コインマジック

スペルバウンド

「スペルバウンド」”Spellbound” コインマンの見果てぬ夢

近頃では「スペルバウンド」としてGoogle検索すると、同名のオンラインRPGのサイトが多数上位にヒットしますね。

しかし本記事でご紹介するのはRPGではなく、ダイ・バーノンによって”Stars of Magic”に発表された、コインマジック作品のほうです。

 

この手品はエドワード・ヴィクターの”Changing Coin”という手順が原型となっているそうですが、やはり決定的に有名となったのは”Stars of Magic”以来でしょう。

 

それ以降、数多くのコインマンがこのテーマに挑み、たくさんのバリエーションが発表されています。

リチャード・カウフマンの著書”Coinmagic”(邦訳:世界のコインマジック)では、1章がまるまるスペルバウンドのテーマに割かれているほどです。

 

スペルバウンドというコインマジック

スペルバウンドは多くのコインマンを魅了してやまない一方、明確にこの手品のテーマを好まない人もいます。大阪のミスターマジシャンの店主である根本毅氏は、はっきりカタログ内の文章で「スペルバウンドは嫌いである」と表明されていました。

 

私はどちらかというとスペルバウンドが好きな方ですが、そのジレンマも理解できます。

1枚のコインがめまぐるしく変化しつつも、手の中には1枚しか無いように見えるというのは、ある意味コインマジックでの究極の技術的挑戦です。基本的にはスペルバウンドの手順はミスディレクションやオフビートなどとは無縁の世界で、純粋技巧が試されると言っても過言ではないでしょう。

このような点がおそらくは、多くのコインマンを惹きつけるポイントなのだと思います。

 

反対にスペルバウンドを嫌う人の理由も、まさにこのあたりにあるのではないでしょうか。

ある意味技術を見せ付けるような性格を持ったマジックであることと、かなり上手く演じても、余分なコインの存在を全く感じさせないことは難しいということが挙げられるかも知れません。

 

エドワード・ビクターの原型が”Changing Coin”であったのに対して、ダイ・バーノンが”SpellBound”と名づけたことも意識すべきでしょう。

“SpellBound”は呪い、呪縛といった意味で、”Changing Coin”ではなく”SpellBound”と名づけた意味は、すり替えているという疑念さえも持たれてはならない、完全な魔法であるべきだという意思表示でしょうか。

 

私のスペルバウンド

私もスペルバウンドは昔から好きで、色々な手順を練習したりレパートリーにしたりしていました。

以下にご紹介するのは、その中でも比較的複雑なことをしないシンプルな手順です。

 

 

この演技のスペルバウンド部分は基本的には、デビッド・ロスのワイルドコインの手順の途中に入っている連続変化部分を参考としたもので、デレック・ディングルのアイデアなどが含まれた手順です。

 

またこの動画では、スペルバウンド現象の前に軽くワンコインルーチン的な演技を入れていますが、その意図を以下にご説明します。

 

スペルバウンドでは、連続変化現象を見せつつも、他のコインを持っていると思われてはなりません。

しかしそれを技術で実現するには、かなり高難易度なテクニックが必要とされる場合が多いです。

 

高度なテクニックを使ってモタモタするよりは、易しくシンプルな技法で確実に行ったほうが良いのはあらゆるマジックに当てはまることです。

しかしスペルバウンドで易しい方法というのは得てして、余分なコインが無いという説得力に欠ける場合も多いのです。

 

そこで今回の私の手順では、スペルバウンドの前にワンダラーのプロダクションやワンコインルーティンを演じることで、ディレイド・クライマックスの理屈によって、前半のワンコインルーティン自体が、余分なコインが無いことの間接的な証明になることを意図しています。

 

なお、動画中で使用しているコインは、記事冒頭の写真にあります、モルガンダラー銀貨と、名称は知りませんが台湾のお土産にもらったコインです。このチャイニーズコインはワンダラーよりはいくぶん小さいですがおおむね同じ大きさなので重宝しています。

 

スペルバウンドを学ぶための文献等

スペルバウンドを解説した日本語の本は、結構あります。

 

まず有名どころとして、「コインマジック事典」にはダイ・バーノンの原案が解説されています。

また二川滋夫氏の「基礎からはじめるコインマジック」にも、初心者が取り組むのに適した氏の手順が解説されています。

 

荒木一郎氏の「テクニカルなコインマジック講座」には、詩的なストーリーを持ち予期せぬエンディングのあるスペルバウンド手順が載っています。

 

松田道弘氏の「遊びの冒険シリーズ5巻 とっておきクロースアップマジック」では、エドワード・ビクターの作品が紹介されています。
さらに、記事文中でも触れましたが、「世界のコインマジック1」には1章をもうけて10種類のスペルバウンド手順が解説されていますし、「世界のコインマジック2」にもマイケル・ルービンシュタインによるクイッキーなトリプルスペルバウンドが解説されています。

 

さらにマニアックなところでは、「ニューヨーク・マジック・シンポジウムコレクション5」に六人部慶彦氏の”Triple Knockout Spellbound”、「夢のクロースアップマジック劇場」に三輪晴彦氏の”Quadruple Change Spellbound”、「ニューゼネレーション+α」に六人部慶彦氏の”Quadruplicate Spellbound“が掲載されています。

 

DVDでは、デビッド・ロスの「エキスパート・コインマジック・メイドイージー」の2巻に収録されている手順は、ちょっと一般的なスペルバウンドとは印象が異なりますが、実用的な面白い手順だと思います。

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