カードマジック

O henry aces

「オー・ヘンリー・エーセス」 “O’Henry Four Aces” サッカー・クライマックスの4Aアセンブリ

奇術は意外性が全て、とまでは言いませんが、極めて重要な要素であることは確かです。
不思議や驚き、意外性は、似た要素ではあるものの、完全に重なる概念ではありません。数多くのマジックの中には、不思議だけど意外性には乏しい、という作品が多くあります。

カードマジックの中でもフォー・エース・アセンブリ、とりわけSlow Motion Four Acesと呼ばれる分野は、意外性の欠如を指摘されることの多いプロットです。
ダイ・バーノンが最初にSlow Motion Four Acesを発表した時点で、当時の奇術界の大御所であるジーン・ヒューガードから、意外性を自ら殺しているような作品だ、との批判を受けたそうです。

今回ご紹介のオー・ヘンリー・エーセスは、クラシック・エース・アセンブリの意外性を犠牲にすることで誕生したとも言えるスローモーション・フォア・エーセスに、もう一度さらに意外性を導入した作品です。
同様のプロットを持つ作品は現在では多数発表されていますが、それらをひっくるめたカテゴリ自体の総称としても、オー・ヘンリー・エーセスという名称は定着しています。

この作品では、意外性を達成するために、一瞬失敗したと見せかけて観客の裏をかく、いわゆるサッカー・トリックの手法を取り入れています。
このオー・ヘンリー・エーセスは、エース・アセンブリにサッカー・トリックの構造を取り入れた作品の代表的なものです。
いえ、むしろカードマジック全般の中でも、サッカー・トリックとして上位に記憶される作品でしょう。

 

オー・ヘンリー・エーセスとは

では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。

サッカー・トリックの構造としては、マジシャンの失敗というよりは、とにかく予定調和を崩してみた、といったところですね。
このように、最後に4枚目のエースがリーダーパケットに集まるべきところが、予想を裏切って3番目の”子”パケットに全て移動する。これがO’Henry Acesに類するカテゴリの基本プロットです。

以前に当サイトで紹介したダーウィン・オーチスのヒッチコック・エーセスも、O’Henry Acesの系統に属する作品のひとつです。あちらの作品では、さらにリーダーパケットからは別のフォア・オブ・ア・カインドが出現するというエフェクトが追加されていました。

ノーマルなスローモーション・フォア・エーセスの予定調和的な構成も、ある種の様式美的な要素もあり、そちらはそちらで個人的には大好きです。
O’Henry Acesは、現象だけを見るならば、プロットに屋上屋を重ねて複雑化しているような印象も受けます。とくに、「エースがなぜそこに移動するのか」という合理的な理由が無いのも、弱い点かも知れません。
それは措いても、意外性の効果は抜群です。筆者は今回紹介のオー・ヘンリー・エーセスよりは、ヒッチコック・エーセスのほうを好んで演じていますが、一般客相手の演目としても充分な魅力を備えていると思っています。

ただし、意外な結末を導入するための、ハンドリング上のトレードオフも存在します。それは、それぞれのAに3枚ずつのカードを配るタイミングです。
通常のエースアセンブリでは、まず最初に全てのAに3枚ずつのカードを配ってしまうので、あとはそれぞれの消失と、リーダーパケットへの出現を表現するだけで事足りるわけです。
ところが、一般的にはO’Henry Acesプロットでは、子のパケットに3枚のカードを配る操作を、その都度行わざるを得ないのです。これは、見た目を多少煩雑にしてしまう要素かと思います。

O’Henryという名称の由来は、ヒッチコック・エーセスの記事でも触れましたが、20世紀初頭に活躍したアメリカの作家O’Henryから来ています。
かの小説家の作風の特徴は、読者の意表を付くどんでん返しであり、この奇術のプロットもそれと同様の意外性を備えている、という趣旨かと思われます。

 

なお今回の動画の演技は、この奇術の原典にあたったものではなく、日本語文献の「カードマジック入門事典」の解説に沿ったものです。
入門事典のクレジット情報では、題名が”O’Henry Four Aces”で考案者がRoger Smithとなっています。しかしここに掲載されたものは手順構成などからして、ロジャー・スミスの原案ではなく、フランク・ガルシアによって発表されたバージョンだろうと、私は考えています。ちょっとガルシアの書籍に当たれていないので、断言は出来ませんが。
このあたりの経緯については、この後さらに詳しく述べます。

ちなみに、動画の冒頭で演じているフラリッシュは、O’Henry Acesそのものとは関係ありません。
これはイギリスのマジシャン、ベンジャミン・アールのDVD「パスト・ミッドナイト」で紹介されているもので、最近の私の手癖になりつつあるので、ちょっと取り入れてみました。

 

オー・ヘンリー・プロットの源流と関連作品

ここでは、O’Henry Acesの歴史的な経緯の概略と、主な関連作品を紹介します。

まず、前述の「カードマジック入門事典」では、作品名をオー・ヘンリー・エーセス、作者名をロジャー・スミスとされています。一般的な奇術マニアの認識でも、少なくとも日本ではこのクレジットで記憶されているように思えます。
しかし、実際にはそう単純な構図でも無いようです。

先に結論を述べますと、このプロットの先駆者(少なくともその一人)がロジャー・スミス、そしてO’Henry Acesという名前を付けたのは(少なくともその名で発表したのは)フランク・ガルシアなのです。「Super Subtle Card Miracles」(1973)というガルシアの本に、”O’Henry Four Aces”の名で発表されたのが、このプロットにO’Henryの名が付けられた最初であるようです。ただこの手順も、フランク・ガルシアだけによる作品というわけでもなく、幾人かの人名とともにロジャー・スミスの名前もクレジットされているそうです。
私はこの本の原典に当たれてはいませんが、いくつかの情報を参考に、入門事典に掲載されているのはこの手順であろうと考えています。(参考にしたウェブページ12)
上記のような事情を総合的に斟酌して、プロットの原案者という意味で、入門事典ではロジャー・スミスの名がクレジットされたのではないでしょうか。

さてすでに述べたようにプロットの名称は「Super Subtle Card Miracles」(1973)で登場し、それが定着したわけです。しかし、ロジャー・スミスによるこのプロットの作品は遡ること2年前、「Revolutionary Card Compositions」(1971)において、”Slow Motion Ace Switch-A-Roo”と題して発表されています。
一般にはこのオー・ヘンリー・プロットの原点はこの”Slow Motion Ace Switch-A-Roo”とされています。しかしそれより前の1969年の時点で、イギリスのトレバー・ルイス”Trevor Lewis”によって、このプロットの手順が演じられていたことが分かっているようです。ただし彼の作品”Topsy Turvy and Slow Motion Plus”が発表されたのは雑誌「New Pentagram vol.3 No.11(January 1972)」であり、ロジャー・スミスより後となっています。
また、これらと同時期の作品としてウェスリー・ジェイムズ”Wesley James”による”LSD Aces”があります。これは”Topsy Turvy and Slow Motion Plus”に影響を受けて作られた作品のようです。

その後、単純なオー・ヘンリー・プロットからさらに発展させたプロットとして、ダーウィン・オーチスの”Hitchcock Aces“「Darwin Ortiz at the Card Table」(1988)があります。
また別のアプローチからの発展プロットとしては、ジャズ・エーセスにオー・ヘンリーのサッカー・クライマックスを付加した手順があるようです。Louis Falangaの”Jazz Fusion”「The New York Magic Symposium Collection 4」(1985)などが有名だとか。以前私は、このアプローチは例が少ないと思って、ジャズエーセスにヒッチコックのクライマックスを付加する手順をいくつか作っていましたが、意外と先例はあるようです。

上述の”LSD Aces”はいずれ近いうちに当サイトで取り上げてみるつもりです。オー・ヘンリーに限らず、エース・アセンブリは私にとって大好きな分野なので、今後も継続的にテーマとして取り上げてゆこうと思います。

 

オー・ヘンリー・エーセスを解説した文献等

O’Henry Acesを解説した日本語文献で最も手に入りやすいのは、東京堂出版の「カードマジック入門事典」でしょう。
また、同じ手順の英語原典は、上述したように確証は得られていませんが、フランク・ガルシアの「Super Subtle Card Miracles」(1973)であろうと思われます。

その他、松田道弘氏の「松田道弘のオリジナルカードマジック」には、”スローモーション・スイッチャローの改案”と題して、氏自身によるこのプロットの改案が紹介されています。

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コメント

  • コメント (4)

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    • 峯崎浩一
    • 2014年 3月 05日 2:16pm

    > パケットに3枚のカードを配る操作を、その都度行わざるを得ないのです。
    これは私も同意見です。あとAを開く順番なんですけど、1枚目と2枚目は
    客側→演者側と開いてくのに対し、3枚目だけ演者側→客側と順番が変わります。
    手順上これは仕方ないのですが、ここだけ違和感を感じてしまいます。
    まぁそれを差し引いてもサッカー・トリックの傑作には間違いありませんが。

    • 確かに仰るとおり、パケットを開示する順番の問題がありますね。
      同じオー・ヘンリー系でもヒッチコックエーセスの場合は、エースのほうを開いてから、最後に絵札という流れで演じていますが。
      原案のオー・ヘンリーではちょっとやむを得ないでしょうか。

    • 峯崎浩一
    • 2014年 3月 06日 9:38pm

    人によっては開示する順番なんて気にしないという意見もあるでしょうけど
    スローモーション・フォア・エーセスの場合、流れの美しさを堪能したいので
    開示の順番が途中で変わる行為は何かスッキリしないんですよね。

    それを解決しようと考えたのが・・3枚目のAを客に押さえてもらった後で、
    「では最後はやり方を変えて、お客様の手の下に集めてみせましょう!」と
    セリフを変えてみる案です。でもこれだとサッカー・トリックじゃなくなり
    ただのスローモーション・フォア・エーセスになってしまいますよね。(^_^;

    やはり意外性を考えた場合、この原案が一番ベストな気が致します。

    • 私も、スローモーションフォアエーセスでは開示の順番は重要だと思います。
      確かに、せっかくオーヘンリーを演じるのなら、サッカー・トリックの味は殺したくはないですね。

      一応私の感覚としては、前の2枚のAと3枚目のAの間を区切る意味でも、8枚の関係ないカードを一旦片付けるようにしています。
      ここで多少の仕切り直しを入れれば、開示順が変わる違和感も、ある程度は緩和されるかなと。
      ヒッチコックエーセスでも、最初の8枚を途中で片付けていますね。

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