アル・ベーカーのコインズ・スルー・ザ・テーブル ”The Magical Filtration of Four Half Dollars” by Al Baker

coins through table s

奇術の世界にも流行り廃りがあります。
コインマジックの分野での近年の流行は、スリー・フライなどに代表されるような、テーブル無しのスタンドアップタイプの手順が主となっている感があります。

コインズ・スルー・ザ・テーブルは、古典的コインマジックの中でも花形です。松田道弘氏は「クラシックマジック事典」において、故高木重朗氏の言葉として「コインマジシャンはそれぞれ独自の方法を持っている」との発言を紹介されています。

「テーブルを貫通する」というプロットからして、気軽なストリートやウォークアラウンドの演技には向きません。ある程度整った環境の「ショー」向けの演目と言えるでしょう。そういった適切な舞台さえ用意できれば、今なお観客を惹き付ける訴求力のあるトリックのひとつです。

同じプロットの作品としては、当サイトでは以前にダイ・バーノンカンガルー・コインズチャイニーズ・クラシックを紹介しています。
これらとの比較では、今回紹介のアル・ベーカー”Al Baker”による”The Magical Filtration of Four Half Dollars”は、カンガルー・コインズと同系の作品です。つまり、複数枚の一括貫通ではなく、1枚ずつの貫通を見せてゆくタイプです。
系譜としては、カンガルー・コインズの直接のベースとなった手順でもあります。今回紹介の手順に、グラスを用いる要素を加えたのが、カンガルー・コインズというわけです。

 

アル・ベーカーのコインズ・スルー・ザ・テーブル

では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。

>>動画リンク<<

この作品は今日では一般にコインズ・スルー・ザ・テーブルとして知られています。作品名というより、プロットの総称でもあります。
が、この作品の発表時の名称は”The Magical Filtration of Four Half Dollars”です。直訳すると、4枚のハーフダラーの不思議な貫通。いえ、”Filtration”というのは貫通というよりは、じわじわと浸透するようなイメージでしょうか。作者の表現したい現象が見えてくるようです。

コインズ・スルー・ザ・テーブルというのは、名称は「テーブルを通り抜ける」となっていますが、実際に見せていることは、片手からの消失、および反対の手への出現です。
つまり、一般的なコインズ・アクロスと変わりません。両手をテーブルの上に出したままで演じればコインズ・アクロス。同じことをテーブルを挟んで上下で行えば、コインズ・スルー・ザ・テーブルになるというわけです。

そうは言うものの、観客に与える印象はずいぶん違うと思います。
まず、手と手の間にテーブルという明確な物理障害があるというのは大きな違いです。今そこにあると思っていたコインが、テーブルに叩き付け、こすり付けるうちに消えてしまうという視覚効果は、ただのアクロスよりは数段上かと思います。

それから、アクロスでは左右の手はいわば対等な位置関係で、どちらからどちらに移動するかというのが、ともすれば分かりにくくなるという恐れがあります。バックファイヤー現象(途中で元に戻る)などを織り込んだりすると尚更です。
その点でも、スルー・ザ・テーブルでは上下という明確なヒエラルキー(序列・階層などの意味)があるので、移動の方向を途中で見失うという危険性はぐっと少なくなるはずです。

 

上記は外見的な現象から見たアドバンテージです。
さらに細かな秘密の手法面においても、コインズアクロスと全く同じ戦略はもちろん使えます。またスルー・ザ・テーブルではさらに、それ以上のプラスアルファの方法論も使えます。ここではあまり詳しくは述べませんが、テーブルを前に腰掛けていることによって、左右の手以外のアドバンテージを活用できると言いますか。
この要素を活用することにより、一般的なコインズアクロスと同じワン・アヘッドの原理を使っていたとしても、遥かにクリーンなディスプレイが可能になるのです。
動画で演じたアル・ベーカーの手順でも全体的にそういった要素が利用されていますが、とくに2枚目や4枚目の扱いで顕著かと思います。

 

なお、動画で演じた手順はBoboの「Modern Coin Magic」に解説された手順に沿っています。この解説では4枚目の貫通フェーズについて、基本パターン以外にフランク・ガルシアによる別案手法が解説されています。私が今回演じたのは、その別案のほうです。
解説にある基本のほうの手順では、2枚目の貫通と似たハンドリングが4枚目にも採用されています。
演技する側としては、できればそれぞれの手法にバリエーションを付けたいこともあります。また個人的に、ここで言うガルシアの別案のほうが、今日広く演じられている手順には近いと思えましたので、動画のようなハンドリングにしました。

 

それから、4枚目のコインを貫通させる直前の、テーブル上でのサトルティについて。
ラストの1枚をコンコンとテーブルに打ちつけ、バチンと音を立てて置く部分の見せ方です。
私は元々、このやり方をスライディーニの2枚のコインの貫通手順で学びました。師の手順では巧妙に組み立てられたタイミングと視線がイリュージョンを生み出すようになっているのですが、その中でこの音のサトルティも使われていたのです。私はこれがてっきり、スライディーニのものだと思っていました。
ところが今回、あらためてアル・ベイカーの手順をきちんと読み返したところ、最後の1枚においてこのサトルティが用いられていたのです。コインズ・スルー・ザ・テーブルの原点とも呼べるこの手順において、このアイデアがすでに用いられていました。これは今回、私にとってはちょっとした発見でした。

 

アル・ベーカーのコインズ・スルー・ザ・テーブル

この作品は元々、Al Baker著「Magical Ways and Means」(1941)に掲載されました。
その後J.B.Bbo著「Modern Coin Magic」(1952)にも収録されています。
また、近年出版されたアル・ベーカーの集大成である「The Secret Ways of Al Baker 」(2003)にも「Magical Ways and Means」の内容が収録されています。

日本語では、東京堂出版の「コインマジック事典」掲載のコインズ・スルー・ザ・テーブル(2)という手順が、アル・ベーカーのものに近い内容です。

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コメント

  1. お久しぶりです。Koudaiです。さすがの演技です。
    コインスルーザテーブルを演じることは、実はあまりないのですが、
    やはり動画でみるとやってみたくなります。
    コインズアクロスよりも見た目の不可能性が高いというのは、目から鱗でした。

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