「ヴィジター」の改案2題:デレック・ディングルとハワード・シュオルツマンによるバリエーション

ラリー・ジェニングスの大傑作「ヴィジター」は、多くのマジシャンにインスピレーションを与え、バリエーションが作られています。

 

オリジナルの形からかなり変質したもの、ヴィジターの名前のついていないもの、またさらにはラリー・ジェニングス以前の作品でコンセプト的に関連がありそうな作品などもあります。

 

しかし今回は、ジェニングスの原案を直接受けて、それ以降に考案された作品で、なおかつ原案を大きく変質させていないもののなかから、創作の思考方向の比較という面で題材となりそうな作品を2つ紹介してみます。

 

ひとつは、デレック・ディングル“Derek Dingle”による”Isolated Visitor”、もうひとつはハワード・シュオルツマン”Howard Schwartzman”による”Night Visitor”です。

 

ラリー・ジェニングスによるヴィジターの欠点

歴史的大傑作のひとつとみなされているヴィジターですが、人によっては欠点と思える部分があります。

それは、合理性の観点から見れば不要と思える、パケットの持ち替えです。

 

原案では、まず最初にパケットAを持った状態で絵札のサンドイッチを作り、その後パケットAを置いてサンドイッチをパケットBに混ぜ込みます。
そしてまた、パケットAを取り上げて、ここで初めて実際の奇術現象に入ってゆきます。
やはり合理性という観点では、どうしても最初にパケットAを持つことの必然性に疑問が出てくるわけです。

 

これは、前回の記事にも書いた通りPalmやSide Stealといったダイレクトなメソッドを忌避するコンセプトが招いた構図とも言えます。
このあたりの構成の関係は、ある意味トレード・オフなところがあり、すべてにおいて理想的な構成は実現しがたいところではあります。

 

ラリー・ジェニングス自身は、これを欠点とは考えていなかったようです。
トレード・オフの両面を理解しつつ、これが自分としては最善の解法だということなのでしょう。

 

このジレンマを解消する方向性のひとつとして、そもそも最初の段階では2つのパケットに分けないというアイデアもあります。
フランク・ガルシアの”Traveling Visitor”などがその代表的な作品です。
しかしこれはやはり、移動現象自体の説得力を弱める点は否めません。

今回の記事では、最初にデックを2つに分ける部分はラリー・ジェニングスの原案と同様で、その後の手法を工夫した手順をご紹介してみます。

 

デレック・ディングルの”Isolated Visitor”

まずは動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。

 

>>動画リンク<<

 

技巧的にスマートな手法を取ることの多いデレック・ディングルならではの手順です。

 

あまりにダイレクトな手法を忌避するというコンセプトではジェニングスの原案と同じですが、言ってみればその中間点とも言える”Vernon Transfer”と呼ばれる技法を使用しています。
そのことにより、パケットの持ち替えは1回だけとなり、見た目の合理性が向上しています。

 

実は私自身も、この手順を知る前に原案でのパケットの持ち替えの煩雑さを解消すべく色々と考えた末に選択した技法が、”Vernon Transfer”でした。
その後某アマチュア奇術家の方とセッションした際にこの手順を見せたところ、その奇術家もディングルの”Isolated Visitor”は知らなかったものの、”Vernon Transfer”を使うというアイデアの元に同様な手順を作られていたそうです。

 

やはりパケット間の移動ということを考えると、誰であっても同じアイデアに行き着きやすいコンセプトと言えるのかも知れません。
しかしそこはやはりディングル、私が考えた手順に比べるべくもないほど、”Isolated Visitor”は細部まで考慮されつくした手順となっています。

 

ハワード・シュオルツマンの”Night Visitor”

こちらの作品についても動画を作成しましたので、よろしければご覧ください。

 

>>動画リンク<<

 

この作品は言ってみれば、ラリー・ジェニングスが忌避したと思われるダイレクト・メソッドに真っ向から挑戦した手順です。

 

ジェニングスであれば、こんな手順はいわば自分が創作過程で切り捨てた1選択肢に過ぎず、単なる改悪として切り捨ててしまいそうな気もします。
もちろん勝手な想像に過ぎませんけどね。

 

こういうダイレクトなメソッドは古典的とも呼べる考え方で、近代カードマジックの一般的な思考方向とは逆行するものかも知れません。
しかしこういうプリミティブな手段というのは、一種独特の魅力を持っているのも確かです。
最短距離で目的が達成されるダイレクトさ、そして技巧への挑戦という演じる側の内的な魅力。

 

個人的には、ここまでプリミティブな手法よりは、ディングルの手順のほうがバランス感覚という点で優れているといいますか、好みには合っているという感じはいたします。

 

2つの手順の掲載文献

デレック・ディングルの”Isolated Visitor”は、リチャード・カウフマン発行の奇術雑誌”Richard’s Almanac”のVol.1 No.11に発表されました。
その後この雑誌は”Collected Almanac”という合本として出版されています。
また、”Richard’s Almanac”はマジックランドから安崎浩一氏の訳によって邦訳出版もされています。

 

ハワード・シュオルツマンの”Night Visitor”は、Karl Fulves発行の奇術雑誌”Epilogue”誌21号に掲載されました。
“Epilogue”誌は合本として出版されており、私が読んだものはこちらです。

 

<2014年6月29日追記>

上記、リチャード・カウフマン編「Collected Almanac」の抄訳が、東京堂出版から「世界のクロースアップマジック」と題して出版されました。
これにディングルのIsolated Visitorが収録されています。

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コメント

    • 峯崎浩一
    • 2013年 1月 09日

    この2つの作品は初めて知りました。特にデレック・ディングルの作品が
    素晴らしいというか、賢いなぁと感じました。
    ヴィジターは元々好きな作品ではないので、さほど追求してきませんでしたが
    食わず嫌いは良くないですね、後の流れに意外な作品が生まれている事を
    改めて知った次第です。(^^;

    それにしても動画のクオリティの高さにいつも感心しております。
    文章+映像という媒体が非常に理解しやすくて助かります。

      • Shanla Type2
      • 2013年 1月 09日

      >峯崎さん
      ディングルの手順はバランスがよい感じで好きですね。

      >文章+映像という媒体が非常に理解しやすくて助かります。
      このサイトを開設したときに、私がやりたかった第一のコンセプトがこれでした。
      なのでその点を評価していただけると大変嬉しいです。
      ありがとうございます。

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  • @KotouchiS また、件の見せ方自体を"Freeman Display"と呼ぶようでもありますね。 https://t.co/LvGvhyhdKo フリーマンのムーブ自体の正確な形が分からず、メンドーサのノート自体も持っていませんので、詳しいことは分かりませんが……
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  • @KotouchiS 調べてみると、確かにフリーマンという情報もありますね。 MagicCafeの下記ページでは、フリーマンの技法だけども、彼は発表しなかったとあります。 https://t.co/AhvfATlMkP
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  • @rouis_ymgs @KotouchiS @Seven_Magica ここの動画の冒頭で行われているプロダクションがそうではないでしょうか。 https://t.co/83hzgvDaf7
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