偶然の一致は、カードマジックで表現できる最大級の不思議のひとつです。
ちょっと思い出しただけでも、アウト・オブ・ジス・ワールド、Do as I do、Million to One Chance、ダブル・リバースなど、このジャンルの傑作を幾つも挙げることが出来ます。
実のところを言うと、私自身のマジックの嗜好は、消失・出現・変化・貫通・移動・増加など、物理的な不可能現象に偏る傾向があります。
ですからコインマジックやカップ・アンド・ボールが大好きですし、カードマジックにおいてもエースアセンブリのような、消失・移動系のマジックが好きです。
そういう意味で一致現象はそれほど好みではなく、上に挙げたOut of This WorldやMillion to One Chanceなども、傑作だと理解は出来ますが、あまり好んで演じたいと思いません。
そんな私にとっても、今回ご紹介のロイ・ウォルトン作「色の一致」”Coincidence in Colour”は、演じてみたいと思えるほどに魅力的な作品です。
ちょっと直截的でシンプル過ぎる題名の作品ですが、その名称から感じられる野暮ったさを覆すぐらいの良さがあるマジックです。
ロイ・ウォルトンの「色の一致」
では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。
偶然の一致によって、特定色のカードのみが抽出されるという現象で、これはアウト・オブ・ジス・ワールドに似ているとも言えます。
アウト・オブ・ジス・ワールドの場合、原案であればデック全部、簡略化したUFグラントの改案等でも10数枚は配る手続きがあり、ともすれば冗長になりがちなきらいもあります。
ところがウォルトンの「色の一致」では、お互いに配るカードは合わせても4枚。各2枚ずつです。
このシンプルでスピーディーな構成は、気軽に演じるのに最適で、それほど演出に気を使わなくても、観客を飽きさせることが無いでしょう。
また、お互いにパケットを持って同じ操作を同時に行うというのも素晴らしい点です。言うなれば、Do as I doのような手続きで、Out of This World的現象を達成していると見なすことも出来るでしょうか。
やっぱり、演者だけが操作を行うのではなく、逆に指示されて観客だけが行うのでもなく、両者が一緒に操作を行うという形は、観客にとってはマジックの現象に入り込みやすいと思います。不思議を味わうだけでなく、楽しめる要素も増すでしょうね。
ところで冒頭で挙げた作品の中でも、Do as I DoやDouble Reverseなども観客とマジシャンが同時に同じ操作を行うという構成です。
これらの作品では、途中でマジシャンと観客のパケットを入れ替えるという操作が入りますが、「色の一致」ではそういった交換手続きも含まれないという点で、さらにシンプルな形と言えるでしょう。
仮に観客がマジシャンであっても、この手順を知らずにDo as I Do的な原理を予想して見ていれば、意外な結末に驚くのではないでしょうか。
最後にもう1点。
「色の一致」では単に10数枚のパケットを2つ取り出して手順を始めるだけで、最初に色については何も言及しません。この手順でお互いにカードを出し合っている段階で、もしかしたら色が一致するのではないか?などと予測できる人はほとんど居ないでしょう。仮に一致を予測したとしても、その4枚のみが全体の中の色違いであった、という結末は予想を裏切ることは間違いありません。
以上のようなところで、個人的には「色の一致」は、やっぱり色々な面から見て、Out of This WorldとDo as I doの良さを合わせたような手順だと思えます。
ちょっと、Out of This WorldやDo as I do、それからDouble Reverseとの比較ばかり書いてきたので、相対的にこれらの奇術を貶めているような印象を持たれたかも知れません。
しかし決してそういうわけではなく、全ては長所と短所の相互的な割合の問題に過ぎないのは、ほぼあらゆるマジックの常です。
例えば「色の一致」の短所を探すならば、終わり方がOut of This WorldやDo as I doと比べるならばクリーンでない、という面はあります。
それから技術的にも全く難しくはなく、むしろ易しいほうですが、Out of This WorldやDo as I doに比べれば多少の技術が必要とも言えるかも知れません。
しかし総合的に見て、偶然の一致現象の中では、この作品は私の好みです。
ロイ・ウォルトンの「色の一致」を解説した文献等
この作品は「Tale Twisters」という冊子で発表され、その後1981年に出版されたロイ・ウォルトンの集大成「Complete Walton」の1巻に収録されています。
日本語では、東京堂出版から出ている「カードマジック入門事典」、および「奇術入門シリーズ カードマジック」に収録されています。
「偶然の一致」は好みなカテゴリーですね、この作品はもちろんですし
Paul Green の Jeopardy とか、荒木一郎のサイババの数字などが好きです。
ただこれらの作品はビジュアルじゃないので、動画にしずらい演目かも・・
管理人さんが好みじゃないのも、その辺りの理由もあるのでは?
私も、嫌いというわけではないんですけどね。どちらかといえば、物理的現象のほうが好みというだけで。
動画向きでないから、当サイトで取り上げる対象としてちょっと、というのは確かに無いでもないです。今回の記事を書くまで、カテゴリーに「カードの一致」がありませんでしたから。
他にもやっぱり、メンタル系のものは取り上げにくいですね。
バーノンのOut of sight, out of mindとか好きなんですが、あれはどう考えても一人で撮る動画ではサマになりませんし。
まあしかし、出来るだけ工夫して、そういうものも取り上げてみたいと思っています。
Paul Green の Jeopardyは知りませんでした。ちょっと調べてみます。
ちょっと訂正です、Paul Green の Jeopardy は
カテゴリー的には予言ですね。(^_^;
出典は Paul Green の DVD “In The Trenches” で
動画もあります。
動画を見せていただきました。
これは面白いですね。
作品が良いだけでなく、この動画の演技も素晴らしいと思いました。
アリ・ボンゴのごちゃまぜ予言のバリエーションにあたるのでしょうか。
おそらくアリ・ボンゴと同じ作品だと思います。手元に松山さんの本が置いてないので確認できないのですが・・
ところで動画に話を戻しますが、パケットの上下を交差させるような混ぜ方をしてますけど、このシャッフルに名称はあるのでしょうか?
私もちょっと色々調べていましたが、アリ・ボンゴもこの現象のオリジナルというわけではないようですね。
フレンチドロップの石田さんのコラムによれば、この現象のそもそもはボブ・ハマーの作品らしいです。
https://www.frenchdrop.com/column/?page=045
ここでやってるパケットのシャッフルの名前ですが、正確には分かりません。
ただし、これと類似の動きで行うフォールスシャッフル(カットと同じ結果になるシャッフル)はヘイモウ・フォールス・シャッフルと呼ばれています。
動画でやっているのはそれで混ざるシャッフルなので、もしかしたらヘイモウ・シャッフルと呼ぶのかも知れません。確証はありません。
欧米人の非マジシャンは、結構この混ぜ方をする人が多いとも聞きます。
ヘイモウシャッフルですか、ありがとうございました。
ギャンブル系ではまず見かけないし、かといってやってる人はいるし
ちょっと気になった次第です。
先日ゆうきさんに会う機会がありまして、彼の手順によるこの作品
(mML 第28号に収録されたもの)を見せてもらいました。
クライマックス(残りのカードが全て違う色)への持ってき方が秀逸で
さすがゆうきさんらしいタッチに感心した次第です。
このブログを読んで演じてくれまして、ちょっと恐縮でしたね。(^-^;
mML 第28号のYoutube映像を見てみました。
いや~、素晴らしく自然でスマートなタッチですね。まさにさすがというところです。
ゆうきさんには、当サイトを見ていただいているだけでなく、内容についてのご指摘も頂いたことがあったりで、大変ありがたく思っています。