ゆうきともさんの新刊本が出ました。
今回の本は「あなたにもできる!メンタル・マジックで奇跡を起こす本」と題されています。
文庫本で定価570円。ここ数年ゆうきさんは、いわゆるマジック本の範疇とは少し異なる、一般向け実用書としてのマジック本を精力的に出されています。
今回の本のことは、ゆうきさん自身のブログをチェックしていて知りました。
しかしわたしが買う前から色々と周囲で話題になっていて、追加アイデア等を内輪で発表してる知人も居たりして、結構気になっていたのをやっと購入してまいりました。
今回はメンタルマジックがテーマということで、おそらくゆうきさんがこのテーマをまともに扱った本を出されるのは初めてなのではないでしょうか?間違っていたらすみません。
メンタルマジックとは、超能力に見える現象を扱うマジックの一分野で、メンタリズムというのもほぼ同じ意味です。
近年テレビ等において、日本では初めてメンタリズムという名称を一般向けに大々的に用いて売り出しているパフォーマーの方がおられます。
この時期にこういうテーマの本が企画されたというのも、おそらくはそういったブームの影響もあるのでしょうね。
しかし著者のゆうきさん自身の意図は、そういったテレビの流れに乗るということとは違うところにあるように思えました。
以下、個々の解説作品で気になった作品の感想などをいくつか述べてから、最後に全体的な感想を加えようと思います。
「メンタルマジックで奇跡を起こす本」の掲載作品
ここではすべての作品の概略を書くことは致しません。
全体を読んだ上で、印象に残ったもの、気に入った作品について簡単に述べます。
まず冒頭からの3作品は、どれも同一の原理の応用作品でした。
これらはどれも演じてみたくなる魅力的なものでしたが、3つの中でも私がとくに気に入ったのは、2つ目の「コイン・ピークス」です。
3枚のコインを使って2重の不思議が起こる手順ですが、まず道具立てがまさしくメンタリズムというシンプルな感じで良いですね。
コインを当てるだけでなく、描かれた図形を透視する現象も、単なる追加クライマックスではなく、手順全体のメンタルマジック的な魅力を倍加させているように感じられます。
これは是非演じてみたいです。
3つ目の紙マッチを使った手順「001」も、その単純さと賢さに痺れました。
個人的には、トランプではなくこういった日常用品(マジシャンではなく一般人にとっての)を使う演目のほうが、メンタル・マジックにふさわしいという感覚を持っています。
4つ目の手順「ドリンク・パーティ」は、周囲でも評判のよい作品です。
わたしも、原理とその使い方には感心しました。
これはどちらかというと考え方に魅力を感じ、アイデアの源泉としてみたいと思わされる作品でしたね。
次に心惹かれたのは「身近な偉い人」です。
これは野島伸幸氏のアイデアをベースにしているそうです。
わたしのマジックの好みとしては、どちらかというと巧妙な原理や大胆なアイデアよりも、魅力的な演出や興味深い技巧に対して、”好き”という感情が働きます。
そういう意味で、この「身近な偉い人」はその惚けたような演出が大変魅力的です。
「メンタルマジックで奇跡を起こす本」全般的感想
この記事の冒頭で、ゆうきさんの意図はいわゆるテレビで宣伝されているようなメンタリズムの一端を読者に届けるというのとは、多分に異なるだろうということを書きました。
ゆうきさんは、今回の本のあちこちのコラムで、メンタリズムorメンタルマジックの危うさというものを強く説いておられます。
つまり超能力だと信じさせすぎてもいけない、かといってマジックだと強調しすぎるのも白ける、そのバランス感覚の難しさです。
この危うさは、プロでも無縁のものではない難しい問題で、一般の初心者読者にそれと同じレベルの感覚を要求するわけにはいかないでしょう。
だからこそ、この本ではゆうきさんはあえて、一般に言うメンタルマジックというよりは、かなり通常のマジック寄りの演目をも積極的に選択されているような感じがします。
ひとつの観点としては、トランプを使った作品が多く含まれているということが挙げられます。
全15作品のうち、6作品がトランプを使ったマジックですね。
1/3強がカードのマジックということになります。
その中でも、「ラッキーナンバー」などは正直言って、かなりメンタル要素の少ない、ほとんど普通のカードマジックなんじゃないかという気もしたぐらいです。
最近のテレビなどから得られる、一般的なメンタリズムのイメージとしては、スプーン曲げだったり、読心術だったりといったところで、トランプという題材は少ないですよね。
それでもゆうきさんは、メンタル・マジックを冠した書名にもかかわらずこういった演目を多く選択されたわけです。
そのことは、一般初心者が日常生活の中で演じるメンタルマジックとしては、スプーン曲げや仰々しい読心術などは、難しいだけでなく全く不適当ではないかという、暗黙のメッセージのような気がしました。
この本は、将来的にプロメンタリストになりたいような人が読む、メンタルマジックの入門書などではなく、あくまで非マジシャンの一般人が日常生活の場で役立てることの出来るコミュニケーション・ツールを提供するものなのですね。
随所に挿入されたコラムはもちろんのこと、作品解説の端々に、実践的で大切な、愛情あるアドバイスが散りばめられています。
また、演出の違いによって同じメソッドが全く異なるマジックに見える、という実例にも注目すべきです。
私自身ももちろん大いに学ぶところがありました。
ひとつには、文章で読んだだけでマジックの良し悪しを判断してはいけない、ということです。
これは長年マジックをやっていると忘れがちになります。
なかなか全てを実演にかけて判断するというわけにもいかない面もありますが、やはりこの原則はいつも心に留めておきたいものです。
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