先日のPerpetual Motion Poker Routineに続き、「カードマジック事典」からポーカー・デモンストレーションの作品をご紹介します。
デレック・ディングルによるかなり凝った趣向のポーカーデモンストレーション、その名も”Master Poker Demonstration”。
東京堂出版から出ている邦訳版では、「名人によるポーカーの実演」と訳されています。
「カードマジック事典」掲載の3つのポーカーデモンストレーションの中では、一番技術的にも難しいのではないでしょうか。
ポーカーデモンストレーションとは一般に、文字通りポーカーのゲームをテーマとしており、中でもとくにイカサマ師がどのようにして良い役を作るか、を実演してみせるという趣向のジャンルです。
「カードマジック事典」掲載の中でもダイ・バーノンとブルース・サーボンの手順は、ギャンブラーの手口というか、いかに鮮やかに良い手札を集めてみせるかという内容で、これらはいわば普通のポーカーデモンストレーションですね。
それに対して、このデレック・ディングルの作品は彼の持ち味に合わせ、奇術的要素がより強い内容となっています。
Master Poker Demonstrationの内容
では作品の内容をご紹介します。
今回も動画にしましたが、やはりポーカーデモンストレーションというテーマは往々にして長くなるもので、これも6分近い動画となっています。
その点をご承知のうえ、よろしければご覧ください。
いかがでしょうか。
ポーカーデモンストレーションに加えて、クライマックスとしてカラーチェンジングデックが取り入れられているわけですね。
デレック・ディングルの作風の特徴のひとつである、ディレイド・クライマックス”Delayed Climax”の考え方による構成です。
今回の動画では原典の”Complete Works of Derek Dingle”(邦訳版:デレック・ディングル カードマジック)の手順に則っていますが、「カードマジック事典」掲載の手順では、前半部分が省略されています。
すなわち、エースの出現からフォールスディールの部分が省かれて、4枚のエースの積み込みを見せるところから入るわけですね。
フォールスディールを単に羅列的に見せてゆくのも、ともすれば冗長になりがちなので、確かにカードマジック事典のように省略してしまうのもひとつの考え方であるとは思います。
それから、4枚のエースの積み込みに関しては私のアレンジが入っています。
「デレック・ディングル カードマジック」掲載手順でも、「カードマジック事典」の手順でも、どちらもこの積み込みの部分ではMB shuffle(技法の頭文字のみの表現です)を用いています。
ただ個人的にはこの手順のこの部分でMB shuffleは、どうもやりにくく感じました。
もしかしたら、積み込みの過程をあからさまに見せることが主眼の手順なのかも知れませんが、シークレットムーブとして行うのならば、ちょっと私には難しいかなと。
わたしのやり方では、単にリフルシャッフルする度にエースの間に4枚ずつのカードが挟まるようにシャッフルしているだけです。
一応この手順をやるために自分で考えましたが、単純で普通な手法だと思うので、間違いなくどこかで発表はされているでしょう。
4枚目のエースのところでセカンドディールをやるというのも、元々の手順にはなかった点です。
元々のやり方では4枚目は別のカードで、5順目でエースが出てくるのですが、積み込みの方法を変更した都合上、エースが4枚目に出ることになってしまいました。
単に5枚目を配るだけでは能がないというか、意味の少ない動作に見えかねないので、動画のようにしてみたわけです。
ここでまたセカンドディールを入れることによって、手順の前半部との有機的なつながりが出来るかなという期待もありますが、いかがでしょうか。
もちろん「カードマジック事典」掲載手順でやる場合は、ここでセカンドディールは不要かとは思います。
技法の暴露について
あまりにセカンドディールやボトムディールをオープンに語ると、タネ明かしの謗りを受けるかも知れませんが、そもそもギャンブリング・デモンストレーションでは演技中にフォールスディールの解説をするというのは、非常にありふれていることです。
今回のMaster Poker Demonstrationでも、手順としてフォールスディールの暴露が含まれています。
なのでギャンブルデモという範疇の限りにおいては、ギャンブル系技法の解説は、ある程度はアリだという認識でいます。
そういう演技中での解説では、技法を上手くやるべきか下手にやるべきか。
これもまた難しい問題ですが、やはりギャンブリングデモは観客一般のイカサマ技法への興味を喚起することも趣向のひとつですから、ある程度感心される程度には上手くやるのが望ましいのではないでしょうか。
もちろんこれも演技者のキャラクターによりますし、また作品にもよります。
例えばLorayne Poker Dealみたいな作品では、むしろボトムディールを下手にやったほうが効果的かも知れません。
演技中のタネ明かしでは、わざと実際の技法よりも下手にあからさまに演じて、シークレットムーブとの差別化をする、という考え方ももちろんあります。
一般的な奇術の中では、むしろこの例に当てはまるほうが多いのではないでしょうか。
例えば、有名なダイ・バーノンのカップ&ボール手順の後半部で、フレンチドロップの暴露をするところがありますが、ほとんどのマジシャンはこの部分を”上手く”は演じていませんね。
ただギャンブリングデモンストレーションでは、こういう場合とはまた少し異なる感覚になるかな、と思っています。
Master Poker Demonstrationの関連作品
ポーカーデモンストレーションのラストに、カラーチェンジングデックに繋げるという作品はそんなには多くないと思います。
わたしの知るところでは、ダーウィン・オーティス”Darwin Ortiz”による”Greek Poker”が同趣向の作品です。
また同じダーウィン・オーティスの作品で”Darwin’s Poker Deal”という作品では、カラーチェンジングデックではなく最初から色の違うエースを使うという趣向です。
Master Poker Demonstrationを解説した書籍
元々はリチャード・カウフマン著”Complete Works of Derek Dingle”に掲載されました。
これの翻訳本「デレック・ディングル カードマジック」が、東京堂出版より出されています。
また「カードマジック事典」には前半を省略した手順が解説されています。
302ページの「ポーカー・デモンストレーション③」というのがそうです。
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