前回のデックの持ち方の記事において、ディーリングポジションを中心とした、基本的なデックの持ち方を解説いたしました。
今回はさらに詳細な部分に目を向けて、ディーリングポジションそのもののバリエーションを紹介いたします。
通常のカードマジックにおいては、こういったバリエーションはあまり必要ないかも知れません。
主にフォールス・ディールの分野で重視される事項です。
なお、フォールス・ディールとはギャンブルのイカサマテクニックの一種で、普通にカードを配るように見せて、2枚目や一番下、その他の部分からカードを配る技法のことです。
フル・グリップ”Full Grip”
一般的にカードゲームなどでカードを配るときに使われる持ち方です。
“Four on the side grip”とも呼ばれます。
親指以外の4本の指は、全てデックの右サイドに添えられています。
デックの客側エンドがオープンになっているのが特徴です。
このグリップは、普通にカードを配るのには適していますが、デックの前後の保持がないので、若干コントロールが利きにくい面があります。
また、フォールス・ディールを行うには、デックの客側エンドがあいているのはかなりの不利で、このグリップを用いたフォールスディールを使う人は少ないです。
メカニカル・グリップ
メカニカル・グリップ”Mechanical Grip”は前回の記事で、通常のディーリングポジションとして推奨した持ち方です。
デックの右サイドには中指・薬指・小指の3本をあて、客側エンドに軽く人差し指を当てて持ちます。
この持ち方の利点は、フル・グリップよりもデックのコントロールが利くことです。
フル・グリップではデックを傾けるときはしっかり握っていないといけませんが、メカニカル・グリップならば、かなり指を緩めた状態でも、デックを前に傾けることが出来ます。
また、ティルトやブレイクといった、カードマジックにおいて頻繁に使われる技法の微調整にも適したグリップです。
このグリップは各種フォールス・ディールにも適しており、これを用いたセカンド・ディールやボトム・ディールなどが数多く発表されています。
とくにセカンドディールは、このグリップで行うものが多い感じがします。
握り方がある程度自然で、なおかつデックのコントロールもしやすいという、各種ディーリングポジションの中では中間的な特徴を持ったグリップです。
アードネス・グリップ
アードネス・グリップ”Erdnase Grip”はその名が示すとおり、S.W.アードネスによって、彼の名著”Expert at the Card Table”に発表されたグリップです。
具体的には、アードネスのボトム・ディール(一番下から配る技法)の中で解説されました。
基本的にはメカニカル・グリップに近いですが、中指の先端がデックの右前コーナーに当たっているのが特徴です。
また、人差し指は比較的左のほうに位置して、デックの客側エンドの下端を隠しています。
このグリップの特徴は、デックの前エンドが他のグリップに比べてカバーされていることと、デックが手のひらにあまり密着しないことです。
前エンドがカバーされているということは、ボトムディールの際にボトムカードが横に抜き出される動きを隠すことが出来るということです。
また、デックは主に中指先端と親指の付け根によって保持されますので、ボトムカードは手のひらから浮き、薬指と小指は比較的自由に伸ばすことが出来るのです。
ボトムディールのためのグリップ
元々からしてボトム・ディールのために考案されたようなグリップですが、これらの特徴は多くのマジシャンにも支持され、このグリップはボトム・ディールを行うための標準的なグリップであると見なされているようです。
しかし、アードネス・グリップはあまりにもボトム・ディールと深く結びついたイメージを持たれているため、ギャンブルテクニックやマジックに詳しい人相手の場合、アードネス・グリップに持っただけで、「あ、ボトム・ディールをやるのかな?」と察知されてしまうという面もあります。(実際にそういう経験があります。)
そういった専門家を騙したいと思う人は、メカニカル・グリップやフル・グリップで何とかボトムディールを頑張ったほうがいいかも知れませんね。
しかし大多数の一般客相手には、そういう問題は無いと思いますから、普通にアードネス・グリップを使って問題ないでしょう。
知らない人には、これが最も効果的な、ボトムディールのためのグリップだと思います。
チャーリー・ミラーの工夫
フォールス・ディールの名手であった、チャーリー・ミラー”Charlie Miller”による工夫が、ダイ・バーノンのRevealations DVD 12巻に紹介されています。
彼の場合、ディールを開始する時点ではメカニカル・グリップを使い、ボトムディールを行う瞬間だけ、アードネスグリップに持ち変えるというのです。
やってみれば、中指の位置を変えるだけですから、意外と簡単であることが分かるでしょう。
これならば、上記のようにデックを持った瞬間にボトムディールを予測されるということもないですね。
通常のカードマジックよりも、ポーカーデモンストレーションのような、カードゲーム式にいくつかの手札を配ってゆくような手順に適したアイデアだと思います。
ストラドル・グリップ
最後はストラドル・グリップ”Straddle Grip”です。
これは少し特殊なグリップです。
デックの客側エンドに人差し指、手前エンドに小指を当て、この2本の指でデックをしっかり挟んで保持します。
中指と薬指は、デックの右エンドに添えられています。
このグリップの特徴は、ある程度ラフにデックを持っている印象を与えながら、実にしっかりとした保持ができることです。
また、デックの上下がしっかりと挟まれているので、右サイドがかなり自由になるのも特徴です。
アードネス・グリップでも中指と親指付け根によってデックが保持されますから、サイドはオープンに出来るのですが、やはり何枚もボトムディールしていると、徐々にずれてきてしまう場合があります。
その点ストラドル・グリップであればデックがずれてくる恐れも少なく、何枚ものカードをボトムディールするのには適したグリップであると言えるでしょう。
このグリップを利用したボトム・ディールも数多く発表されており、このグリップでのボトムディールが最も簡単であるという意見も少なくありません。
その他のグリップ
すでに挙げた4種のグリップ以外に、エド・マーローのマスター・グリップ”Master Grip”というのも発表されていますが、一般的に知られているグリップではなく、使う人も少ないと思いますので割愛します。
グリップについて学ぶことの出来る本など
一般的なディーリングポジションの注意事項については、「カードカレッジ 第1巻」に詳しく解説されています。
アードネス・グリップについては、”Expert at the Card Table”を訳した「プロがあかすカードマジックテクニック」に詳しいです。
メカニカル・グリップとそれを用いたフォールスディールについて解説した本は多数ありますが、”Expert Card Technique”に載っているセカンドディールの解説などが特に優れています。
各種グリップの比較研究と、それを用いた技法例の紹介については、Darwin Ortizの”The Annotated Erdnase”に詳しく解説されています。
はじめまして。
配る瞬間だけアードネスグリップにするやり方をチャーリーミラーが採用していたとは・・・僕もそのやり方で練習している最中だったので知ることができて嬉しくなりました。
貴重な情報ありがとうごさいます!!
>masa様
コメントありがとうございます。
過去の名人達と同じ発想をしたというのは、我々にとっては嬉しいことですよね。
この切り替えは、ボトムとセカンドディールの両方を一連の流れで行うような場合でも(そう多くはないでしょうが)有効な気がします。
はじめまして。
>アードネス・グリップに持っただけで、「あ、ボトム・ディールをやるのかな?」と察知されてしまうという面もあります。(実際にそういう経験があります。)
>そういった専門家を騙したいと思う人は、メカニカル・グリップやフル・グリップで何とかボトムディールを頑張ったほうがいいかも知れませんね。
僕はボトムディールをやるかもと思わせて実はセカンド、センターと言うのも面白い、と考えあえて
セカンド、センター、ボトムどれもアードネスグリップでやっています。(変形アードネスグリップですが・・・)
アードネスの本にはセカンド、ボトムを同じグリップでやる、と書いてあったのでセンターディールもそのグリップで出来る方法がある筈と考え探したらアードネスグリップのセンターディールの方法が発表されていたのでそれに一工夫加え3つのディール全てをほぼ同じグリップ、取る動きで出来る様にしました。
あまりやりませんが、グリークディールも変形アードネスグリップで出来る様です。
が、見せる相手にグリップでボトムディールを察知する様な人がいないので意味ないかも・・・。(^^;)
なるほど、セカンドとセンターのほうを、ボトムディールに合わせる考え方ですね。
アードネスグリップ自体は、分かっている人から見れば普通のグリップではないというのは分かりますが、察知させないという意味ではそれもアリですね。
センターディールもなさるとは素晴らしいです。
私はやっぱりマジックが興味の中心で、どちらかと言えば技法のデモンストレーション以外に有意な使い道の無さそうな、センターやグリークは真面目に練習したことがありませんでした。
>見せる相手にグリップでボトムディールを察知する様な人がいないので意味ないかも・・・。(^^;)
これは私も1回しかありません(少なくとも口に出して言われたのは)ので、実際はそんなに気にする話ではないでしょうね^^;