カードマジック

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「ツイスティング・ジ・エーセス」 ダイ・バーノン “Twisting the Aces” Dai Vernon パケット・トリックの歴史的名作

巨匠ダイ・バーノンが残したカードマジックの傑作は、枚挙にいとまが無いほどです。
中でもツイスティング・ジ・エーセスは、その最小限の道具立ての中に組み込まれた緻密な構成により、ひときわ輝く作品です。

この作品はパケット・トリックの部類に入ります。使うカードは4枚のエースだけ。
世の中のカードマジックには、見た目のうえでは4枚だけしか使っていなくても、実際にはそれより多いカードを使うマジックも数多いのですが、ツイスティング・ジ・エーセスは本当に4枚だけです。

そして、そのプロットも単純明快。
4枚のエースが、順番に一枚ずつ、表向いてゆく。それだけです。

このプロットが発表されてから、数多くのマジシャンによって、数限りないほどのバリエーションが生み出されました。
しかし、ツイスティング・ジ・エーセスは元々からして、これ以上ないほどのミニマムな構成でシンプルに進行するプロットの作品です。
従って、ハンドリングを変えるにしても現象を付加するにしても、原案を純粋に超えたと言えるようなバリエーションを作るのは、なかなか難しいことです。
今なお、ダイ・バーノンによる原案がこのプロットの最良のもののひとつであろうと思える所以です。

「カードマジック事典」掲載作品です。

 

ダイ・バーノンの「ツイスティング・ジ・エーセス」

では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。

全体に亘ってElmsley Countを駆使した構成で、このカウントの練習曲のように見なされる向きもあります。私も、確かにそういう面はありそうに思います。

しかし決して技法の練習のために組み立てただけというようなものではなく、奇術として緻密に完成された、実用的な手順でもあります。
カウントの練習用奇術、みたいな意識が先行するからなのか、流すようにサラリと演じる方も多いように見えますが、それはもったいないことです。

ただ抑揚無く手順を追うだけの演技では、この手順が持つ欠点がそのまま浮き彫りになってしまう傾向があります。
いえ、奇術というのは本来見せ方や演出がセットのものですから、手順の動作だけの欠点をそのまま欠点と指摘するのは適切ではないのはもちろんですが。
欠点というより難しさと表現したほうが良いかも知れません。

 

ここで言う「欠点」(になりうる要素)とは、それぞれの現象の動作の非一貫性です。

非一貫性ということはつまり、動作が一貫していないということです。4枚のエースがそれぞれ1回ずつひっくり返ってゆくわけですが、どの現象を起こす動作も微妙に異なっています。
動作が異なるというよりも、厳密に言えば現象自体が微妙に違うと見られる箇所もあります。

1枚目、3枚目と4枚目はそのまま「エースが表向く」現象です。
しかし2枚目の現象は、厳密に見るならば「前のエースが別のエースに変化する」もしくは「前のエースが元に戻り、その後別のエースが表向く」などということになります。
これを何の策略も無く見せれば、観客にとっては混乱の元になりかねない。

これに対するひとつの考え方は、2枚目の表向きエースを裏返す動作を、出来るだけ目立たなくすることではないかなと思います。出来ればこのひっくり返す操作を、観客の意識から消してしまいたいぐらいに。
このひっくり返す動作を観客の意識に残さないことに成功すれば、演技のノイズはほとんど取り除かれたことになるでしょう。直前の状態がどうであれ、カードを回すたびに、1枚ずつのエースが表向く。現象の直前に、表向きのカードがあるか無いかということは、殊更に問題にすることはないはずです。
2回目のツイストの後、「それではこのカードは元に戻しておきます」とわざわざ言ってひっくり返す人がたまに居ますが、私としてはこのようなセリフはノイズを増幅するようで、全く不要に思えます。

 

それから、Elmsley Countについてですが、この手順では普通のカウントと、Under Elmsley Countと呼ばれるバリエーションが混じっています。この点も見方によっては、動作が一貫していないと感じられる要素です。

これも個人的な考え方ですが、アンダー・エルムズレイはアンダー・エルムズレイとして演じるべきではないと思います。技法をそう呼ぶのは問題ありませんが、意識の持ち方としてです。
これを普通のElmsley Countのバリエーション技法として、別個のものとして捉えてしまうと、機械的に抑揚無く4枚を数えてしまいがちでしょう。しかし、工夫無く連続した動作で演じてしまうと、アンダー・エルムズレイというのは結構不自然に見えやすいと思うのです。

従って、感覚としてはあくまで、普通のElmsley Countを最後まで、あるいは最後の直前まで演じる。そして、その最後の1枚の微妙なニュアンスの扱いによって、ラスト1枚を下に回すような。
つまり、カウント本体とラスト1枚の扱いは、微妙に分割し一拍置くのが良いのではないかと思っています。
そうすれば、普通のカウントとアンダーの印象の違いも、気にならなくなるのではないでしょうか。

 

アンダー・エルムズレイだけでなく、普通のElmsley Countも、3枚目が表向いた現象を見せるときは3枚目で一拍置く。2枚目のときは2枚目に注目させる。
そのときそのときにおいて何を見せたいのかを意識して、緩急を加える。

そうやってElmsley Count自体にゆらぎを加えつつ、前述のようにElmsley CountとUnder Elmsley Countの差異も曖昧にする。
そんな感じで全体のノイズを平準化してゆけば、全体の印象もかなり違って見えてくることだと思います。

 

まあ、色々と偉そうに述べましたが、これらを全て私が実践出来ている、というわけではありません。
そうありたいと目指している、ということで^^;

 

ダイ・バーノンの「ツイスティング・ジ・エーセス」を解説した文献等

この作品は元々は、ルイス・ギャンソン著「Dai Vernon’s More Inner Secrets of Card Magic」(1960)に収録されました。
この本はその前年に発行された「Dai Vernon’s Inner Secrets of Card Magic」(1959)と、翌年の「Dai Vernon’s Further Inner Secrets of Card Magic」(1961)と合わせてInner Secrets三部作と呼ばれ、カードマジックの名著、ダイ・バーノンの作品集の代表作のひとつと見なされています。

後にL&L Publishingより、3部作がまとめて1冊として、ハードカバーで復刻されていますので、現在でも綺麗な形で入手可能です。

日本語では、東京堂出版の「カードマジック事典」に「ひっくり返るA①」と題して収録されています。

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コメント

  • コメント (5)

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    • ハセタカ
    • 2013年 11月 14日 6:10pm

    このマジックは僕もよくやります。
    即席でできますし、Aだけなのでシンプルです。
    しかし最近感じてきたのが、このマジックは、花がないといいますか
    なんというか、地味なんじゃないかと思います。
    あくまで僕個人の意見なのですが、改良が必要だと思います。
    そこで質問させてください。
    このマジックには、改良するならどのようなフィニッシュがよいと思いますか?

    • 個人的には、普通に演じてしまうとあっさり終わりすぎる、盛り上がりに欠けるという点もまた、この作品の欠点というよりは難しさのひとつだと思います。
      ですから私の場合は、手順自体を変えるというよりは、この手順のままでいかにして観客を満足させられるか、と考えるほうが好きです。
      いずれにしても、このマジックは割りとあっさりで良いと思いますけどね。

      仮に、とにかく手順を変えるんだ、と言う前提で話をするのであれば、アッシャーツイストのように、最後に全体が一気にひっくり返るという現象を入れますかね。
      それ以上のクライマックス、例えばエース以外のカードに変わるとか、裏色変化などを入れてしまうと、手順全体のシンプルさが損なわれてしまいそうです。

    • 近藤伸持
    • 2015年 5月 22日 10:41am

    このマジックは完全な4枚だけなので非常にクリーン、フェアにフィニッシュが出来ますね。
    そして演技中にカードをテーブルなどに置く必要がないのでどこでも出来ますね。
    僕も店(床屋)で初めてマジックをリクエストされた時はこれをやります。

    演じてて気が付いたのですがこのトリックは「置く場所が無い」空間でやるのが一番威力を発揮しますね。

    やはり見る側はテーブルやイスにデックを置いてあるとカードの改めをしても気になるというか疑いを持ってしまって現象の効果が薄まる感じがします。
    「気がつけばひっくり返っている」ではなく「魔法をかけたらひっくり返った」と見せる為にはやはり邪魔になるものが一つでも少ない方が良いのは当たり前ですからね。

    その点、立ち状態で「置く場所が無い空間」の場合ポケットにしまう事ができるのでデックは見る側から無くなり、より演技に集中する事ができ「本当に4枚しかない」と印象もつけやすいと思いました。

    ツイスティングエーセスのようなビジュアルが落ち着いたトリック、パケットトリックは立ちの演技が出来るならそっちの方が見る側が受けるインパクトは大きいと思います。

    僕みたいな商売しながらの演技だと四方に鏡があるわ、0距離での演技になるわでマジックが出来る環境は整って無いですから頭使うしかないんですよね(笑)

    長文すいませんでした。

    • 確かに、テーブルに何かを置くよりは、全てを手に持った状態で演じたほうが、観客は現象に集中できるという面はありそうですね。
      ただ客の視界の中の前景と背景という意味では、テーブルでマットを敷いて演じている状態のほうが、余計な情報が少ない場合もありそうです。
      テーブルで演じる場合でも、パケットトリックを演じる場合には、ケースやデックなどは一時的にもポケットにしまうほうが、余計なノイズが無くなり良いかも知れません。

    • 2021年 2月 18日 3:34pm

    Shanlaさんの変な気取りのないスムーズな演技には、いつも感服させられます。
    近藤伸持さんの、「置く場所が無い」場所で威力発揮というご意見には納得。
    ちなみに自分自身はShanlaさんとは逆に、表向きになったAは裏向きに戻すことを前提とし、2枚目はしゃべりなどで前に間を置くことによって、現象の違いをできるだけ目立たないようにしています。

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