カードマジック

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エドワード・マーローのエレベーター・カード “Penetration” by Edward Marlo エレベーターカードの原型手順

「指を鳴らすと、お客様のカードが一番上に上がってきます。」

 

近年、前田知洋氏やふじいあきら氏をはじめとしたマジシャンによる、テレビでの演技でメジャーになったカードマジック、アンビシャスカードのセリフです。

 

一組のトランプの中で、特定のカードが上下移動を見せる、というプロットではアンビシャスカードが代表的なものです。

 

そしてアンビシャスカードとは別に、エレベーター・カードと呼ばれるプロットがあります。
今回は、このエレベーターカードというプロットのひとつの原型を作ったと思われるカードマジック、エドワード・マーローの”Penetration”のご紹介です。
カードマジック事典」掲載作品です。

 

余談ですが、アンビシャスカードとエレベーターカードを混同するような向きが、一部に見られる気がします。
確かにエレベーターは上下移動というイメージを表現するのにぴったりですし、今日のいわゆるアンビシャスカードが、仮にエレベーターカードと呼ばれていたとしても不思議には思いません。

 

しかしマジックの歴史的には、選ばれたカードがデックの中で何度も上がって来る現象は、ダイ・バーノンの手順に倣ってアンビシャスカードと呼ばれています。アンビシャスカードとエレベーターカードのプロットがそれぞれ別に存在するのは事実なので、これは区別して呼称したいところです。

 

また、主にアンビシャスカード系のマジックに用いるムーブとして、二川滋夫氏が考案された、エレベーター・ムーブという技法が存在します。
この技法は以外と若い方にも人気があるようで、この辺も混同に拍車をかける要因かも知れません。

 

エドワード・マーローのエレベーター・カード “Penetration”

動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。

 

 

アンビシャスカードとエレベーターカードのプロットの違いは、エレベーターカードでは事前に複数のカードを並べておき、それらを順番に使ってカードの上下移動を見せるというところです。

 

アンビシャスカードでは、プロットとしては客の選んだ1枚が上がって来る、という部分だけですので、手順構成に非常な自由度がありました。力量によっては即興演奏のような演技さえ可能なぐらいです。
それに対して、エレベーターカードでは手順は基本的に固定されています。

 

エレベーターカードのプロットの原型のひとつとして、すでに紹介したポール・ルポールの“Aces Up!”があります。
この作品では4枚のエースを用いていたため、どうしても最後の1枚だけ方法論を変えざるを得ませんでした。ルポールの作品での解決法は、スライハンドとなっています。

 

エドワード・マーローの”Penetration”では、用いるカードをA、2、3の3枚のカードにしています。
3枚のカードの移動をそれぞれ異なるパターンとして、なおかつ自然に、方法論的にも破綻なく繋がる構成としているのが天才的ですね。
ルポールの作品もダイレクトで魅力的なものでしたが、あの手順構成でラストはスライハンドというのは、ある意味では破綻しているとの見方も可能です。
これを手順構成によって解決したことが、”Penetration”がクラシックとして残ることとなった所以でしょうか。

 

シンプルですが、それだけに何度も練習して、慈しむように演じたくなる作品のひとつです。

 

マーローのエレベーターカードの関連作品等

マーローの”Penetration”のアイデアの元は、「Cardician」の記述によれば、ダイ・バーノンの”Ace-two-three”という作品だとのことです。
出来ればこのバーノン作品にも当たり、どのような要素がマーローの手順に影響してるのかなど、確認したいところですが、現時点では未確認です。

 

この作品がマーローの「Cardician」で発表されたときの題名は、上述のとおり”Penetration”でしたが、今日ではこのマジックはエレベーターカードとして知られています。「カードマジック事典」でも日本語の題名はエレベーターカードとなっています。
やはり”penetration”(貫通)よりはエレベーターカードという名前のほうが面白く、イメージも伝わりやすいということなのでしょうね。

 

このエレベーター・カードという名前がこのプロットのカテゴリ名として一般化する元となった作品は、ビル・サイモンの”Elevator Card”であると思われます。
こちらについても近々、当サイトで別個紹介したいと考えています。

 

エレベーター・カードは多くのバリエーションを生み出しています。
上記のビル・サイモンのエレベーター・カードもそうですし、有名なところではダローのエレベーター・リペアー、また過去に当サイトで紹介した二川滋夫氏のこれでもかっ!エレベーターも、冒頭はこのマーロー手順と同様です。
「カードマジック事典」には、マーローとビル・サイモンの作品以外に、フランク・ガルシア、デレック・ディングルの手順も掲載されています。

 

エドワード・マーローのエレベーター・カードを解説した文献等

元々は奇術雑誌「Sphinx Magazine」に掲載され、その後Edward Marloの作品集「Cardician」にも解説されました。

 

日本語では、高木重朗氏の「トランプの不思議 現代カード奇術入門」に掲載されています。
かつて名著として親しまれたこの本は長く絶版でしたが、近年東京堂出版より、往時そのままの装丁・組版で復刻されています。

 

他に「カードマジック事典」にも掲載されています。
エレベーターカードの①~④まで4作品解説されている中の、最初の作品です。

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コメント

  • コメント (7)

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    • 峯崎浩一
    • 2013年 5月 11日 11:50am

    この作品は私も好きで昔からよく演じてました。
    ビル・サイモンの手順も面白いですよね、ガルシアやディングルの4枚手順は
    枚数が多いかなって感じが・・3枚手順がシンプルで私好みですかね~。
    アルド・コロンビーニのバリエーションで”Elevon”という作品があります。
    基本は”Penetration”と同じですが、クライマックスが違っていて、A、2、3の3枚を相手に改めさせると、1枚(ハートの6など)に合体してしまうという結末です。このエンディングが結構気にいっております。

      • Shanla Type2
      • 2013年 5月 12日 2:45am

      ディングル手順も、テクニカルなところが少し好きで、一時期は演じていたこともありましたが。やっぱり私も3枚手順のほうが好みですね。
      コロンビニの”Elevon”というのは初耳でした。現象を聞く限りでは面白そうですね。探して見てみたいものです。

    • 峯崎浩一
    • 2013年 5月 12日 7:32am

    ディングル手順を否定してる訳ではないのですけどね・・ (^-^;
    エレベーターカードのプロットを考えると、3枚がベストかなぁと。
    ”Elevon”は、Impromptu Card Magic Vol.2 に収録されてます。
    ”Elevon Aldo Colombini”で検索すれば動画もあります。

    • 峯崎浩一
    • 2013年 5月 12日 7:35pm

    追伸です。気賀康夫「トランプマジック」東京堂出版にも"Penetration"が掲載されてました。

      • Shanla Type2
      • 2013年 5月 12日 11:46pm

      情報ありがとうございます!
      気賀さんの「ステップアップカードマジック」は持ってるんですけど、「トランプマジック」のほうはそういえば持ってないんですよね^^;
      ステップアップ~のほうには、ビル・サイモン作品が掲載されていました。
      ElevonをYoutubeで検索して見てみましたが、色々ラストを変えて演技している人が多い感じでしたね。
      峯崎さんがおっしゃるように6に変化する演技も見つかりました。
      あの手順はどうやら、3枚目の上昇を見せる部分がちょっと独特ですね。サンドイッチ的な。

    • 峯崎浩一
    • 2013年 5月 13日 8:28pm

    コロンビーニの作品を原案通りに演じている動画は確かにないですね・・
    そういう意味で考えると、Shanla さんは忠実に原案を再現してますので
    考察好きなマニアにとっては嬉しい限りです。(^-^)

      • Shanla Type2
      • 2013年 5月 15日 2:36am

      一応、当サイトとこれに関連付けた一連の動画は、単なる自分のマジック活動記録というのではなく、既存の情報をある程度網羅してまとめてゆきたいという意図があります。
      もちろん膨大な情報の中から、自分の手の届く一部に過ぎません。また、なるべく客観視はしたいものの、ある程度自分のセンスというフィルターを通した形になるのは免れません。
      そういった不可避的な要素は別にして、目に見える手順や技法、しっかりと記録に残された演出などについては、出来るだけ原典を踏襲しようと思っております。
      もしも自分で多少のアレンジを加える場合は、その旨が分かるように記述する方針です。
      わたしも考察好きなので、同嗜好のマニアの方々に喜ばれるような内容にしたいと考えています。
      まだまだ若輩で至らぬところも多いのですが、どうぞよろしくお願いします。

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