サイ・エンドフィールドに関しては、以前に作品集「サイ・エンドフィールドのカードマジック」を紹介しましたが、マジック作品そのものを紹介するのは今回が初めてですね。
サイ・エンドフィールドは上記作品集が過去に高木重朗氏によって翻訳出版されたおかげで、数十年前からカードマジックをやっている人には、その作品はかなり親しまれているようです。
今回ご紹介する「誰にも負けない賭博師」も、ウィザードインの柳田氏が京都に来られた際に、実演を見せてもらったことがありました。
これは「サイ・エンドフィールドのカードマジック」の本の最後に掲載されている作品で、彼自身による自己評価も高い手順だったと思われます。
以下に、高木重朗氏が訳された本のこの作品の前書きの一部から抜粋して紹介します。
“私個人の意見としては、この奇術は少人数の客のために行うカード奇術の番組の最後として行うのがよいと思う。というのはこの奇術を見れば、見物人は本当の奇跡が起こったときにそこに居合わせたと思うし、さらに術者を、カードで行いたい事をすべて行う能力のある人だと思うだろうからである。”
「誰にも負けない賭博師」の内容
原題には”Gambler”の単語が使われているとおり、賭博師つまりギャンブラーをテーマとした手順です。
しかしいわゆるポーカー・デモンストレーションやスリー・カード・モンテのように、特定のゲームを題材にしたものではありません。
カード全般に精通したプロのギャンブラーが、いかにカードを上手くコントロールするかを実演してみせる、という趣向がメインです。
そういう意味で、以前同じテーマで紹介したダイ・バーノンの「カッティング・ジ・エーセス」と似通ったプロットとも見做せます。
手順の具体的な内容については、動画を作成しましたので、よろしければご覧ください。
混ぜ込んでいったカードを、指先の感覚でカットして取り出すという趣向は、カッティング・ジ・エーセスと同じですね。
ラストでどんでん返しが待っているというのも、カッティング・ジ・エーセスと同様ですが、あちらの手順ではあくまでギャンブラーのカードコントロールとして似つかわしいラストとなっている感じがします。
それに対して、こちらの作品では、より奇術的なエンディングになっていますね。
「ギャンブラーじゃなくてマジシャンならば」というようなセリフは、元々の解説にはありませんが、一応上記のような感覚に従っています。
この作品は、ハンドリングの上でも現象面でも、有名な「マジシャンvsギャンブラー」のテーマと共通する部分が多いのは明白です。
マジシャンvsギャンブラーは、ハリー・ロレインによる作品が有名で、多くのバリエーションの元となっています。
時系列から見て、サイ・エンドフィールドの「誰にも負けない賭博師」は、その源流のひとつと言えそうです。
「誰にも負けない賭博師」では普通に4枚全部をカットによって取り出した後でクライマックスを迎えますが、ハリー・ロレインによるマジシャンvsギャンブラーでは、ラストはサッカートリック的になっています。
つまり4枚目で失敗して、それまでの3枚とは違うカードが出てしまいます。しかし先に出した3枚を見てみると、それらが4枚目と同じ数字に変化していて、どんでん返しの成功を迎える、というものです。
確かにマジックとしてはそのほうが意外性があって盛り上がるのも確かかもしれません。
Youtubeでフレッド・カップスがこのマジックを演じている動画を見ましたが、師の演技でもサッカートリックのラストとなっていました。
「誰にも負けない賭博師」を解説した書籍
「誰にも負けない賭博師」は前述のとおり「サイ・エンドフィールドのカードマジック」(原題:Cy Endfield’s Entertaining Card Magic”)に載っていますが、かなり昔の出版物で絶版となっています。
同様のテーマの作品として紹介したハリー・ロレインの「マジシャンvsギャンブラー」は、「カードマジック事典」にこの名前で掲載されています。
また高木重朗氏著の「奇術入門シリーズ カードマジック」にも解説されています。
素敵ですね。
「サイ・エンドフィールドのカードマジック」復刊されて欲しいです。
それと、フレッド・カップス氏が演じているこのマジックが気になりました。
>いちしげさん
ありがとうございます。
復刊されたら、現在の若いマジシャンにもきっと届くものがあると思うので、期待したいですね。
フレッド・カップス氏の演技は、ハリー・ロレイン式のサッカートリックタイプですけどね。
以下の動画の1:10あたりからの演技です。
動画拝見しました。
フレッド・カップスさん素敵でした。
思ったのですが、「誰にも負けない賭博師」や「マジシャンVSギャンブラー」など、源流をたどると、ダイ・ヴァーノンさんの名作「マッチング・ザ・カード」のバリエーションになるのでしょうか?
>いちしげさん
ああ、言われてみると確かにプロットはマッチング・ザ・カードそのものですね。
プロット自体はバーノンの創案というわけでもないみたいですが、一連の流れにあるということは言えそうですね。
ロレインの作品では最後に絵札がポケットから出てきますから、それのないカップスの演技はむしろマッチング・ザ・カードのほうかも知れません。
ただ、Matching the CardやMagician vs Gambler関係で検索してみても、両者の関係を示す文章はすぐには見つからなかったですが。
Magician vs Gamblerは彼の”Personal Secrets”という本に掲載されたようですが、この本持ってないんですよね^^;
今後、意識してそのへんの情報を探してみたいと思います。
ありがとうございました。
Vernon/Lorayne流の物しか知らなかったのですが、Endfieldのも素敵ですね。あまり派手すぎない意外性で、こちらの方が好みかも知れません。
加藤英夫氏によれば、Art LyleがJinx 1938-39に出したとか、いやレジナルドスコットだとか。
さすがにこの辺、確認する資料はもっていないので、僕にはよくわからないですが、かなり古いようではあります。
http://www.themagiccafe.com/forums/viewtopic.php?topic=222715&forum=2&start=30
そうですね。別々のポケットに移動よりは、あくまでテーブル上で完結するこちらのほうが、私も好みかもしれません。
リンク先の投稿、興味深い内容です。ありがとうございます。
レジナルドスコットにまで遡れるとは古いものですね。
“Discovery of Witchcraft”は著作権も切れていますし、ネット上に無料で読める資料がありますけど、さすがにここまで行くと純粋な研究調査目的以外には考えられなくなるので、二の足を踏んでしまいます。
Endfieldの作品では一度も演者のmistakeを表現する部分がないので、加藤氏のリストで言うならば、1に分類されるのでしょうか。
Lorayneのものは、LePaulと同じく4の分類ですね。