「ロスト・エース・トリック」 “The Lost Ace Trick” Jack Avis ホフジンサー・エース・プロブレムの先駆け作品

lost ace trick s

カードマジックの世界で人気のあるプロットのひとつに、いわゆるホフジンサー・エース・プロブレムがあります。「いわゆる」と但し書きを付けたのは、これが実際にはホフジンサーとは関係ない可能性が高いという事情によります。

J.N.ホフジンサーは言うまでもなく、19世紀ウィーンで活躍した奇術師で、近代カードマジックの始祖とも呼べる人です。
その彼による、未解決のプロブレム(こういうことが出来たら面白いのではないか、と現象だけを提起したもので、具体的な手法を含まない)がいくつか残されています。それらホフジンサーによって残された中の、代表的なひとつが今日のいわゆるホフジンサー・プロブレムであった、と認識する人がかつては多かったと思います。
しかし、それがどうやら違うらしいということが、近年明らかになっています。このあたりの経緯については、石田隆信氏のコラムに詳しいので、ご興味のある方はご参照ください。

プロットの発案をホフジンサーにクレジットする根拠が無い状況ではあるのですが、もう何十年もこのプロットはホフジンサーの名とともに広まっています。
このプロットを総称する他の呼称もとくに無いため、今後も恐らくホフジンサー・プロブレムと呼ばれ続けるでしょう。

 

ホフジンサー・エース・プロブレムとは

今日一般的なこのプロブレムは、以下のとおりです。

4枚のAが示されます。
1組のデックの中から1枚のカードが選ばれ、観客が覚えてから戻して混ぜられます。
4枚のAのうち、観客のカードと一致するマークのAが裏返ります。
デックを広げると、観客のカードと思われる1枚が裏返っています。
その後、2枚のカードが交換していることが示されます。

 

このプロブレムに類するテーマの作品としては、当サイトでは以前にラリー・ジェニングスの“Tell Tale Aces”を紹介しました。
今回紹介するジャック・エイビス”Jack Avis”の”The Lost Ace Trick”はそれより古く、このテーマの先駆けと言える作品です。

最初に書いたように、このプロットがホフジンサー由来であることについては、現在では否定的な見方が優勢です。これがホフジンサーのものであるという説が一般化した大元の情報は、カール・ファルブズによる奇術誌「The Pallbearers Review」の記事です。

そのとき紹介されたプロットには、エースの反転や、客のカードがデックの中でリバースして出現する現象はありません。単に4枚のAの中の1枚が客のカードに変化するだけです。
しかし今日、いわゆるホフジンサー・プロブレムとして広く知られたプロットは、上に書いたように多少複雑化し、現象が細分化されたものです。
そして、このような複合的プロットを最初に採用した作品が、ジャック・エイビスの”The Lost Ace Trick”であるようです。

 

Jack Avisのロスト・エース・トリック

では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。

>>動画リンク<<

作品名の”The Lost Ace Trick”というのは、ダイ・バーノンの言葉から来ています。
ジャック・エイビスがこれをバーノンに見せたところ、これはホフジンサーの失われたトリックではないか、との示唆があったそうです。バーノンの記憶によれば、ホフジンサー関連の何かの書簡でこのプロットを見たとのことでした。それを受けて、「Epilogue 11号」(1971)での発表時には、”The Lost Ace Trick”の題名が付けられました。
ただしその後の調査で、バーノンが言ったような資料は発見できていないとの報告が、後年出版された「Vis a Vis: A Jack Avis Book」にはあります。

ジャック・エイビスはこの作品を1958年頃には考案していたそうですが、上に書いたように1971年まで発表されませんでした。これには理由があります。
彼がこの作品を考案した頃に、手順を解説した手紙をエド・マーローに送りました。それに対してマーローは、この手順は自分の“Devilish Miracle”のバリエーションだと思う、と返事をしたのです。
エイビスはこの意見を受けて、恐らく発表に値するほどの新規性が無いと判断したのか、発表を止めてしまいました。
しかしその後、今日のいわゆるホフジンサー・プロブレムに類する作品が多く発表されるようになります。その流れの中で、自分の作品もその系譜のひとつとして発表しても良いのではないか、と思うようになり、1971年になって初めて発表に至ったというわけです。

マーローの指摘について言えば、確かにパケットの中の1枚が裏返り、その後別のカードと入れ替わるという大枠で見れば、”Devilish Miracle”との共通点はあります。
しかし”Devilish Miracle”では2枚のカードを選ばせていますし、カードのマークは関係ありません。”Devilish Miracle”では5枚のランダムなカードを使い、”The Lost Ace Trick”では4枚のAを使うという点でも大きく印象は異なります。
たしかに全く関連が無いとも言えませんが、これを”Devilish Miracle”のバリエーションと見なすのは、若干拡大解釈が過ぎるような気もしますね。
一般的な観客目線で比べるならば、”The Lost Ace Trick”すなわち、いわゆるホフジンサー・プロブレムのほうが、より単純明快な印象があるのではないでしょうか。

 

このプロットの中で、人や作品によって表現が分かれるのは、ラスト部分の2枚の交換現象です。結果として示される状態は同じなのですが、ここを術者の意図した予定調和な現象として見せるか、あるいはサッカートリック的に演じるかの違いがあります。
サッカートリック的な見せ方とは、デックの中でひっくり返ったカードは当然観客のカードである、という態度で見てみると、期せずしてそれがAとなっており、術者もそのことに対して驚いてみせる、というパターンです。それに対して予定調和な見せ方のほうは、上の動画で演じたように交換現象を能動的に見せる形です。
この動画内で演じたこの箇所の見せ方は、ジャック・エイビスによる解説をそのまま踏襲しています。個人的には、サッカートリック的な見せ方よりも、どちらかと言えばこの形のほうが好みです。私が以前に作った“Hofzinser Exchange”と名づけた手順も、そういう見せ方を取り入れています。
ただ、奇術としての驚きや意外性という面では、サッカートリック的な演出のほうが明らかに上かなとも思います。

 

最後に余談ですが、このトリックはJack Avisの名前のアナグラムを冠した技法、シーヴァ・カウント”Siva Count”とともに紹介されました。
シーヴァ・カウントはカードマジック事典の技法編に収録されていますが、正直言うと利用頻度の低い技法です。私はこの手順を練習するまで、使ったことのない技法でした。
何というか、カードの配列と達成すべき目的を考えたときに、この技法でなければならない必然性というのが少ない感じがします。
とは言え、考案者自身が技法の発表とともに紹介した本作品では、さすがにパズルのピースとしてシーヴァ・カウントがキッチリ嵌っている感はありますね。

 

Jack Avisのロスト・エース・トリック

ジャック・エイビスの”The Lost Ace Trick”は、カール・ファルブズ編「Epilogue 11号」(1971)に収録されました。また同手順が、Jack Avis & John Derris著「Vis a Vis: A Jack Avis Book」(1998)に”Hofzinser Ace Trick”と題して再録されています。

日本語では、麦谷眞里著「実践カードマジック事典」(2007)に多くの写真付きで解説されています。

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