カードマジック

quickthreeways

エド・マーローによる簡略化された”Everywhere and Nowhere”の手順「Quick Three Way」

19世紀ウィーンの奇術師、ヨハン・ネポムク・ホフジンサーは、カードマジックが近代へと向かう礎を築き上げた巨人です。当サイトの名称「奇術の詩の子供たち」も、ホフジンサーの言葉より拾い上げたものです。
現代においてもホフジンサー・トップチェンジやホフジンサー・プロブレムはメジャーなものですし、一説ではダブルフェイスも彼の創案だとも言われています。

そんなホフジンサーの、技法やプロットではなく手順としてのマジック作品で、今日最も有名なのは、”Everywhere and Nowhere”ではないでしょうか。
これは若干訳しにくい言葉ですが、日本語では通常「どこにもあってどこにもないカード」などと訳されています。もちろん、そのままカタカナで「エブリウェア・アンド・ノーウェア」と呼ばれることもあります。

今回ご紹介のエド・マーローによる”Quick Three Way”は”Everywhere and Nowhere”のバリエーションに当たります。
ホフジンサーの原案と、”Quick Three Way”の2つが「カードマジック事典」に掲載されています。

 

“Everywhere and Nowhere”(どこにもあってどこにもないカード)のプロット

“Everywhere and Nowhere”のプロットは、題名が示すその通りの内容です。
デックから適当に取り出した複数のカードがどれも客のカードであったり、逆にどこにも見当たらなくなったりします。

原案では、まず通常のカード当ての体裁で、観客に1枚のカードを選んで覚えてもらい、デックに返してもらいます。
その後マジシャンは3枚のカードを取り出し、1枚ずつ見せますが、3枚のいずれも観客のカードではありません。
ところが次の瞬間には、3枚全部が客のカードであるように見えます。
最後にもう一度確認すると、客のカードは1枚だけしかありません。

さてホフジンサーの原案は、上手く演じれば現代でも十分に魅力的な作品ですが、かなり高い技量を必要とするのに加え、レギュラーデック1組だけでは出来ないという点が、あまり広く演じられない理由と思われます。

そこで、「どこにもあってどこにもないカード」のプロットは踏襲しつつ、レギュラーデック1組だけを使って、比較的簡易な技法で演じられるように構成したバリエーションが色々と発表されています。
そういったバリエーションの中でも一番有名なものの一つが、今回ご紹介の”Quick Three Way”です。

 

エド・マーローの「Quick Three Way」

ひとつお断りしておきます。
「カードマジック事典」掲載作品を紹介する場合、いつもは出来るだけ原典の文献等も参照するように心がけています。
しかし今回ご紹介の”Quick Three Way”の初出文献である「Ibidem」は私は現時点では持っておりませんので、今回の動画は「カードマジック事典」の記述のみを元にした演技となっております。

では動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。

ホフジンサーの原案は「どこにもあってどこにもない」と言いつつ、実際の現象は「どこにもない」が最初でその後に「どこにもある」が来ていました。
このマーロー作品でも、その構成は全く同じですね。

松田道弘氏の「松田道弘のクロースアップ・カードマジック」では、このマーローの作品(おそらく”Quick Three Way”のこと)等に対して、「原作のスケールの大きさ構想の雄大さを矮小化しているとしか思えません」と評されています。

確かにホフジンサーの原案と比べると、そのような印象が否めないのは確かでしょう。
しかしスケールの大きさや構想の雄大さをそれほど考慮しない場面、例えば大々的なクロースアップマジック・ショーのような場ではなく、ちょっと軽く数人に見せるような状況であれば、”Quick Three Way”にも十分に利点はあると思います。

また、どちらかと言えばサロン、パーラー向けの演目であったホフジンサーの原案と比べて、”Quick Three Way”はクロースアップに特化した手順とも言えます。
そのためハンドリングに様々な細かい工夫を凝らす余地が生まれ、現代の多くのクロースアップマジシャンに支持され、影響を与えることとなりました。
直接のバリエーションと見られるデレック・ディングルの”Quick D-Way”をはじめ、さらにカードの変化や予言と組み合わせた作品など、数多くの作品を生み出した源流となっています。
ハンドリングはかなり異なりますが、以前紹介したデレック・ディングルの”Regal Royal Flush“も、ある面では”Quick Three Way”の流れを汲むと言えるでしょう。

ただし”Quick Three Way”はクロースアップに特化して動きが簡略化された分、これだけだと全体の印象があっさりしすぎているという面はあるかも知れません。
様々なバリエーション作品に比べて、このマーローの原案(これ自体ホフジンサーのバリエーションですが、”Quick Three Way”系統の原案として)が演じられている場面をあまり見かけないのは、そのへんの理由もありそうです。

 

この作品に用いられている、Christ/Annemann Alignment Moveを応用したムーブは汎用性があり、”Everywhere and Nowhere”関連のプロットのみならず、3枚のカードを用いるパケットトリックに応用例が散見されます。

 

エド・マーローの「Quick Three Way」を解説した書籍等

この作品は元々、カナダの奇術雑誌「Ibidem」(イビデムと読むようです)の15号に掲載されました。

日本語書籍では、東京堂出版の「カードマジック事典」に掲載されています。168ページの「どこにもあってどこにもないカード②」がそうです。

また、この作品のバリエーションとして日本語で読めるものには、デレック・ディングルの”Quick D-Way”があります。これは東京堂出版の「デレック・ディングル カードマジック」に収録されています。

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