片倉雄一氏については以前「ダイヤモンド・カット・ダイヤモンド」の記事で少し取り上げましたが、今回は氏の代表作と見なされているカードマジック作品、「ダブル・ショック」を紹介しようと思います。
片倉氏は、マジックメーカー兼マジックショップであるトリックスのディーラーを努められていた方で、クロースアップマジックの洗練度においては日本随一とも見なされていましたが、若くして亡くなられました。
わたしの知る幾人かのマジシャンの中には、片倉氏に対して崇拝に近い評価をされている方も多いです。
そんな片倉氏の代名詞とも言えるカードマジック作品が、「ダブル・ショック」です。
ダブル・ショックとは
いつものように手前味噌な動画で恐縮ですが、まずはよろしければ私の演技をご覧ください。
2回連続の変化を見せるのでダブル・ショック、というわけですね。
複数枚カードの2連続変化という、なかなかハードなテーマにもかかわらず、全く無駄のないロジカルでダイレクトな構成には惚れ惚れします。
豪華な現象にも関わらず、全体は30秒ぐらいで終わってしまうので、儚さの余韻すら感じさせますね。(まあ演技がこれ1つで終わることも少ないでしょうが・・・)
1回目と2回目の変化が全く同じ動きで行われる点が良いですね。
それも余分な動作が一切なく、単にデックのトップにカードをひっくり返して、そのまま配るだけという。
「動作の一貫性」とは、Erdnaseの”Expert at the Card Table”(邦題:プロがあかすカードマジック・テクニック)の理論編で解説されている有名で基本的な概念ですが、ダブル・ショックはこの概念が見事に具体化された好例でしょう。
片倉氏の古いビデオ映像を親切な知人から譲っていただいたことがあり、その中にダブル・ショックの演技映像も収録されていました。
私は片倉氏が亡くなられた頃はまだ京都にいたので、残念ながら氏の実演に触れる機会はありませんでしたが、このビデオ映像だけでも凄さの一旦は理解できました。
まずすべての動きが流れて淀みがない。
難しいアノ部分もコノ部分も、なんでそんなに流麗な動きで出来るんですか?という印象。
それと、技法以外の普通の指先の動きも綺麗で独特ですね。
わたしがあの域に到達できるとは到底思えませんが、少なくともエッセンスを見出す遠き目標とはしたいところです。
余談ですが、前々回のヒッチコック・エーセスの記事で、個人的にダブル・ショックの後にヒッチコック・エーセスを演じることもある、と書きました。
ダブル・ショックは4枚の絵札が4枚のエースに変化する奇術、そしてヒッチコック・エーセスでは、エースが絵札に変化したと解釈することも出来なくはないですよね。
つまり連続して演じれば、関係ないカード→絵札→エース→絵札という一連の変化として繋がることになります。
ダブル・ショックはどちらかといえばカードマジックのオープナーに向いた作品ですし、この2つを続けて演じるということは、一定の合理性はあるように思うのですが、いかがでしょうか。
ダブル・ショックのバリエーション
ダブル・ショックのバリエーションとして発表されている手順に、同じ片倉氏自身による「ダブル・ダウン」と題された手順があります。
この手順は全体の現象と、前半のハンドリングはダブル・ショックと同じですね。
実際の不思議現象を見せる部分である、絵札への変化以降のやり方が異なっています。
この手順では絵札への変化とエースへの変化がそれぞれ異なる見せ方となるため、動作の一貫性という点では原案のほうが勝ります。
ただ、2回目にはもうすでにクライマックスに到達していますから、ここで少々派手な見せ方をするのも効果的な感じはします。
このクライマックスでの手法はトリックスの赤沼氏の技法で、片倉氏のお気に入りのひとつであったと見えて、いくつもの作品に使用されています。
ダブル・ショックとダブル・ダウン、同じ現象、似たハンドリングということでどうしても比べてしまいたくなります。
個人的にどちらも実演したことがある立場としては、どちらかと言えば原案のダブル・ショックのほうが良いのかな、という感覚です。
もちろんたまたま私の演技では、それも私の主観ではそう感じた、というだけのことにすぎませんけど。原案への信仰みたいな感情も働いているかも知れません。
人によってはもちろんダブル・ダウンのほうが好みであるという人もいます。
「動作の一貫性」という概念は、アードネスが提起してバーノンが支持して以来、近代マジックの重要な考え方のひとつとなっています。
ダブル・ショックは短い作品ですが、この概念による効果が如実に表れているような気がします。
あえて言うならば、ダブル・ショックは動作の一貫による不思議さの効果、ダブル・ダウンは比較的派手な動きによってショーアップされた美麗さ、という対比でしょうか。
また、恐らく片倉氏自身による改案かと思うのですが、トリプル・ショックというバリエーションも存在するようです。
わたしの知る限りでは、この手順は文献等で発表はされていないように思いますが。
トリプル・ショックはダブル・ショックの直接のバリエーションで、ダブル・ショックと同じハンドリングで2回の変化を見せた後、もう一度配りなおすと再び絵札に戻る、というものです。
3つ目の全く異なるカードへの変化ではなく、再び絵札に戻るということで、あまり論理的でないとの印象を抱く人も多いみたいで、演じている人はそれほど見かけません。
ダブル・ショックを解説した文献等
ダブル・ショックは、マジックランドより刊行された書籍「ニュー・ゼネレーション+α」に掲載されています。
この本はマックス・メイビン氏により英訳され、”New Magic of Japan”として出版されています。
そのため、Youtubeなどを見ていると海外の人でもダブル・ショックを演じている人は結構多く見かけます。
この本は当時の若手マジシャン(+若干の大御所も?)の作品が、一人1作で収録された本です。
片倉雄一氏以外にも六人部慶彦、前田知洋、長谷和幸、ヒロ・サカイ、根尾昌志、宮中桂煥、鈴木徹、斉川豊久、石田隆信の各氏など、現在のマジック界の一線級におられるマジシャンの若き日の作品が見られる名著です。
ただし現在は絶版で、日本語版の入手はしにくいと思います。
バリエーションである片倉氏の「ダブル・ダウン」のほうは、テンヨーから再販された加藤英夫著「ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」に解説されています。
ダブルダウンで4枚の絵札をEカウントで見せる時に
3枚目を左手に取る直前で2枚目をIJしておくと、全体を引っくり返した後で
BRするのがスムーズですよ。(PDしなくても良い訳です)
この方法を片倉氏の弟子(?)のW氏からむかし教わりました。
ありがとうございます。
一応IJしたつもりでしたが、ちょっとその部分で引っかかっていますね。
もっと精進いたします^^;
ビル・マローンのリセットでも、その手法を使っていますね。
ラリーの本にIJの方法が解説されてないので紹介しました。
決して粗探しという訳ではないのでご理解の程を・・ (^^;
ところで3年前の「片倉雄一追悼オフ会」で彼の作品集があったとか?
埋もれた作品があるのなら読んでみたい気もするのですが・・
いえいえ、ご指摘を頂けることは大変ありがたいことです。
感謝しております。
追悼オフ会、色々見せてもらいましたが、作品集というようなまとまったものはなかったと思います。
オフ会を企画された方がご自身で管理されている遺品の中には、片倉さんの自筆のノートがあったそうで、色々と断片的なアイデア等が書かれているようです。
先日「ダイヤモンド・カット・ダイヤモンド」の文中で紹介した手順も、そのノート記載のアイデアです。
以下のサイトに、片倉さんの遺品関係のことが色々と紹介されていますので、よろしければ訪問してみてください。
http://fushigitsurezuregusa.web.fc2.com/Katakura/kata.html
いや、リンク先の記事をよく見たら、自筆ノート以外に確かに作品集もあったみたいですね。
ただ、これはオフ会で配布対象とはされておらず、このサイトの管理人M氏がご自身で管理されています。
わたしも機会があれば内容を見てみたいものです^^
Mさんが整理・編集し、新たな書籍を出してくれたら嬉しいんですけどね。
本当はトリックスがやってくれれば良いのでしょうけど・・難しいですね。
遺品ではなく、トリックスから出ていたものを個人的に譲り受けなさったものらしいですね。
たびたび勘違いすみません^^;
出来ることなら、トリックスからまた出してほしいものですねえ。
そのMです。(笑) 片倉さんの作品集というかレクチャーノートですが
とあるマジシャンからもらったものです。
片倉さんの作品で文章になったものは このレクチャーノートと
トリックスで出していた トリックボックス(でしたっけ?)にあるいくつか。
奪還なんかは こっちですね。 それくらいしか 知りません。
あとビデオなんかで 片倉クリックパスとか紹介してますけど文献はないかもですね。
自筆のノートは 片倉さんが高校生のときのものを所有してますが オリジナルは 数点かな。 ほかは覚書みたいのが多いです。
以前 Shanlaさんに アドバイスいただいたダイアモンドカットダイアモンドの改案とかですね。
作品集かぁ。 トリックスなき今は だれも文句いわないかなぁ。
コウスケさんいらっしゃいませ^^
コメントありがとうございます。
トリックボックスでは、奪還の載っている号以外に、まるまる1冊赤沼さんと片倉さんのセッションの号もありましたね。
片倉チェンジなんかはどこかで文章にはなってないのでしょうかね。
ノートや書籍以外では、オリジナル商品として出た手順も結構ありますね。
アラカタックパースとか、シガレットスルーアウトダーンとか。
上野のトリックスにて片倉氏のダブルショックをみせて頂いた者です。凄い衝撃でした。弟子?のW氏(現在T社?)が当時は一番上手く片倉氏の手品を継承していた記憶があります。当時は超魔術ブームで、私も今思えば日本円硬貨のギミックを使った物ばかりを好んで演じてましたが、片倉氏の手品を見てからは変わりましたね。スポンジやちょっとしたパケットなども、凄くきれいに演じた片倉氏。書籍ニュージェネレーションa、決して安くはありませんでしたが、現在でも三冊大事に所有してます。。
>muddyさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
片倉氏が亡くなられた頃は、私は関西のほうに住んでいて東京に来る機会はありませんでしたので、氏の演技を見る機会はありませんでした。
どんなクロースアップマジックも非常に上手く、また本当に気さくな方だったみたいですね。
ニューゼネレーション+αを3冊もお持ちであるとは凄いですね。愛情が伝わってきます^^
片倉さんって、亡くなってたんですか…。
30年くらい前に、1度か2度、片倉さんの演技を見たことがあります。
もう、本当に魔法のようで、いまでもあの衝撃を忘れられません。。
>zubapitaさん
片倉さんの演技を生でご覧になったとはうらやましいものです。
私もビデオでのみ観たことはありますが、それだけでも多くの方々が評価される理由が分かったような気がしています。
shanlaさんの実演、とても美しくて惚れ惚れします。でもやはり片倉氏の演技ビデオ見てみたいですね。
最近古書店でニューゼネレーション+αを見つけ一も二もなく購入しましたのですが、読んでみて難易度に驚きました。いま必死に練習しております。
クレジットが詳しくなかったのでひとつお尋ねしたいのですが、最初の変化で用いられているムーブはは片倉氏の考案なんでしょうか。
pokkechanさん、ありがとうございます。
私もあまり詳しいことは分かりませんが、恐らく片倉氏の考案によるムーブではないかと思っています。
マニア同士の会話でも、「片倉氏のあのムーブ」という呼称で通じたりもしますので。
とはいえ、はっきりしたことは分かりません。ニューゼネレーション+αやラリー・ジェニングスのカードマジック入門でも名前は付いていない感じでしたよね。