“Three with CSB” Reed McClintock リード・マクリントックによる、Gary Kurtzの”Trio in Three”の改案手順

Trio with CSB McClintock

手品関連の洋書を読んでいると、たまに”Knuckle Buster”という表現を見かけます。いくつか意味はあるようですが、手品の解説の中で出てきた場合は、大抵は文字通り「拳を破壊するもの」と解釈して良いでしょう。つまり、マスターするには拳が破壊されるほど多くの練習量が必要な、技法や手順のことを指します。

リード・マクリントック”Reed McClintock”は、色々な意味で特異なコインマンです。
まず、風貌が普通ではありません。色白で、ちょっと小太りの眼鏡をかけたお兄さんなのですが、両腕にはびっしりと派手なタトゥーが刻まれています。そして、そんな一種異様な外見には似合わないほどに、繊細で高度な技巧を駆使したコインマジックを演じます。
決して急がず、むしろゆっくりなペースで演じられる彼のコインマジックは、静的なディスプレイの連続で構成されているような印象です。例えが適切かは分かりませんが、一般的なコインマジックを普通のボールジャグリングに例えるならば、マクリントックの動きはコンタクトジャグリングに相当するような。

そんなマクリントックが、創作コインマジックのレクチャーノートをシリーズ化して出版しています。そのシリーズ名が、「Knuckle Busters」なのです。
程度の差はあれど、どの作品も”Knuckle Buster”の名に恥じぬ技巧的難度を誇ります。もちろんただ難しいだけでなく、彼独特の美意識と発想で紡ぎだされた作品群は、自分が演じる演じないは別としても、ここでしか味わえない魅力があります。

今回は、この「Knuckle Busters」シリーズの第2巻から、”Three with CSB”という作品をご紹介します。
以前に当サイトで紹介した、Gary Kurtzの“Trio in Three”のバリエーションです。

 

Reed McClintockの”Three with CSB”

では、動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。

>>動画リンク<<

最初にお断りしておきますと、動画の手順は、多少私なりのアレンジを加えています。もちろん原案ハンドリングの大枠は変えていませんが、ちょっと自分の好みに合わない点や、難しすぎると思われたハンドリングを変更しています。また、どちらかと言えば動画向きではないと思えた現象も一部省いています。

全体のプロットは、Gary Kurtzの”Trio in Three”とほぼ同様です。
異なるのは、使用するコインの構成です。トリオ・イン・スリーではTwo Copper One Silverと呼ばれるGaff Coinを用いていました。それに対して、”Three with CSB”ではその名のとおり、CSBコインを用いています。CSBとはCopper Silver Brassの略です。これについては後述します。

Two Copper One SilverとCSBの違いは、チャイニーズコインが含まれているかどうか、つまり1枚のコインに穴が開いているかいないかということです。トリオ・イン・スリーをご存知の方ならお分かりでしょうけども、この穴が開いているという点は、手順にかなりの制約をもたらします。

そもそもTwo Copper One SilverとCSBコインは同類のGaff Coinなので、”Trio in Three”をCSBで出来ないかということは、誰しも考えるものと思います。私も昔考えたことはありましたが、手順が煩雑になり過ぎそうで止めたような記憶があります。

 

Reed McClintockによるこの解答も、ところどころに煩雑とは言いませんが、繊細すぎるハンドリングも含まれます。その代わり、プロットについても”Trio in Three”をただなぞっただけのものではなく、現象自体がシンプルになったり、発展していると言える箇所もあります。

違いはまず、二段目のところで、2者択一で飛行させるコインが、本当の自由選択になっているところ。それと、クライマックスの段で、3枚目の銀貨も消失・飛行を表現できるところです。

とくに、”Trio in Three”ではこのラストの段で、銀貨については単に拳から取り出してテーブルに置くだけなので、個人的に若干の物足りなさを感じていました。
その点では、銀貨も最後の現象に組み込んだ、McClintockによるこの手法は理想ではありますが、ただハンドリングが原案とは比べるべくもないほど繊細で難しい(笑)

それから、カードを除外してからの手の中での交換現象も、Kurtzの原案では数回行っていましたが、McClintockの改案では1回演じるだけです。これは、手順全体をすっきりとした印象にする要素かと思います。

ラストシーンの、パースとカードとコインによる三角形のディスプレイは、McClintockの手順どおりです。手順の中にこのような、幾何学的で線対称な静的構図を取り入れる構成は、彼のほかの作品にも見られるものです。独特の美意識が感じられます。

 

CSBコインについて

CSBとはすでに述べた通り、Copper Silver Brassの略です。CSB Trickとか、CSB Transpositionと呼ばれます。これは時にSCBと順番を変えて呼ばれることもありますが、同じものです。Johnson Productsから出ているこのセットはスリー・コイン・トリックと名付けられており、この名前での呼称もよく見かけます。

2 Copper 1 SilverとCSB Transpositionは同類であると上で述べましたが、実際には2 Copper 1 Silverが先に存在し、それのバリエーションとして考案されたのがCSB Transpositionです。
2 Copper 1 SilverはConnie Haydenの考案で、Presley Guitarが銅貨1枚を穴開きコインに入れ替えることにより、CSB Transpositionを考案しました。Connie Haydenはギミックコイン製作の著名な職人、そしてPresley Guitarはあまり名前を聞かない人ですが、各種マジック用具の考案・製作で活躍した人のようです。

2 Copper 1 SilverとCSB Transpositionのどちらが効果的であるかについては両論ありますが、一般的にはCSBコインのほうが、1枚が穴開きで他とは明らかに異なるコインなので、同じような銅貨2枚の構成よりは、交換現象の不可能性が強まるのではないでしょうか。少なくとも一般客相手には、CSBコインのほうが効果的だという意見が多いように思います。

CSBコインの最も標準的な手順は、片手に銀貨、反対の手に銅貨とチャイニーズコインの2枚を握った状態で、入れ替わるというものです。
これはノーマルコインでは表現が極めて難しい、クリーンで不可能性の高い交換現象です。ただし、一般的な手順では基本的にこの交換現象の繰り返しである場合も多く、冒頭に見せた現象の驚きが最も大きく、あとはその繰り返しで尻すぼみ、ということになりかねないところがあります。

その点で見ると、”Three with CSB”(あるいは”Trio in Three”)では、交換現象はいきなり最初からは見せません。最初にコインアセンブリに似た形の飛行現象を演じた後、クライマックス手前の山場のところで、このGaffで表現できる最もクリーンな交換現象を見せる構成になっています。素材を上手く生かした盛り上げの上手い例だと思います。

 

ちなみに、上の動画で用いたCSBコインは、Todd Lassen製のものです。氏は、ギミックコイン製作で世界的に著名な職人の一人です。
TangoやJohnsonといったメジャーなメーカーからもCSBコインは販売されていますが、チャイニーズコインが本物ではなく、メーカーが独自に製作したものとなっています。ジョンソンのチャイニーズコインなどは、工業的に精密に作られたもので、美しくはあります。が、やっぱり”本物のコインではない”というのは大きな違いなんですよね。

今回使用したTodd LassenのCSBコインでは、本物の東洋の古銭が使われています。このほかにも氏のサイトには、アフリカの穴開きコインを用いたものなど、他のメーカーにはない変わった構成の商品が色々とあります。品質も極めて高い水準です。
その代わり、値段についてはお安くありません。一般的なメーカー製の倍以上は見ておいたほうが良いでしょう。

 

Reed McClintockの”Three with CSB”を解説した文献等

この作品は、Reed McClintock著「Knuckle Busters Vol.2」(2002)に収録されています。

また、これの原案であるGary Kurtzの”Trio in Three”は、DVD「Let’s Get Flurious」およびギャリー・カーツ・レクチャーノートに収録されています。

 

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コメント

    • オニオン
    • 2014年 3月 12日

    以前ハリー・ロレインのポーカー・デモンストレーションでコメントさせて頂いたオニオンです。
    自分はギャリー・カーツでこのマジックを知り、John・Shryockという人のSCBバージョンが好きで一時期手順をよく練習していました。
    ジョンソン製のコインを使っていましたが、Shryock氏本人のように大胆に自然にできないところがあり、結局人前で演じるレパートリーにはなりませんでした。
    いつもShanlaさんの過去の名作マジックをご自身の工夫とテクニックで演じているのを拝見すると感心すると同時に羨ましくもあります。
    そして「そうそう!自分はこういうマジックが好きだったんだ!」という事を思い出させて頂ける貴重なサイトです。
    これからも楽しみにしています。

    • オニオンさん、お久しぶりです。
      ジョン・シュリオックのビデオは私は持っていませんが、評判は聞いたことがありました。カップ&ボールなどが面白いらしいですね。
      そして、氏もCSBバージョンのTrio in Threeを演じられていたのですね。機会があれば見てみたくなりました。

      ほぼ毎回自分の動画を掲載することについては、おそらく賛否が分かれるでしょうし、私自身も多少は迷いがあります。
      しかし、そのような暖かいお言葉をいただけると、こういう形での継続も意味があることなのかな、と思えてきます。
      ありがとうございます!

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