日本が世界に誇る奇術の詩人、沢浩さん。
そんな沢さんの新しい作品集が、もうすぐ出版されるようです。
非常に楽しみなことですね。
さて、沢さんといえば真珠物語やてんとう虫に代表されるような、自然素材を使ったポエティックな奇術のほかには、コインマジックやロープマジックで有名な作品が多いですね。
一般のマジックマニアほどには、カードマジックの分野に傾倒されてはいないように見受けられますが、多作な沢さんのこと、やはりカードマジックの分野でも発表されている作品がそれなりにあります。
有名なカードマジック作品はおそらく、レモントリックやなみだなどでしょうね。
今回は、沢さんのカードマジック作品の中でもかなり凝りに凝ったテクニカルな手順、”The Strolling Cow Aces”をご紹介いたしましょう。
プログレッシブ・エーセスとは
“The Strolling Cow Aces”は、エースアセンブリのテーマのマジックですが、その中でも細かく分類すると、プログレッシブ・エーセス”Progressive Aces”またはサクセッション・エーセス”Succession Aces”と呼ばれるカテゴリーに入ります。
フォー・エース・アセンブリの分類的系譜については、以前のわたしのサイトでまとめた記事がありますので、詳しくはそちらを参照してください。
プログレッシブ・エーセスのテーマを簡単に言うと、4枚のエースが集合する際、1番目のエースが2番目のパケットに移動し、その2枚が一緒に3番目のパケットに移動、そしてその3枚が最終的に4番目のパケットに移動し、4枚がすべて集合する、というものです。
これは言葉で書いてもわかりにくく感じますが、実際の演技も結構込み入ったものになりがちです。
およそ一般観客相手の演技では、例えばスローモーション4エーセスなどと比べてその効果に違いがあるとはほとんど思えないような現象で、その割りにマジシャン側の苦労ばかりが増すというものかと思います。
マニアのためにマニアックな進化を遂げたエースアセンブリの、いわばひとつの究極のテーマとも言うべきものでしょう。
しかしそれだけにカーディシャンの心を捉えるものがあるようで、多くのマジシャンが手順を発表しています。
そもそもこのプログレッシブ・エーセスのテーマは、1972年のEpilogue誌16号に、ケン・クレンツェルによってプロブレムの形で発表されました。
そこでは、1960年代ごろにクレンツェルがこのテーマをバーノンとディスカッションしていた、という記述がありますが、それと同時に沢浩氏がこのテーマの作品を考案しているということが言及されています。
つまり、クレンツェルによるプロブレムの提示を受けて考案されたものではなく、このテーマの源流のひとつとして、この沢さんの手順があるということなのだと思います。
ただし、わたしの手元にある資料で確認できるのは上記の情報だけなので、沢さんとクレンツェル、あるいはバーノンのうち誰が本当の原案者なのかは判断できません。
沢浩氏のThe Strolling Cow Aces
では、及ばずながら私がこのマジックの動画を作成しましたので、よろしければご覧ください。
一応、”The Strolling Cow Aces”というのは直訳すると「ふらふらと散歩する牛のエース」みたいな意味で、牧場の牛はふらふらとあちこちに移動してしまうのだ、みたいなセリフをいいながら上記の手順を演じるものです。
が、動画ではそういったセリフは省略してあります^^;
プログレッシブ・エーセスの手順の中にはギミックカードを用いるものもありますが、沢さんのこの手順はレギュラーデック1組だけで行います。
やっぱり、エースが3つのパケットを順番に飛び移ってゆくという現象からして、レギュラーの4枚のエースのみで演じるには結構な無理があります。
印象としては、それをほとんどダイレクトに技法で解決した、という感じですね。
沢さんの作風のひとつの特徴として私が感じているのは、達成すべき効果が全てであって、そのための手法はかなりダイレクトで難易度の高いものとなることも、ときには許容するということです。
よい例が、沢さんのコインマジックの代表作のひとつである、One to Fourではないでしょうか。
あの奇術で表現される効果は、それこそどんなギミックコインをもってしても難しいような不可能なものですが、それを達成するための方法も、並みのマジシャンには不可能と思えるほど技術的に困難なものです。
沢さん本人以外に、One to Fourのオリジナルの方法を自信を持って演じられるという人を、個人的には見たことがありません。
この”The Strolling Cow Aces”も、若干それに近い創作思想を感じます。
私にしたところで、動画であればこそ一応なんとか形を作ってはいますが、リアルにどんな状況でも不思議に見せられるかと言われると・・・心もとないです^^;
作品の方向性としては、ダイ・バーノンの“Aces in Excelsis”などと近いものがありますね。
いや、しかしこういう方向性、実は結構好きです。
プログレシブ・エーセスのテーマ自体も、やっぱりマニア心をくすぐられるものですしね。
わたしもこのテーマの作品そのうちひとつ作ってみたいな、と思っているところです。
余談
リチャード・カウフマン著”Sawa’s Library of Magic Vol.1″を読むと、マイケル・スキナー氏が沢さんと飛行機に同乗したときに、機中の暇つぶしみたいな感じでいくつかのマジックを教えてもらったという話が序文に載っています。
その中にこの”The Strolling Cow Aces”も含まれていたとのこと。
ちなみに“Sawa’s Bank Routine”もそのうちのひとつだったということです。
マイケル・スキナー本人が、この”The Strolling Cow Aces”を演じていたかどうかは定かではありません。
しかしスキナーならば、この手順もさぞ鮮やかに演じたことでしょうね。
こ、これは凄いですね。
最後のパケットに集まるところなど実に壮観ですが、これを近距離でさらっとはとても出来なさそうだ(笑
東京堂のは購入決定ですが、Sawa’s Libraryも探してみます。面白い。
>hiroさん
確かに近距離ではちょっと使えないかもです^^;
東京堂のは、一報を目にしたときはSawa’s libraryの翻訳かと思いましたが、まったく新しい内容のようですね。
もちろん私も購入決定です。
Sawa’s libraryも面白いですよ。
コイン・カードのみならず、ロープ、スポンジボール、指輪、それからてんとう虫みたいな自然物系など盛りだくさんです。
石田天海賞の本と内容があまりかぶってないのもいいです。
久しぶりでこのマジックを見ました。有り難うございました。
私が見たのは何時だったか覚えていませんが、澤さんと話しているときに見せてもらいました。
面白い手順で記憶に残っています。
何時もそうですが、澤さんは自然に演じられています。
平山雄一郎さん
コメントありがとうございます。
ご本人の演技をご覧になられたとは、うらやましい限りです。
澤さんのあの独特の語りで演じられたら、こういう一見複雑なプロットでも自然で面白いマジックになるのでしょうね。