“Biological Shuffle” Paul Harris ポール・ハリスによる奇妙な味のエース・オープナー

Biological Shuffle_s

一組のデックから、何らかの形で4枚のエースを出現させるマジックを一般に、エース・オープナーと呼んでいます。
オープナーとは一連のマジックの最初に演じる演目のことです。
ですからエース・オープナーという場合は、出現させたエースをそのまま次のマジックで使用するというのが基本的な流れです。

デックをシャッフルやカットしながらエースを取り出してゆくものや、フラリッシュ的に一瞬で4枚出すものなど、様々なエース・オープナーが存在します。
今回ご紹介の、ポール・ハリスによるバイオロジカル・シャッフル”Biological Shuffle”は、ちょっと他のマジックでは見ることの無い、独特の動きによって構成されるエース・オープナーです。

なおこの作品は、私が以前運営していた旧サイトのほうでも、簡単に取り上げたことがあります。

 

ポール・ハリスの”Biological Shuffle”

では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。

>>動画リンク<<

いわゆるIn the hand Riffle Shuffle(手の中で行うリフルシャッフル)を前提とした、珍しい出現手法です。
リフルシャッフル必須のリベレーションとしては、テーブル・リフル・シャッフルを活用したものは数多くあります。しかしこのように空中でのリフル・シャッフルが絶対的な前提となっているものは、個人的には他に知りません。

また、この手品の導入の仕方も私の好きなところです。
マジックを演じるぞ、と観客に気構えをさせないところで、唐突に現象が起こるという味わいがあります。

このマジックの導入部分の感覚は、まだマジックを見せているわけではない、単にシャッフルについての薀蓄を語っているだけだという装いなわけです。そこでいきなり”アクシデント”によりデックに指を挟んでしまい、唐突な現象が示されるという流れ。
この部分の、油断した観客をいきなりラストの落ちにまで突き落とすような、心理的なギャップの演出こそが、この作品の最大の魅力ではないでしょうか。

リフルシャッフルを慣れない手でやったからと言って、カードと指を”シャッフル”してしまうという、明らかにありえない失敗も面白い要素ですね。
常識的にありえるわけがない可笑しな操作なので、何かやってくるだろうと観客も予想するでしょう。しかしそれでもなお、この奇術の結末は大抵の観客の意表を突くものだと思います。

 

“Biological Shuffle”のバリエーション

ここで言及しますのは、他のマジシャンによるバリエーションではなく、考案者のポール・ハリス自身によるいくつかのバージョンのことです。

まず私の知る限り、ポール・ハリスによる”Biological Shuffle”として文献で発表されたものは、3つ(あるいは5つ)あります。
時系列で追うと、最も古いものが「Richard’s Almanac Vol.1 No.2」(1982)。その次が「Close-up Kinda Guy」(1983)で、次に「Magical Arts Journal」(1987)です。
「Richard’s Almanac」は後に「Collected Almanac」(1992)として合本にまとめられ、「Close-up Kinda Guy」と「Magical Arts Journal」は「Art of Astonishment Vol.3」(1996)にまとめて収録されています。全部で5つとしたのはそういう意味です。

これらの中で、「Richard’s Almanac」と「Close-up Kinda Guy」、そして「Magical Arts Journal」収録の手順は、3つともそれぞれ少しずつ異なっています。
今回の動画で紹介したのは「Magical Arts Journal」収録の手順で、これが最も単純化されたものです。

「Richard’s Almanac」収録の手順では、最初にフォア・オブ・ア・カインドを取り出した後、4枚のうち3枚をデックのボトムに入れ、それが再び集合する、といった2段構えの内容です。
また「Close-up Kinda Guy」収録の手順でも、フォア・オブ・ア・カインドを取り出すところまでは同じです。その後4枚を4つのパケットの上に置き、それらをマジシャンと客で協力して重ねた状態でフォア・オブ・ア・カインドが一番上に上がってくる、というもので、これも手順としては2段構えです。
それに対して、「Magical Arts Journal」収録の手順では4枚のエースを出現させるだけで終わりです。

時系列としては「Richard’s Almanac」のものより「Close-up Kinda Guy」の手順が新しく、手順としても後者のほうがより練りこまれている印象を受けます。
そしてさらに新しい手順が「Magical Arts Journal」のものということで、ここでの変化は練りこみというよりは、単純化、要素の削ぎ落としですね。
単純に新しいバージョンがより良いと断ずることは出来ませんが、個人的にはこのマジックにおいては出現させるだけで終わるほうが好きです。

それから、ポール・ハリス自身によるこの作品への評価を推測できそうな、ひとつの事実があります。
それは、彼の集大成とも言える作品集「Art of Astonishment」での扱いです。

「Close-up Kinda Guy」の手順は「Richard’s Almanac」掲載手順の改良版とも見なせそうなので、「Richard’s Almanac」版のほうは措くとします。
「Close-up Kinda Guy」と「Magical Arts Journal」は、どちらも「Art of Astonishment Vol.3」に収録されているのですが、「Close-up Kinda Guy」の中の”Biological Shuffle”はこの本からは省かれているのです。「Magical Arts Journal」版のみが収録されています。

このことは、2段目を省いて出現現象のみに単純化した「Magical Arts Journal」版の”Biological Shuffle”が、作者にとってのこの手品の決定版である、という意思表示とも読み取れそうな気がしています。

 

ポール・ハリスの”Biological Shuffle”を解説した文献等

動画で紹介したバイオロジカル・シャッフルは、奇術雑誌「Magical Arts Journal」(1987)に収録されたものです。
同じ手順を若干リファインした内容が、ポール・ハリスの発表された文献の合本である「Art of Astonishment Vol.3」(1996)に収録されています。

またすでに言及しましたように、同作品の別バージョンが、リチャード・カウフマン刊行の奇術雑誌「Richard’s Almanac Vol.2」およびその合本である「Collected Almanac」(1992)、それから「Close-up Kinda Guy」(1983)にもそれぞれ収録されています。

日本語では、「Richard’s Almanac」シリーズがマジックランドより翻訳出版されていますので、その中に別バージョンのほうが収録されています。

映像資料では、元々ルイス・タネンから出ていたStars of Magicビデオシリーズのポール・ハリス1巻で、”Sticky Fingers”と題して収録されている作品が、”Biological Shuffle”と同様のものです。
このビデオはDVD化もされており、現在では安価で入手可能です。

<2014年6月29日追記>

上記、リチャード・カウフマン編「Collected Almanac」の抄訳が、東京堂出版から「世界のクロースアップマジック」と題して出版されました。
Biological Shuffleも収録されています。もちろん今回紹介したものとは若干異なる、2段構えのほうの手順です。

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  • 沖縄で結構な地震が!めずらしい…
    about 2日 ago
  • 「電話はかけてこないで」はあちゅうが考える新マナー Yahoo!ニュース https://t.co/CcOALnkhVh #Yahooニュース →電話のくだりは全く同感である。「確実に連絡が取れるように」と言って電話番号を求められることがあるが、私にとってはメールのほうが確実だ。
    about 3日 ago
  • これだけテレビやモニター技術が発達しているが、ベゼル幅ゼロとか折りたたみ可能ディスプレイというのは、まだまだ実現できないものなのかな。
    about 3日 ago

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