのAlton Sharpe著”Expert Card Mysteries”のほか、Mike Maxwell著”Classic Magic of Larry Jennings”にも解説されています。

また”Classic Magic of Larry Jennings”には、ジェニングス自身による改案作品が2種掲載されています。

 

このマジックはラリー・ジェニングス以外のマジシャンによって多くの改案が作られ発表されていますが、それらについてはまた別記事として紹介したいと思います。
(この記事の続編として、2種類のバリエーションを紹介しました。よろしければこちらもご覧ください。→ヴィジターの改案2題

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コメント

    • 長谷部 喬大
    • 2013年 6月 15日

    知恵袋でコメントをしていただきてもらいましたものです。
    以前、修学旅行でマジックショップに行こうと思ってマジカルアートクリエーション
    にいったところ、「閉店」の二文字。
    残念すぎます。

      • Shanla Type2
      • 2013年 6月 15日

      わたしもマジカルアートの閉店は、知恵袋で初めて知りました。
      かつて京都に居た頃は長くお世話になった店だけに、残念です。

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