テーブルの上に並べたコインに紙片をかぶせた状態で、コインの移動を見せるマジックは、1909年発行の「The Art of Magic」に掲載されたYank Hoeの”Sympathetic Coins”が原点とされています。
その後この分野のコインマジックは一般的にコイン・アセンブリーと呼ばれるようになりましたが、その中でもAl Schneiderによって考案されたマトリクスは、そのシンプルさ、視覚的効果によって、コイン・アセンブリーの古典となっています。
今や、「コイン・アセンブリー」に並んで「コイン・マトリクス」も、この分野のコインマジック総称する名称として通用する印象です。
コイン・マトリクスは現在でも新しい作品が発表され続けています。
近年ではポン太・the・スミス氏やもっさん氏の作品がとくに注目を浴びています。
最近の流行はカードマジックでもコインマジックでも、ビジュアルな現象が好まれており、例えばコインズアクロスであれば従来の4枚を握って移動させるものよりも、スリー・フライを演じる人が多いです。
コイン・マトリクスもその視覚効果の高さから、現代の流行にマッチしたコインマジックと言えそうです。
コイン・マトリクスの現象
アル・シュナイダーによって発表された作品名はシンプルに”Matrix”ですが、今日ではコイン・マトリクスと呼ばれることも多いです。
以下はわたしが演じているマトリクスですが、アル・シュナイダーの原案と同じではないことをご承知おきください。
この手順を特徴付けるのは、カードを4枚使うことと、PU Move(技法名なので頭文字のみです)の使用にあると思います。
PU Moveは”Dingle Schneider PU Move”とも呼ばれ、アル・シュナイダーとデレック・ディングルが同時期に独自に考案したとされることからこのように呼ばれます。
(本当はまったく同じ技法というわけではなく、この2人では多少タッチが異なりますが)
このPU Moveはその後のマトリクス、コインアセンブリのひとつの標準技法となり、数え切れないくらい多くの手順に使われています。
他のコイン・アセンブリに比べて、マトリクスの特徴は不思議さよりもどちらかというと、テンポと視覚的効果にあると思います。
直前まで別の場所に見えていたコインが、刹那の瞬間に次の場所に飛び移る、この視覚的な鮮やかさこそが、マトリクスの肝と言えそうです。
コイン・アセンブリとマトリクスの違いは?
コイン・アセンブリとマトリクス、どちらもこの種のコインマジックの総称的な意味合いで使われることも多いので、この2つの用語に違いはあるのかという疑問が湧くと思います。
わたしの個人的な感覚では、ニュアンス的な違いはあると思っています。
まずコイン・アセンブリという言葉は、この分野の総称としての認識で間違いないでしょう。
使うコインは3枚or4枚、カードは1枚、2枚、4枚あたりが一般的でしょうけど、このうちどの組み合わせでもコイン・アセンブリと呼ばれうると思われます。
チンカ・チンクもコイン・アセンブリの一種かも知れません。
そして、マトリクスはコイン・アセンブリのひとつのカテゴリを示す名称ではないでしょうか。
具体的には、4枚のコインと4枚のカードを使い、なおかつコインを手に握ったりする操作のないものがそう呼ばれているような感覚があります。
つまり、アル・シュナイダーの原案から見かけ上大きく外れていないようなものを、マトリクスと呼んで良いのかなと。
マトリクスというのは数学用語の行列ですからね。
やはり4枚のコインを4角形に並べるものだというイメージはあります。
ただしこれに当てはまらない作品もすぐに思い浮かびますね。
例えばジョン・ケネディーの商品化作品「インポシブル・マトリクス」などです。
この作品では、(見かけ上)3枚のコインと2枚のカードを使います。
まあこの作品でも、手順のメインの部分ではコインを握ったりしないので、上で述べたパターンと多少の共通点がなくもないかも知れませんが。
結局は作品に命名する個人の感覚なので、厳密な定義は意味ないのかもしれません。
しかしそのうち機会があれば、今までに発表されているコイン・アセンブリーをできるだけ多く集めて、その現象のパターンと”コイン・アセンブリ” or ”マトリクス”の命名傾向の関連性を整理してみれば、結構面白いかも知れませんね。
コイン・マトリクスを解説した本
日本語の本では、「カードマジック事典」掲載の「コイン・アセンブリー (Four Cards)」というのが、ここで紹介のマトリクスに近い形の手順です。
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