マジック界で箱根と言えば、TON小野坂氏のマジックショップ「マジックランド」主催のクロースアップマジックコンベンション、「箱根クロースアップ祭」が連想されます。
このコンベンションは毎年春先に箱根の温泉ホテルを借り切って行われているもので、日本では珍しいクロースアップマジック専門のマジックコンベンションです。
毎年、世界的なビッグネームのクロースアップマジシャンがゲストとして招聘されており、1983年の会ではダロー・マティネス(現・ダロー・イーストン)がゲストとして出演しました。
今回の「箱根トリック」の名前は、これにちなんだものなのですが、考案経緯がなかなか面白い。
箱根コンベンションで演技されたとか発表されたということではなく、ダローがコンベンション会場へ向かう車中で考案した手順だそうです。
暇さえあればちょっとした時間でもカードやコインを取り出して、練習や研究をしたくなるのはマジックマニアの常です。しかしそれを手順名にしてしまうというのが面白いですね。
ダローの「箱根トリック」
では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。
この作品が発表された「季刊 不思議」の記事では、ダロー氏自身、まだ改良の余地があるかも知れないとの認識であったことが記されています。
確かに何と言うか、実験的な習作の雰囲気のある作品ではあります。
手順から感じられる思想としては、まず現象ありきの構成というよりは、用いるカードの構成を最大限に生かして、出来る現象をどんどん盛り込んでいったという感じがします。
利用できる要素は全て利用し、手順の構成によって最後はエンドクリーンに持ってゆく。このあたりのセンスは、同じダローのカードボード・カメレオンとも共通するものがありますね。
構成を最大限に生かすということで、冒頭でいきなりダブルバックカードである、という提示から入るわけですが、これはさすがに盛り込みすぎかな、という気もしなくもありません。
が、そういう要素も含めて楽しい作品です。
後半、Gemini Countで見せたパケットでアンビシャス現象につなげるところは、組み合わせの考え方として非常にクレバーだと思います。Gemini Countの弱点を逆に利用してエンドクリーンを達成する、面白いアイデアですね。
パケットトリックから、デックを使ったアンビシャス現象に繋げることの必然性が弱い、という部分もありそうではありますが。
ところで最後に、ダローの「ハコネ・トリック」という名前を私が初めて知ったのは、はっきりは覚えていませんが、とある日本人奇術家のレクチャーノートにおいてです。
そのノートでは、「あまりに手順を盛り込みすぎると、ダローのハコネ・トリックのように複雑で難解な手順になってしまう」というような、若干否定的とも読める文脈で書かれていたように記憶しています。
しかしそれが逆にマニア心をくすぐったと言うか、いったいどんな手順なのだろうと興味を持つきっかけとなりました。
実際にこの手順に触れてみた感想としては、確かにたくさんの要素が詰め込まれた複雑な手順なのは確かだと思います。
しかし実験的な習作として見るならば、有用な要素がふんだんに含まれた、面白い手順だと言えるでしょう。
ダローの「箱根トリック」を解説した文献等
この作品は、かつて存在したマジックマガジン社による奇術雑誌「季刊 不思議」6号に発表されました。
ダローが招聘された回の箱根クロースアップ祭が開催されたのと同じ、1983年の発行です。
これについては、英語文献で発表されているのかどうか未確認です。
日本の箱根にちなんだトリックとして、日本の雑誌に発表されたものですので、もしかすると日本語でしか発表されていないということもありえそうです。
この箱根トリックがしたいのですが、乗っている書籍は現在ありますか?
記事の中で書いた「季刊 不思議」6号以外では見たことがありません。
恐らくこれの古本を探すしかないのではないでしょうか。
バラの古本以外に、5巻分が1冊になった合本もあります。
ありがとうございます。
6のみの販売はなさそうですね