ダイ・バーノンによるギャンブルをテーマとしたカードマジックの傑作、「カッティング・ジ・エーセス」を紹介します。
この作品は、名著”Stars of Magic”に発表されたもので、バーノンの代表作のひとつです。
とくに、現在でも基本技法のひとつとして重要な「ダブル・カット」を世に出した作品としても有名です。
その後ダブル・カットが一人歩きし、安易なカードコントロールの手段として定着してしまったことから、バーノンはダブル・カットを発表するのではなかったと後悔したそうです。
しかしこの技法の原点とも言えるカッティング・ジ・エーセスでは、ダブル・カットは実に効果的な使い方をされていますね。
カッティング・ジ・エーセスの現象
ギャンブラーがいかに完璧にカードをコントロールするかという技術のデモンストレーションとして、4枚のエースを使います。
4つに分けたパケットにエースを混ぜてゆき、まったくエースの位置の手がかりが無いように見える状態で、”片手のみで”エースを次々に取り出してゆきます。
4枚目は失敗したかに見えますが、実はサッカートリック(失敗したと思わせて、意表をついた結果になるマジック)となっており、エースはカードが示した枚数目から出現します。
カッティング・ジ・エーセスの演技(カードマジック事典版)
では、私が演じる「カッティング・ジ・エーセス」の動画をご覧下さい。
この記事は、「カードマジック事典」で学ぶ人の助けになることも意図していますので、なるべくアレンジを加えずに、カードマジック事典の解説の通りにやっています。
今回動画にするにあたってカードマジック事典を読み返したのですが、まったく見落としていた手順がありました。
3枚目のエースを混ぜる前に、デックの状態を再確認する部分です。
長年慣れ親しんでいるマジックでも、たまに読み返すとこういうことがあります。
これはカードマジック事典の解説に沿ったものですが、基本的に”Stars of Magic”に発表されたものと同じです。
カードマジック事典の解説で1箇所分かりにくいというか、説明不足だと思ったのが、4枚目のエースを置いた後の操作ですね。
カードマジック事典では、ボトム1枚にブレークがある状態で単に「ダブルカットして~」となっていますが、これは初心者の方は戸惑うでしょう。
ダブルカットを行うのは、ブレークから下に一定量のパケットが無いといけませんから、まずシングルカットを行ってから、ダブルカットをするという操作になるでしょう。動画の私の演技はそのようになっていますので、事典でわかりにくいと感じた方は参考になさってください。
また、カードマジック事典では全体がくずれないフォールスシャッフルをする、となっていますが、実際にはトップとボトム付近以外のデックの大部分はシャッフルしても大丈夫です。
変に完全なフォールスシャッフルやフォールスカットを行うよりも、このような考えで実際にシャッフルしたほうが不思議に見えると思います。
あとカードマジック事典に書いてない注意事項と言いますか、ポイントとしては、最初に混ぜ込むエースはスペードのエースにしたほうがよいと思います。
なぜならば、これが最後に出てくるエースだからです。
マジックのクライマックスの最大の盛り上がりの部分で出てくるエースは、やっぱりスペードがふさわしいと思いませんか?
あと一応、最初に並べるエースの順番を黒・黒・赤・赤にすれば、後半のカットで出てくる順番が赤・黒・赤・黒になりますので、わたしはそうするように意識しています。
まあ些細なことかも知れませんが。
カッティング・ジ・エーセスとの出会い
わたしがダイ・バーノンのカッティング・ジ・エーセスを初めて知ったのは、確か高木重朗氏の「トリックの心理学」という本ではなかったかなと思います。(もしかしたら同シリーズの「魔法の心理学」かも知れません。)
高木氏が少年の頃、マジックが趣味の米軍兵士と交流する機会があり、その人に見せてもらったカードマジックの中で印象に残ったものが、カッティング・ジ・エーセスだったそうです。
とくにラストの、失敗に見せかけて実はさらに上をいく策略をめぐらせていた、という結末は、その頃の高木少年にとっては新鮮な驚きであったようです。
わたしもまだ本格的なカードマジックなどやっていなかった頃ですから、高木氏の文章を読みながら、いったいどのようなマジックで、どういう方法を使うのだろうか?と想像をふくらませたものです。
その後カードマジック事典という本にこれが掲載されていることを知り、本を入手して真っ先に覚えたのはこのカッティング・ジ・エーセスだったのです。
後にバーノン自身の別案や、その他のマジシャンによるバリエーションを知り、自分で演じている手順内容はカードマジック事典のものとは変わりましたが、このマジックそのものはずっと愛用しているレパートリーのひとつです。
カッティング・ジ・エーセスのオリジナルバージョン
Stars of Magicに発表されたカッティング・ジ・エーセスですが、実はこの本に載る以前のオリジナルバージョンが存在します。
以下、私によるその手順の演技動画です。
現在私が主にレパートリーとしているのは、こちらのバージョンです。
このオリジナル手順では、エースを混ぜ込む部分で全てシングル・カットを行い、その後の操作もよりディセプティブな、混ざった印象を与えるものとなっています。
“Stars of Magic”はプロや専門家向けというよりは、どちらかと言えばマジックの入門者やライトなアマチュアを対象に、本格的なマジックの世界へ導くものとして書かれました。
したがって、このマジックの原案はそういった想定読者には難しすぎると判断されたようです。
そしてライトな読者のためにバーノンがあえて考案したのが、現在メジャーになっている、ダブル・カットを使ったバージョンなのです。
このオリジナルバージョンは、Vernon Chronicles Vol.1という洋書に解説されています。
“The Unadulterated Cutting the Aces”という題名で掲載されています。Unadulteratedとは、「混ぜ物のない」といった意味です。
ということは、Stars of Magicのバージョンは不純物ありということですかね^^;
いずれにしても、バーノン自身が気に入っていたのはこのオリジナルバージョンのようです。
他にも、”Five Coins and Glass”や、フレッド・カップスも愛用した”Silk and Silver”といった傑作も解説されていますので、英語に抵抗の無い方は手に入れて損の無い本です。
カッティング・ジ・エーセスのセリフ
カッティング・ジ・エーセスは元々、若く血気盛んなマジシャンが、年老いた片腕の凄腕ギャンブラーに挑戦する、といったストーリーが付加されています。
現代の日本ではなかなかそのまま使いにくく、使えたとしても人やシチュエーションを選ぶストーリーですが、このマジックに合った面白い物語です。
ご自分のキャラクターに合った内容に脚色するベースともなると思いますので、Stars of Magicよりセリフの部分だけ引用しておきます。
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Stars of Magicよりの引用
何年か前、私は偶然アメリカの西部から来た片腕のギャンブラーに会いました。
私は、4枚のエースでマジックを演じていました。私はこのように4つの山を作り、エースをバラバラに入れました。
私がデックを揃えたとき、その男が私の肩を軽く叩き、次のように言ったのです。
「お若いの、失礼だが私はあなたがそれで何をするのか知らないが、私も長い間カードを扱ってきて、お金も稼いでいる。そこでだ。もしもあなたが興味がおありなら、私は喜んであなたに何か見せてあげてもいい。」
私は、この片腕のギャンブラーがどんなことをするのか知りたくてすぐに承諾しました。彼は、デックのトップやボトムにエースが無いことを私に確認した後、デックを取り、このように持って、器用にさっとカットして、私にそのパケットの一番上のカードを見るように言いました。見ると、それはエースだったのです。
もう一度私は、デックのトップとボトムのカードを確かめました。そこには確かにエースは無かったのです。彼はそのパケットを手に持ちました。彼が再びカットをすると・・・またしても、1枚のエースが現れたのです。
私はなんだか腹が立って、完全に邪魔をしてやろうと思いました。しかし、彼がやっている方法を覚えたいと思って、「カードを表向きにして出来ますか?」と聞きました。
「やってみたことは無いが・・・多分できると思うよ。」と彼は答えました。彼が再びカードをカットすると、確かにそこには3枚目のエースが表向きになって、私の目の前に現れたのです。
私は彼のトリックを見破ってやろうと思いましたが、非常に正確な彼の技術を見て、とても驚かされました。それでも私は、4枚目のエースがトップにもボトムにも無いことを確かめてから、「あなたは失敗したことがありますか?」と尋ねました。
「まさか!」と彼は笑いました。「これまで私は、この技術で高い賭けをやってきたが、失敗したことは無いよ。」彼はもう一度デックをカットしました。私はそのパケットのトップカードをめくりましたが、それはエースではなかったのです。
私は心の中で笑いながら、「おやおや!とうとう失敗したようですねえ。」と言ってやりました。
彼はすぐに答えました。「ちょっと待ってくれ。これはミスではないのだよ。私のカードコントロールは完璧だ。これはエースの位置を示しているのだ。それをあなたに実証してみせよう。そのカードの数字と同じだけ数えてみな。そこに最後のエースがあるだろう。ゆっくりと、カードを間違えないように数えて見なさい。」
「そこにエースは無い。もしもあったら、1000ドル払ってもいいよ。」と言いました。私はそのカードの枚数目のところまで一枚ずつ数えました。しかしそのカードを置く代わりに、2枚目のカードを引き抜いてテーブルに配り、一番上のカードは手に隠し持ってしまいました。
「あなたは、そこにエースが無いというが、見なさい」とギャンブラーは言ったかと思うと、ナイフを素早く抜いて、エイッ!とばかりに投げて、私の指の間から、隠されたカードを突き刺したのです。
私は死ぬほど驚いて、手を離してしまいました。
彼は気取って言いました、「お若いの、もしそのナイフがエースを貫いていなかったら、私は謝ろう。」
彼は、そのカードがエースであることを見せました。彼は微笑みながら、「お若いの、肩を叩いてきた男のゲームには決して乗ってはいけないよ。私も若い頃はよくカードを隠したもんだ。しかし私は貴方ほど運が良くなかった・・・ 私の指はそのとき切られてしまったんだ。だから、私の腕は1本になってしまったのだよ。」と言って去りました。
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カッティング・ジ・エーセスを学べる本
カッティング・ジ・エーセスは、東京堂出版から出ている「カードマジック事典」で学ぶことが出来ます。
209ページに掲載されている、「Aの出現」という作品がそうです。
リベレーションズの劇中でバーノンさんの指導の下、スティーブ・フリーマンさんがカッティング・エーセスを演じられていますが、クライマックスでPMしたカードを手の甲ごとナイフで突き刺す演出をしていましたが、これは原案のバリエーションなのでしょうか?
元々スターズ・オブ・マジックに掲載されているセリフ例のストーリーが、そのような演出となっています。
4枚目のエースが○○枚目にある、とギャンブラーが宣言し、それに従って若いマジシャンがカードを配ります。
そこでマジシャンはギャンブラーの目を盗んでイカサマを行い、Aが出てくるはずの枚数目のカードをPMして隠し持ってしまいます。
この状態でマジシャンは「ここにはエースはない。1000ドル賭けてもよい。」と宣言するのです。
しかしギャンブラーはマジシャンによるPMを見破り、いきなり指の間からナイフでカードを突き刺します。
そして実は、このイカサマは当のギャンブラー自身も若かりし頃に犯した過ちであり、今回の若いマジシャンほどには運が良くなかったので、自分は片腕になってしまったのだ、というオチです。
一度この演出で大真面目にカッティング・ジ・エーセスを演じてみたいものです。
なるほど。
たしかに一度はこの演出でカッティング・ジ・エーセスを演じてみたいです。
ありがとうございました。
セリフ観ることができました。
ありがとうございました。
それはよかったです^^