カードマジック

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「オイル・アンド・クイーン」 ロイ・ウォルトン “Oil and Queens” by Roy Walton

イギリスの名人ロイ・ウォルトンの代表作のひとつ、オイル・アンド・クイーン。訳すと「油と女王」です。
単語の組み合わせだけ聞くと、ロートレアモン伯爵による有名な形容句「解剖台の上のミシンとこうもり傘が偶然出会ったかの如く美しい」のような、シュールレアリスム的な感覚さえ感じさせます。

 

もちろん実際にはこの組み合わせは無から生み出されたわけではなく、その前段として「油と水」”Oil and Water”というプロットがあるわけですね。
このように、バリエーションの派生が幾世代も重なると、一見わけのわからないような題名となることはよくあり、面白いものです。

 

オイル・アンド・ウォーターとは、赤と黒のカードを油と水に見立てて、それらを混ぜ合わせたのにいつの間にか分離する現象を繰り返すプロットです。
マニアには非常に人気があり、現代でも数多くの手順や手法が生み出され続けています。

 

しかしマニア同士を離れて一般客に見せる演目としては、なぜかそれほど演じられることはないように思えます。
私自身も、カードマジックの各分野の中では、どちらかといえばあまり興味がないジャンルです。

 

これが何故なのかという考察は長くなりそうなのでここでは致しませんが、幾多のオイル・アンド・ウォーターの中で一般客に受ける明快さと驚きを備えた手順として、今回ご紹介の「オイル・アンド・クイーン」は一歩抜きん出ている印象があります。
カードマジック事典」掲載作品です。

 

オイル・アンド・クイーンとは

動画を作成してありますので、よろしければご覧ください。

 

 

一般的なオイル・アンド・ウォーターでは赤と黒の分離現象は数回繰り返されるのが普通です。
しかしオイル・アンド・クイーンでは、分離現象はたった1回です。
いや、分離したかと思ったらすぐに意外な結末が示されるわけですから、厳密に言えば一度も分離現象は見せていないと言えるでしょう。

 

このあたりのスピーディーな手順構成が、この手順が一般客への演技に向く所以かと思います。
アンビシャスカードのように1枚のカードが上がってくるような単純現象なら、何度も繰り返しても長さは感じないでしょう。
けども、数枚の赤と黒のカードを混ぜて分離させる、というシークエンスは何度も繰り返すには少々重たすぎるような感覚もあります。

 

ラストのクイーンの出現は観客にとっては意外な結末となりますが、論理的な整合性に欠けるという批判も見たことはあります。
驚くことは驚くけれども、「その現象は一体どういう現象なのか?」という蓋然性が感じられないということですね。

 

別にカードマジックの最中にいきなり鳩出しをするようなものでもなく、あくまでカードマジックの範囲内で起こっている現象ですから、そこまで気にすることはないのかも知れません。
しかし深く考え始めると気になることは気になります。

 

最近Youtubeで見たゆうきともさんの演出では、この部分の論理的なつながりが非常に上手く考えられていて感心しました。
氏のアイデアでは、最初の赤と黒のカードを油と水ではなく、女性と男性を示すものであると説明して始まります。
これが伏線となって、ラストでは「女性は女性でも、実は・・・」ということでクイーンの出現に上手くつながるわけですね。

 

オイル・アンド・クイーンのバリエーション

オイル・アンド・クイーンは明快でクライマックスも強い名作ではありますが、オイル・アンド・ウォーターのバリエーションとして見た場合はややあっさりしすぎの感もあります。

 

デレック・ディングルの「油とお酢」(Oil and Vineger)という手順は、このあたりの演者側の満足度と手順全体の豪華さを増すような方向性の改案となっています。
バリエーションというよりは、オイル・アンド・クイーンと続けて演じるための前段を工夫し、一連の手順として構成したという感じですね。
この手順では、最初は赤3枚と黒3枚の合計6枚のカードを使ってオイル・アンド・ウォーターを演じて見せ、第2段として赤黒1枚ずつ増やして8枚でやってみよう、という流れでオイル・アンド・クイーンに入るようになっています。

 

ラストにそれまでの手順とは関係ない4枚のカードが出てくる、という構造は、他のいろんなテーマに適合させやすいものです。
上のデレック・ディングルの手順も、彼自身はテレビコマーシャルに出演するために考案し、ラストの4枚はクイーンではなく企業の広告が印刷されたカードを出現させていたようです。

 

こういった他のテーマへの適合という点で白眉といえるのが、日本でマーケットアイテムとして発売された「あーした天気になーあれ」でしょう。
この商品は、手順そのものはオイル・アンド・クイーンと全く同じですが、雨上がりの晴れ間には虹がかかる、というメルヘンチックな物語が表現されている傑作です。

 

オイル・アンド・クイーンの解説書籍等

原典としては、1969年に出版されたRoy Waltonの作品集”Devil’s Playthings”に掲載されたものがあります。
また、1981年に出版された彼の集大成”Complete Walton vol.1″には”Devil’s Playthings”もまるごと収録されており、”Oil and Queens”も含まれています。

 

日本語書籍では、東京堂出版の「カードマジック事典」に掲載されています。
255ページの「水と油④」がこの作品です。

 

また、バリエーションとして紹介したデレック・ディングルの油とお酢(Oil and Vineger)については、東京堂出版の「デレック・ディングル カードマジック」に解説されています。

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