コインマジック

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「コインズ・アクロス」 “Coins Across” コイン移動の基本現象

コインズ・アクロスとは、手から手へコインが移動するマジックの総称です。
「手から手へ」ということで、通常はマジシャンの両手を使うことが多いですが、観客の手へ移動するというタイプの手順も数多くあります。
”移動”はコインで表現できる基本的な現象のひとつで、コインマジック全体の中でもコインズ・アクロスは一大ジャンルを形成しています。

 

これまでに当サイトで取り上げたコインマジックにも、コインズ・アクロスに分類される作品はいくつかあります。
ウイングド・シルバーPassing the Half Backs天海ペニーズあたりはそうですね。
同じコインの移動現象でも、手から手へではなくテーブル上のカードの下で移動する、マトリクスなどはまた異なるジャンルと見なされています。

 

ウイングド・シルバーも天海ペニーズもクラシックとして有名な作品ですが、今回は最もプレーンな形と(個人的に)思われる、コインマジックのひとつの標準形としてのコインズ・アクロスを取り上げてみたいと思います。

まず始めに今回の主題となる”標準的”コインズ・アクロスを紹介してから、その次にコインズ・アクロス全体の類型整理を試みてみたいと思います。

 

コインズ・アクロス

基本的なパターンのコインズ・アクロス手順を動画にしてみましたので、よろしければご覧ください。

 

 

コインズ・アクロスといえば最近ではスリー・フライのほうがメジャーになっている感もありますが、わたしの中では最も典型的なコインズ・アクロスらしいコインズ・アクロスといえばこの4枚タイプです。4枚タイプといえばウイングド・シルバーなども有名で、あちらも綺麗で練習しがいのある手順で好きなのですが、今回の動画のようなタイプも各移動の手法を自分の好みで変化させることが出来るので好きです。

 

全体の方法論としては、以前紹介したロス・バートラムのPassing the Half Backsと同系統の手順です。ただバートラム作品ではラストに意外などんでん返しが設定されているのに対して、今回の手順ではそういうものがなく最後まで予定調和的に移動します。この種のコインズ・アクロスに用いられる手法の中では、Han Ping Chenは説得力の強いものですから、手順の後半に用いられることが多いですね。

 

全部を同じ技法で構成しても良し、4回すべて異なる手法を用いても良し、慣れてくればある種の即興演技として演じることも出来るテーマです。また、技法の練習曲のような形でも、好きな手順を組み立てることが出来るでしょう。

 

このタイプのコインズ・アクロスを私が最初に学んだのは、John Mandozaのビデオ”JOHN MENDOZA’S LIVE”の中ででした。当時本格的なコインマジックもほとんど知らない状態でこの手順を頑張って練習し、マジックショップのマジシャンの方から初めて 「それなら実演で通用するだろう」と評価していただいたときの嬉しさは忘れません。

 

なお、動画のように両手をテーブルの上で演じればコインズ・アクロスですが、同じことをテーブルの上と下で演じればコインズ・スルー・ザ・テーブルとなります。以前紹介したカンガルー・コインズのように、スルー・ザ・テーブルならではの方法を用いたものも多いですが、本質的にはコインズ・アクロスとコインズ・スルー・ザ・テーブルは同系統の手順と言えるでしょう。

 

コインズ・アクロスの類型:枚数による区別

ここではコインズ・アクロスの簡単な類型整理を行いますが、あくまで個人的な考えで整理するものであって、この考え方が絶対だと主張するつもりは全くありません。
また、コインズ・アクロス全体を漏れなく網羅するものでもありません。あくまで代表的な例をつまみ食いという趣向です。

コイン1枚

1枚でももちろん手から手への移動は表現できますが、単に1回移動させて終わりというのでは手順構成上味気ないので、数回の消失・出現を演じるパターンとなります。
このタイプは、コインズ・アクロスというよりもワン・コイン・ルーティンということで、また少し異なる現象と見なされています。

 

コイン2枚

このタイプでは、2枚を使って2回の移動を見せるというのではなく、両手に1枚ずつ握った状態から片手に2枚が集合する、というものが多いですね。
つまり移動の回数としてはワンコインと同様なのですが、この2枚使用タイプではそれでも移動現象の奇術として十分成立している印象です。

 

思うに、最初から2枚を両手に握ることによって、出発点と到着点が観客の意識の中で明確となり、単に1回移動させるだけでもアピールしやすいということでしょうか。
それともうひとつの見方としては、1枚のアクロスだと単発の技法を行っているのと変わりなく、手順としては発表しにくいという面もあるかも知れません。
2枚であれば1枚よりは手法にも変化を付けることが出来、独創を加える余地があるということですか。

 

コイン2枚タイプの代表的なコインズ・アクロスは、天海ペニーズや、テン・カウント・コインズ・アクロスなどです。

 

コイン3枚

コイン3枚を用いるコインズ・アクロスはスリー・フライと呼ばれ、現代コインマジックの花形テーマのひとつとなっています。
3枚という枚数は一連の手順として演じるに十分な変化を表現できて、なおかつ4枚ほどは扱いが重くない。従って、コインを握るのではなく指先につまみ持ったままで演じるのに適した枚数と言えます。
この特質から、スリー・フライの手順の多くはコインを指先につまんだままで演じられるもので、別名Fingertip Coins Acrossとも呼ばれています。
手のひらに置いてコインを示すよりは、指先に摘んだほうが遠目にもアピールできます。このへんが、ビジュアルなマジックが好まれる現代のマジックシーンで流行している所以でしょうね。

 

コイン4枚

4枚はある意味最もオーソドックスな枚数です。コインアセンブリにしろコインズアクロスにしろ、4枚を標準とするマジックは数多いです。4角形を構成する枚数でもありますし、起承転結にもそぐう、などの要因があるでしょうか。

 

このタイプでは、3フライとは異なり手の中に握って移動させるものが多いですね。
今回の記事で紹介した手順もそうですし、有名なウイングド・シルバーやシルバー・クイック、Passing the Half Backsなどの手順もこの分類です。

 

コイン5~6枚

コイン4枚の手順では1枚ずつの移動を見せるのが主流な印象ですが、5~6枚を用いる手順では両手にそれぞれ2~3枚のコインを握った状態から、片手に一気に全部のコインが集まるという形が多いです。つまり、コイン2枚で演じるパターンと同様の現象を、多数のコインを用いて豪華に演じるということです。

 

このタイプは1回で終わるというよりも数回繰り返したり、スルー・ザ・テーブルと組み合わせられることもあります。手法としては、HPC(技法名ゆえ伏字です)を用いるものなどが典型的です。

 

コイン7枚以上

7枚とか8枚以上になると、すべてのコインを1枚ずつ移動させるというのは冗長に過ぎます。従って、まず初期状態で両手に4枚ずつ握った状態から1枚ずつ移動する、というような形が多いです。
両手が同数状態から開始することで、増減が観客に分かりやすいという利点もあります。
4枚や3枚タイプのように、第1段でゼロからの出現(何もない手への飛行)を表現する部分は、意外と難しいものです。その点、この多枚数タイプの手順はマジックをやったことがない人にも、比較的取り組みやすい気はします。
Eddie Fechter、Michael Skinner、Brian Gillis、Fred Kapsなどがこのタイプのアクロスを演じていました。

 

コインズ・アクロスの類型:原理・手法による区別

こちらの類型整理は手法や原理によるということで、種明かしではないものの若干秘密の概念に触れる記述も出てきます。従いまして、申し訳ありませんがこの節だけ限定公開とさせていただきます。

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ノーエキストラ

エキストラコインとは、観客に気づかれないように隠し持った余分なコインのことです。ノーエキストラとはそれを用いない、つまり見た目の枚数と実際に使う枚数が一致している形のことです。3枚なら3枚のみ、4枚なら4枚のみを用いる手順です。

 

方法論としては、観客が思っているよりも1テンポ早くコインを移動させる、ワン・アヘッドの考え方が多いです。今回の動画で紹介した標準手順はこのタイプです。コインのワン・アヘッドに使える技法は各種スチール、パス、ハン・ピン・チェン系技法、クリックパスやポップアップムーブなど、コインマジックの技法の多数が適用可能です。このあたりの理由から、ワン・アヘッドの方法論では自分の好みの手法を使って手順を組み立てる自由度が高いですね。

 

ワン・アヘッド以外には、2枚先行させるツー・アヘッド、逆に1枚遅らせるワン・ビハインドとでも言うべき方法論も存在します。
ワン・ビハインドの手順で特筆すべきは、マイケル・ギャローの作品”New Wave Coins Across”でしょう。ここでは1枚少ないコインを用いることによって、左右それぞれのコイン確認時に、間違いなくあるべき枚数しかないことを確認させられる手順となっています。

 

ワン・アヘッドやツー・アヘッド、ワン・ビハインドは基本的に1枚ずつの移動を見せる手順の概念です。それ以外のものとしてはハン・ピン・チェンとその系統の方法論がありますが、こちらの場合もノーエキストラで演じられる手順がほとんどです。上述した”New Wave Coins Across”は1枚ずつの移動ですが、ハン・ピン・チェンの類似技法であるGallo Pitchを非常に効果的に用いた傑作でもあります。

 

エキストラコイン使用

エキストラコインを用いると、余分なコインを使う負担は増しますが、移動現象のクリーンさも向上します。このコンセプトの4枚の手順ではウイングド・シルバーが有名です。またスリー・フライの手順も、多くはエキストラコインを用います。

 

シェルコイン使用

シェルコインの使用というのは、広義に捉えればエキストラコインの一種とみなすことが出来ます。しかしこのギミックの特質により、好きなタイミングでエキストラを他のコインと一体化させて隠蔽できる点が大きなアドバンテージです。そのため、単なるエキストラコイン使用では考えられないような公明正大なハンドリングで移動現象を見せることが可能です。

 

シェルコイン使用タイプの手順は、3枚と4枚の手順に多い印象です。2枚では通常はわざわざこんなものを用いるまでもなく、5~6枚以上では煩雑になりすぎるという理由でしょうか。
このカテゴリーで有名な作品といえば、デビッド・ロスのその名もシェル・コインズ・アクロス、デレック・ディングルのシルバー・クイック、ジェフ・ラタの”Slippery Silver”、Homer Liwagの”Coin One”などがあります。

 

その他のガフコイン使用

コインズ・アクロスに用いられるガフコインといえばシェルが最も一般的ですが、それ以外のコインを用いたものもあります。
まずフリッパー・コインはある意味でシェルと似た働きをするとも言えるので、使用例は結構あります。フリッパーコインと類似の使い方で、フォールディング・コインを使ったコインズ・アクロスもあります。またCSBコイン、通常スリーコイントリックと呼ばれるギミックも、コインズアクロスへの使用例があります。

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コインズ・アクロスを解説した文献等

東京堂出版の「コインマジック事典」にはコインズ・アクロス①~⑦まで7種類の手順が載っています。
①は上の類型でいう8枚タイプの手順、②はウイングド・シルバー、③はシルバー・クイック、④は高木重朗氏の4枚による手順、⑤はテン・カウント、⑥は天海ペニーズ、⑦は天海ペニーズのザローによる派生作品です。

荒木一郎氏の「テクニカルなコインマジック講座」には、氏のオリジナルハンドリングによるウイングド・シルバーが解説されています。

また東京堂出版の「世界のコインマジック」にも色々載っています。この本の中では、デビッド・ロスとジェフ・ラタのそれぞれ「飛行するコイン」、ラタの「観客の手に飛行するコイン」、「アイロン・カーテン」、「オープン・トラベラーズ」はコインズ・アクロスのカテゴリに入るでしょう。

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