昔からコインマジックの世界では、アメリカの50セントコイン、ハーフダラーが標準コインとして広く使われてきました。
ワンコインルーティンとか、コインズアクロスなど、一種類しかコインを使わないマジックでは、まずハーフダラーを使う。そして、プロットによって材質や大きさ、形状の異なるコインが必要であれば、別のコインを併用する。これが基本パターンです。
今でもそのパターンは崩れてはいません。しかし、ポン太theスミス氏のDVD作品集「Sick」が発売されて以来でしょうか、ワンダラーコイン、すなわちアメリカの1ドルコインを常用の標準コインとして使用する人が、増えてきた印象です。
ポン太氏はスペルバウンドやワンコインルーティン、ウイングドシルバーなど、手の中で演じるコインマジックでは、ほぼ全てワンダラーを使われています。これがまた格好良い。
私はワンダラーを常用しては居ませんが、ハーフダラーとの対比で用いている手順がいくつかあります。以前に当サイトで紹介した、沢浩氏のワン・ツーやワン・ツー・フォーなどがそうです。
また、通常の手順でも、サロン程度の距離感で、遠目にもコインの存在感を示したい場合には、ワンダラーを使うこともあります。
常用するにしてもポイント的に使うにしても、コインマジックを本格的にやるならば、ハーフダラーやイングリッシュペニーに加えて、ワンダラーも揃えておくべきコインのひとつです。
ここでは、マジックで使われる主なワンダラーコインを3種類紹介します。アイゼンハワー・ダラー、モルガン・ダラー、そしてアメリカン・シルバー・イーグルの3種です。これ以外に主だったものとしてはピース・ダラーがありますが、普通のワンダラーサイズの純銀コイン、という位置づけがモルガンと被るため、私は所有していません。
アイゼンハワー・ダラー
マジックで使われる1ドルコインの中では、アイゼンハワー・ダラーが最もベーシックなコインです。第34代アメリカ大統領、ドワイト・アイゼンハワーの横顔が刻まれています。アイゼンハワーの愛称から、アイク・ダラーとも呼ばれるコインです。
現在(2014年3月)の日本国内での価格は、大体1枚あたり800円程度のようです。
1971年から1978年まで製造されたコインで、これより後に作られたデザインの流通貨は、大きさが異なりかなり小さいため、マジックでは使われることはほとんどありません。
大きさは、約37.5mm、ハーフダラーより7mmほど大きいわけですが、かなり大きい印象です。日本人的感覚で言えば、コインというよりメダルです。
この写真の、左が表、下が裏面です。アメリカの国鳥であるハクトウワシが、月面に着陸しているシーンの絵になっています。
右側のコインも同じアイゼンハワー・ダラーの裏面ですが、これは1975年から1976年まで作られた、アメリカ建国200周年記念のコインです。自由の鐘と月のデザインだそうです。
ワンダラーと、ハーフダラー、イングリッシュペニーを並べたところ。(ワンダラーは同じサイズのモルガン・ダラーです)
サイズ比はこのような感じです。
モルガン・ダラー
アイゼンハワー・ダラーはハーフダラーのケネディ・ハーフダラーと同時期に作られたコインで、材質や製造法も同様です。つまり、俗にサンドイッチコインと呼ばれるように、銅とニッケル合金の貼り合わせで作られたものです。従って、側面には銅が見えていますし、光沢や重さ、手触りや音なども、銅貨のそれです。
以前にウォーキングリバティやバーバーコインの記事で述べたように、コインマジックに凝ると、サンドイッチコインでは飽き足らず、純銀(コインシルバー)のコインを愛好するようになる人が多いです。そんな人にとって、純銀のハーフダラーと組み合わせて使うには、アイゼンハワー・ダラーでは不都合なのです。
そのような需要に応えるコインとして、モルガン・ダラーやピース・ダラーがあります。
ここで紹介するモルガン・ダラーは、時期的にはバーバー・ハーフダラーと同時期のコインです。約100年ほど前のコインです。
現在(2014年3月)の日本国内での価格は、大体1枚あたり3000円程度のようです。状態や希少性によって、コレクション的なプレミアムが付く場合はもっと高くなります。
写真で左が表、右が裏面です。表面は女神の横顔、裏面はアメリカのコインでは共通のハクトウワシです。
大きさは、アイゼンハワー・ダラーと同じ直径約37.5mmです。
古いコインで、なおかつ銅貨に比べれば柔らかい材質の銀なので、コインの状態にはバラツキがあります。
以前にハーフダラーの記事で述べた、いわゆるソフトコイン状態のものも、モルガン・ダラーには存在します。マジシャンが人工的にソフトコイン加工をする場合も、ワンダラーで作成する場合はモルガンダラーが用いられることが多いでしょう。上の写真はそのようなものです。
アメリカン・シルバー・イーグル
最後に、流通貨ではありませんが、マジックに用いられることもあるワンダラーコインを紹介します。
アメリカン・シルバー・イーグルというコインで、これは地金型銀貨と呼ばれるものです。価格は銀の相場によって変動します。
最近だと1枚5000円以上するようです。
同じ1ドルコインですが、すでに紹介した通常の1ドルコインよりも少し大きいです。約40.2mmほどあります。普通のワンダラーをある程度見慣れた眼にも、これはメダルに見えます。
上の写真で左が表、右が裏面です。表には歩く自由の女神、裏面にはハクトウワシを紋章化した、アメリカの国章が描かれています。
このアメリカン・シルバー・イーグルをマジックに用いることでの、ひとつの特徴的な点は、表のデザインがウォーキング・リバティと同じであることです。この点は、ウォーキング・リバティと組み合わせて、分裂や変化などを演じるのには好都合な点かと思います。細かい部分ではありますが。
各種ワンダラーの厚み比較
最後に厚みの比較です。まずはワンダラー(モルガン)とハーフダラー(ウォーキングリバティ)の比較。
ワンダラーのほうがだいぶ厚いです。ハーフダラーの、約1.3倍といったところでしょうか。
モルガン・ダラーのあまり磨耗していないものの厚みを測ってみたところ、1枚あたり約2.6mmでした。ハーフダラーは約2mmです。
ワンダラー同士の厚み比較。
ほぼ同じ程度ではありますが、アイゼンハワーが最も薄く、シルバー・イーグルが最も厚いです。アイゼンハワーが1枚約2.4mm、モルガンが約2.6mm、そしてシルバー・イーグルが約2.8mm。
直径も厚みも大きく、銅よりも比重の大きい銀で出来たシルバー・イーグルは、手に持ったときの感触もずっしりと重たいです。
あと上の写真では、アイゼンハワー・ダラーの側面のサンドイッチ状態も観察できるでしょうか。
ワンダラー・コインを用いることの利点と欠点
ワンダラーコインをレギュラーのコインとして用いる場合の、ハーフダラーと比較した利点と欠点について考えてみます。
まず利点からです。
まず、大きくて見栄えがする点が挙げられます。やはり7mmの差は大きいです。10m以上も離れて多数の観客相手に演じる場合、ハーフダラーでは少々貧弱な印象があるかも知れません。ワンダラーであれば見た目にもアピールしますし、ぶつけた時などの音も大きいです。
技法的な利点もあります。コインが大きいことによって、あまり指を曲げずに済むので、おそらくフィンガーパームなどは自然に見えるでしょう。さらに利点というより、例えばポン太氏の技法には、ワンダラーでなければ出来ないものもあります。
リテンション・バニッシュでも、コインの大きさによって、ハーフダラーよりも残像効果が際立ちます。(難易度は多少上がるかも知れませんが)
逆に欠点と言いましょうか、ワンダラーではどうしても不都合な技法などもあります。例えば、よほど大きな手の人でない限り、ワンダラーでパースパームは厳しいでしょう。
また、その大きさゆえに、手に隠す際の物理的限界もあります。ハーフダラーであれば、5枚6枚をクラシックパームするような手順は普通にあり、場合によっては10数枚隠すようなこともあります。
しかしワンダラーでは、6枚もパームすれば一杯一杯ではないでしょうか。
コインアセンブリ系統のマジックでは、カードに対する大きさの割合が問題となります。ハーフダラーであれば、ポーカーサイズのカード1枚の下に、4枚が何とか完全に隠れます。しかし、ワンダラーが完全に隠れるのは、せいぜい2枚です。もっとも、これは欠点とも利点とも言い切れませんが。
また全体的な話として、最初に述べた「目立つ」という利点と表裏一体の欠点として、その大きさゆえに、単純に色んな場面でフラッシュ(見えてはいけないものが見えること)しやすいという面もあります。
私は基本はハーフダラーを使い、ワンダラーを常用はしていません。しかし場合によっては、これをレギュラーとして複数枚使うような場合もありますので、各種4枚ずつは持っています。
今までハーフダラーを使っていて、これからワンダラーを揃えてみようという人は、まずは1~2枚入手すれば、ハーフダラーと併用するようなマジックは大抵カバーできるのではないでしょうか。
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