カードマジック

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「セカンド・ディール」”Second Deal” ギャンブルの花形イカサマテクニック

荒木飛呂彦氏による「ジョジョの奇妙な冒険」は、連載開始は20年以上も前の作品ですが、最近では山手線のペイントに採用されるなど、幅広い人気を誇っています。
そんな「ジョジョの奇妙な冒険」のとあるエピソードで取り上げられたことによって、このイカサマテクニックは、カードマジックやイカサマに詳しくない人にも知られることとなりました。

いえ、この漫画の影響をはっきり調査したわけではありませんが、少なくとも私の周囲の非マジシャンで、ジョジョによってセカンド・ディールを知ったという人を何人も見たことがあります。
敵のスタンド使いダービーによる、セカンド・ディールを使ったイカサマを、主人公である承太郎のスタンド「スタープラチナ」が見破り阻止するシーンは、エピソードのハイライトでした。(画像はお借りしました)

jojoseconddeal

「ジョジョの奇妙な冒険」でのセカンドディール

他にも、ポール・ニューマン主演の「スティング」や、最近では「シェイド」など、トランプのイカサマを扱った映画では、必ずといって良いほどセカンド・ディールのデモンストレーションが入っています。視覚的に分かりやすい花形的イカサマ技法として、これほどうってつけなものもないのでしょう。

 

セカンド・ディールとは

セカンド・ディールとは、その名の通り2枚目を配る技法です。もちろん見た目は普通に配るように見せるのが前提です。
普通に配っているように見せかけて、実際には色々とごまかした配り方をする技法を、総称してフォールス・ディールと呼びます。セカンド・ディールは、そのフォールス・ディールのうちでも代表的なもののひとつです。もうひとつ代表的なものと言えば、ボトム・ディールでしょうか。

ギャンブルの場でのイカサマテクニックとしては、ボトム・ディールのほうが全般的には有効度は高いと思われます。ただしあらかじめ必要なカードをボトムにセットする必要があること、カットへの対処が必要なことなど、色々と使いにくい場面もあります。

それに対してセカンド・ディールの場合は、あらかじめセットする必要もなく、カットによる不都合も少ない等、いくつかの利点があります。また技術的にもボトム・ディールよりは総じて簡単で、盲点を突くような技法であるため、知識がなければ見破ることの難しいものです。

ただしセカンド・ディールの弱点は、トップカードが何であるのか知っていなければ意味がないということです。そのために通常は、裏から表を知ることの出来るマークトデックや、現場でマークする手法と併用されることが多いものです。こういう要素が活用できるような状況であれば、非常に強い武器となるイカサマテクニックです。

 

上の話は、セカンド・ディールが元々生み出された、カードゲームでのイカサマの場合ですが、カードマジックにおける場合は上記の欠点もあまり欠点とはなりません。
カードゲームに比べれば、マジシャンは遥かにデックに対する支配力を行使できます。カードをセットすることも自由ですし、マークトデック等を用いることももちろん可能です。特にそういう込み入った手段を用いずとも、マジックでセカンド・ディールを行う際に、トップカードを知っておくことは容易です。

そのような観点から、ある意味でセカンド・ディールはギャンブルの場で以上に、カードマジックにおいても効果的に使える可能性がありそうです。
ただしあくまで「ディール」であるという性質上、その操作は基本的に「配る」という動作とともに行われます。
カードマジックにおいては「配る」という操作は、カードゲームを模した奇術以外では、例えば「シャッフル」や「カット」よりは機会が少ないようにも思えますので、その点では使いにくいという見方もあります。

 

セカンド・ディールの動画

まず最初にお断りしておきます。

マジックはマジックとして見せるものであって、技法単体で見せるものではない、ましてや技法だけの動画など言語道断、という意見があると思います。私も、例えばDLとかカウント類などのマジック技法を、それだけで見せるのは望ましくないと思っています。
ただし、ギャンブルのイカサマ技法というのは伝統的に、ギャンブリング・デモンストレーションやイカサマの暴露という形で、技法や手法の実演自体がパ フォーマンスとして成立しています。ポーカー・デモンストレーションなどと同じような文脈で、一般の素人相手にセカンド・ディールやボトム・ディールをそ のまんま暴露する形で実演しているパフォーマーを何度も観たことがあります。
ですから、技法は技法でもギャンブル技法というのは、それ自体がパフォーマンスとして提供されうる素材であって、普通のマジックの秘密技法と同列に語るものでもない、というのが私の見方です。
ただし、特にセカンド・ディールはマジックの秘密技法として使われることも多い技法ですから、そのへんの区分けはするべきだとは思います。

では動画を作成していますので、よろしければご覧ください。

セカンド・ディールには大きく分けて、ストライク・メソッド”Strike Method”とプッシュ・オフ・メソッド”Push off method”が存在します。一般的には前者のストライク・メソッドのほうが簡単で、使用している人も多い印象です。私が動画で演じているのもストライク・メソッドです。

カードカレッジの記述によれば、ストライク・セカンド・ディールは元々、カードゲームの場においてトップカードを押し出すことを禁止されたことから、その状況で用いるために考案された技法であるとのことです。技法自体のメカニズムの問題から、普通のディール(配る動作)とは、どうしても若干異なった動きになってしまう、という弱点があります。その点では、プッシュ・オフ・セカンド・ディールのほうが、熟達すれば自然に見えるでしょう。

ただしカードマジックは上述のようなカードゲームとは違いますから、別にトップカードを固定して行う必要はありません。ストライク・セカンド・ディールでも、トップカードや指・腕の動きやリズムを工夫することによって、実用に十分耐える自然な動きとすることは出来ます。

 

そういった秘密技法としての使用とは別の観点で、先ほど述べた技法のデモンストレーションとして見せる場合は、また話が違ってきます。
個人的には、この目的に限って言えば、プッシュ・オフ・メソッドよりもストライク・メソッドのほうが向いていると思います。
元々、トップカードを動かさない状況で用いるために開発されたというだけあって、ストライク・セカンド・ディールでは、見かけ上トップカードをほとんど動かさないで2枚目を抜き出しているように演じることが出来ます。
これは、いわば一般人相手にセカンド・ディールの技巧を見せる、最高のアピールポイントとなります。私の動画で言えば、1:45あたりからトップカードを表向きにして演じているのが、その種の趣向です。
マジックの技法として使う場合には、あまりこのようなことに気を遣う必要はないのですけどね。いわば技巧デモンストレーション用の見せ方です。

実際には、普通に押し出して配るプッシュ・オフ・メソッドのほうが難しいという意見のほうが多いのですが、見た目の難しさと実際のそれが乖離することは、この種の技法にはよくあることです。
例えば経験者からすれば、セカンド・ディールよりもボトム・ディールのほうが難しいと思われます。しかし以前、非マジシャンの友人と会話した際、「2枚目から配るほうが難しそうだね。」と言われた記憶があります。

なお、この動画では白枠のあるカードを使っていますが、完全な秘密技法として行う場合は、Beeのような白枠のないデックが適しています。
とくに、ギャンブル系の手順を演じる場合は雰囲気的にも合うでしょう。

 

セカンドディールを用いるマジック

セカンドディールは元来はギャンブリング・テクニックですが、パスやフォールスシャッフルなどの技法と同様、マジックにも輸入されて用いられています。
ただやはり、名称が示すようにカードを配るときに使うテクニックですから、パスやシャッフル、カットといった技法に比べると、その使用パターンは制限されますね。

それほど多数の例があるわけではありませんが、ここではセカンドディールを効果的に用いるマジック作品の主なものを紹介します。
なお、詳細な解説ではないとは言え、個々のマジックと技法を直接に結びつける記述となるため、ここだけメンバー限定記事とさせていただきます。

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Danbury Delusion (Charlie Miller)

チャーリーミラーの古典的傑作。セカンド・ディールとともに記憶される代表的なマジックのひとつです。
チャーリー・ミラーはセカンド・ディールを含むフォールス・ディールの達人で、この作品はまずセカンド・ディールを用いることを前提としたところから発想された作品だという見方もあります。

Diamond Cut Diamond (Alex Elmsley)

アレックス・エルムズレイの代表作のひとつ。
いわばストップトリックのように、セカンド・ディールを最も単純な形で用いた手順との見方も可能ですが、A~10の10枚を用いることによって、単純なストップトリックとは全く異なる味わいの作品となっています。

Call To The Colors (Bill Simon)

ビル・サイモンの創造性が感じられる作品。セカンド・ディールをこのような形で応用することが出来るという発想に脱帽です。
他のどんな奇術にも似ていない、独特の現象だと思います。

Non-Prediction(宮中桂煥)

宮中氏は日本におけるセカンド・ディールの達人です。この作品でのセカンド・ディールの利用法は直截的なものですが、奇妙なオチのある面白い奇術です。

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セカンド・ディールに関する個人的なこと

セカンド・ディールの実演を(生ではないですが)初めて見たのは、記憶に残る限りでは小学校高学年ごろ、テレビのショーに出演されていたリチャード・ターナーの演技だったと思います。そのときは氏の名前は意識していませんでしたが、後年になってリチャード・ターナー氏だったと分かりました。
もちろんセカンド・ディールなどという概念はそのときは全く知らず、きっちりと揃った一組のトランプの、明らかに一番上ではないどこかから、目的のカードがすっと抜けてくる妙技が印象に残っています。

その後中高生になって、カードマジック事典等に触れ、少なくともセカンド・ディールの概念は理解できるようになりました。しかしなかなか満足な教材もなく、練習を始める気にはなりませんでした。
まだ日本語書籍では「プロがあかすカードマジックテクニック」も「カードカレッジ」もなく、「カードマジック事典」がセカンド・ディールの概略が分かる唯一の資料だった頃です。ビデオも、Richard Turnerの「Cheat」やSteve Forteの「Gambling Protection」等はまだ出ていませんでした。VIDEONICSから出ていた「Master Card Technique」でのセカンド・ディールが凄いらしいという話を聞いて、いつか手に入れたいと思っていました。

その後大学に入って新入生歓迎会のコンパで、いくつか先輩や同級生相手にマジックを見せる機会がありました。カードマジックもいくつかやったのですが、そのとき先輩の一人から、「セカンド・ディールって出来る?」と振られたのです。今だったら嬉々としてやるところでしょうけど・・・そのときは満足に出来ませんでした。セカンドディールを覚えてやろうと思い始めたきっかけのひとつだったと思います。ちなみにその先輩は、「ジョジョの奇妙な冒険」でセカンド・ディールを知ったとのことでした。

テレビではなく生で、セカンド・ディールの妙技を直に見たのは、米国のカーディシャン、マーチン・ナッシュ来日時です。
そのときナッシュ氏はすでに還暦でしたが、間近で見せていただけたセカンド・ディールは神業のように滑らかで美しかったのを記憶しております。
その後しばらくして入手したナッシュ氏の作品集の一冊、「Any Second Now」は、私にとってはセカンド・ディールのバイブルのような存在です。ちなみに、上の動画の冒頭で開いて見ているスパイラルバウンドの洋書が、その「Any Second Now」です。

 

セカンド・ディールを学ぶことの出来る書籍など

日本語の書籍で、セカンド・ディールの学習で現在一番おすすめできると思えるものは、ロベルト・ジョビー著「カードカレッジ 4巻」です。この本では、ストライク・セカンド・ディールとプッシュ・オフ・セカンド・ディールの両方が、図解とともに詳しく解説されています。

また「ターベルコース・イン・マジック 2巻」にも、ストライク、プッシュ・オフそれぞれが解説されています。

その他、「カードマジック事典」にはストライク・メソッドが、「プロが明かすカードマジック・テクニック」にはプッシュ・オフ・メソッドが2パターン、それぞれ解説されています。

洋書では、名著として名高いJean Hugard&Fred Braue共著「Expert Card Technique」での解説が充実しています。プッシュ・オフ、ストライク両方解説されています。
上の記事で述べたマーチン・ナッシュ作品集、Stephen Minch著「Any Second Now」も優れた内容です。こちらの本に解説されているのは、ストライク・メソッドです。

映像は現代では多数あるので挙げきれませんが、主なところではSteve Forteの「Gambling Protection」、Richart Turnerの「The Cheat」、Damian Niemanの「Fast Company」などのギャンブル系DVDが挙げられます。マジシャン系では、Martin A. NashやAllan AckermanのDVDなどが優れていると思います。

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コメント

  • コメント (4)

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    • 峯崎浩一
    • 2013年 9月 09日 7:34pm

    セカンド・ディールをギャンブル(カジノ)側から解説した日本語の書籍もあります。

    『ディーラーをやっつけろ!』 著者:エドワード・O・ソープ、出版:パンローリング社
    『カジノ大全』 著者:スタンフォード・ウォン&スーザン・スペクター、出版:ダイヤモンド社
    『ゲーム理論 カジノの法則』 著者:アーサー・ファウスト 出版:データハウス

    どれもセカンド・ディールのやり方を解説しています。ただ訳が変で分かりずらくお勧めできません。
    あくまでも参考までに・・カジノのルールを詳しく知りたい人には良いと思います。

    • 情報ありがとうございます。
      カジノ側からの書籍というのは全くのノーチェックでした。
      しかしそのあたりの本は、ゲームを真っ当に楽しむことが主眼でしょうから、イカサマの記述に関しては「どうやってイカサマを見破るか、防ぐか」ということがメインでしょうね。
      イカサマ技巧を学ぶ教科書にはなりにくそうな気がします。

      • 峯崎浩一
      • 2013年 9月 11日 9:18pm

      確かにゲーム主体なので教科書には向かないですね。
      ただ手元にはないのですが、Steve Forte の洋書は良いらしいです。
      私はそこまで追及する気はないので欲しいとは思いませんが
      「Gambling Protection」のDVDは何時か購入したいと考えてます。

      • 私も、あくまでギャンブルテクニックをマジックでどのように役立てるか、ということが興味の中心です。
        あまりに詳細で実践的なイカサマ手法を追及する気はありませんね。
        「Gambling Protection」、私の持ってるのはVHS版なんですよね。確かあの頃、1巻あたり1万円ぐらいの値段で売られていた記憶があります。4巻セットだったら4万円かな・・・忘れましたが。
        今は全部まとめてで1万円ぐらいなのでいいですね。そのうちまたDVD版を買いなおしても良いぐらいです。

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