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奇術学

【書籍紹介】「奇術学 -奇術・マジック・手品の科学- 」:今人舎

さて、ずいぶんと間があいてしまいましたが、まだまだ暑さ厳しい中、皆さんお元気にお過ごしでしょうか。
最近柏駅前に進出した、八重洲ブックセンターをぶらぶらと歩いていたところ、手品コーナーに見慣れない豪華本?を発見しました。

 

それが今回ご紹介する本、「奇術学」です。
どうやらツイッターやらの手品クラスタではすでに話題となっていたらしいのですが、最近そちらのほうはあまりチェックもしていなかったので、全然知りませんでした。

 

奥付を見ると2012年8月1日発行ということで、つい最近出たばかりのようです。
書店の店頭ではビニールがかかっていて中身が見られなかったのですが、外国製のクラフト絵本っぽく趣向を凝らした装丁と、”奇術の仕掛けが分かる!”とした帯に惹かれたんですね。
しかもその帯にはカップ&ボールとかコインなどの内容もチラっと書かれていますし。
魔法やイリュージョンに偏った子供向け絵本ではなく、きっちり奇術のことを扱っていそうな感じがしたので、買ってしまいました。

 

奇術学:本の仕掛け

まずこの本、表紙からも分かるとおり、随所に様々な仕掛けが施してあります。

例えば表紙に描かれたうさぎですが、目玉は人造ルビーのような象嵌、そしてうさぎの身体はホログラム印刷によって、見る角度によって白うさぎがメカウサギに変化します。

奇術学表紙

奇術学表紙:白うさぎが見えている状態

奇術学表紙

奇術学表紙:角度を変えるとメカウサギに!

 

また、本の各所に扉のように開く部分があり、それを開くと内側にも文章やイラストが書かれています。
基本的に、扉を開かなければ見られない部分の内容はマジックの秘密に関わる記事となっているようです。

奇術学:本のあちこちが扉のように開く

飛び出す絵本

 

さらには解説記事だけでなく、マジックを実演できる小道具も本の中に多数仕込まれています。
例えば以下の写真は、マジックファンにはおなじみのパドルトリックの道具ですね。

本に仕込まれたパドル

本に仕込まれたパドル

 

奇術学の構成

この本奇術学の構成は、マジック・奇術・手品にかかわるいろいろな側面を、見開き2ページで1テーマとして扱って紹介しています。

 

最初から順に、「奇術の歴史」、「視覚の科学第一章」、「視覚の科学第二章」、「カードマジックの秘密」、「ミスディレクションの力」、「偉大なる奇術師ラファイエット」、「浮揚」、「消し去り術」、「これまでの奇術と新しい技術」、「びっくり人間」、「フーディニ」、「霊媒」、「読唇術・予言」、といったところです。

 

絵本のような構成ではありますが、「奇術学」という題名にふさわしい、体系化された知識を提供しようという意図が感じられます。

 

それぞれのページでは、そのテーマにふさわしいマジシャンの人物や手品の記事が書かれており、さらに関連する実際のマジックのやり方や道具までが用意されているというわけです。

たとえば「カードマジックの秘密」のページでは、近代カードマジックの父ヨハン・ネポムク・ホフジンサーが紹介されています。

さらに言うならば、写真では分かりにくいかも知れませんが、ホフジンサーが右手に持っているカードのファンは印刷ではなく、実際に取り外してギミックカードとして手品に使うことが出来るものです。

奇術学:ホフジンサー

奇術学:ホフジンサーの記事

 

その他に紹介されているマジシャンは、がちょうの首を切るマジックで有名なエジプトのマジシャンテディ、脱出王フーディニ、アメリカショービジネスに君臨したハワード・サーストン、その師匠ハリー・ケラー、弾丸受け止めの失敗で死亡したチャン・リン・スー、ロベール・ウーダン、心霊術のダベンポート兄弟、などなど。

 

全体的に、19世紀の香りを感じさせるラインナップですね。
かつてボードビルでステージマジックがショービジネスの花形であった黄金時代。そんな時代の香りすらも感じさせてくれる、装丁やイラスト、記事です。

 

奇術学のイラスト

この本は前編に渡って、美しいカラーのイラストがちりばめられています。
上に上げたホフジンサーの顔のように、映画看板のような生生しい迫力あるイラストもあれば、古い奇術解説書にあるような、銅版画で作成したような白黒の線画も多数あります。

かと思えば、例えば以下のようなイラストは私の好きなエロール・ル・カインのような繊細な味わいも感じさせます。

心霊術のイラスト

心霊術のイラスト

マジックの記事ももちろんですが、こういったイラストだけでも見ていて飽きませんね。

 

奇術学の全体構成

さてこの本は奇術に関わる事柄をページを追って紹介してゆくというものだということは紹介しましたが、全体としての構成はそれだけではなく、あるミステリアスなストーリーが展開されています。

 

19世紀末に生きた架空の奇術理論家であるA・D・シェーファーなる人物が残した日記を追いながら、その内容に沿って奇術が紹介されていくというものです。
1915年に謎の失踪を遂げたシェーファーの日記を追って本を読みすすめてゆくと、ラストでその謎が解き明かされるという趣向。
このあたりはちょっとSFチックな味もあります。
記事の中で、ニコラ・テスラのことも書かれていましたしね。

 

本の裏表紙には、このA・D・シェーファーからのメッセージが書かれています。

奇術学裏表紙

奇術学裏表紙

 

最後に

全体としては絵本の体裁ですが、文章は必ずしも子供向けというわけでもなく、どちらかというと大人が読む絵本といったところでしょうか。

付属しているマジックはどれも易しいものですから、そういう意味では子供に買ってあげるのも良いかもしれませんね。

 

何より、マジック・手品を単なる種明かしといったことでなく、ミスディレクションをはじめとした理論面をカバーし、様々な先人の業績を、文化として敬意を払いながら紹介しているのが素晴らしい本です。

 

「奇術学」という題名についてですが、この~~学というネーミングは、今人舎が翻訳出版しているこのシリーズの特徴であるみたいです。
この本以外のラインナップとしては、「ドラゴン学」、「エジプト学」、「魔術学」、「神話学」、「海賊学」、などといったものがあるようですね。
どちらかというと、オカルトやファンタジーの文脈にあるシリーズでしょうか。
とくに「ドラゴン学」関連だけでも4冊も出ているようです。
買うほどでもないかも知れませんが、ちょっと見てみたいかも^^

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