ポール・ルポールは私の最も好きなマジシャンの一人です。
もちろん本人の演技を見たことは映像においてさえもなく、文献で情報を知るのみなのですが。様々な文献において、彼の演技は神業と評されています。
厳しいショービジネスの世界にあって、ほぼカードマジック1本で生計を立てていた、プロフェッショナル・カーディシャンと呼べる人です。
ルポールの実践的なカードマジック作品集”Card Magic of LePaul”(邦題:ルポールのカードマジック)は、古今東西でも名著10選には確実に入るでしょう。
トップチェンジやパームなど、この本の写真と文章を隅々まで精読し、ミリ単位の細部まで正確に掴もうと努力した昔日の頃を思い出します。
ルポールの作品集に載っているマジックは、難易度的には易しいものから難しいものまで様々ですが、すべてに共通しているのは簡潔な方法と力強いエフェクトです。
普通マジックの作品集といえば1冊の本で数個も演じたくなるものがあれば儲けものというところですが、ルポールの本に限っては技術が許せば全てをレパートリーにしたくなるほどです。
今回ご紹介する作品は、この本の中でも技術的にはかなり易しくシンプルな部類の手順です。
即席ライジングカード
ライジングカードとは主にカード当ての一種で、一組のデックから客のカードがせり上がってくる現象を見せるものです。
まずは動画をアップしてありますので、よろしければご覧ください。
ライジングカードの歴史は古く、恐らくカードマジックそのものの歴史と同じぐらいの歴史があるのではないかと思います。
手法としては完全な仕掛け付デックを使うもの、デックそのものには仕掛けはなく、別のギミックを併用するもの、そしてデックに仕掛けはなくギミックも何も使わずにできるものなど、多種多様な作品が発表されています。
ライジングカード用仕掛けデックとしては、デバノ・デックが非常に有名ですね。テンヨーのワールド・グレイテスト・マジック・シリーズからも商品化されています。
今回の動画で演じたルポールの作品は、上記の分類でいえば3つ目のタイプ、ノーマルデックさえあれば準備なしで即席に演じられる手法の手順です。
全く即席で演じられる手順にも色々あり、とくに有名なものはカードマジック事典にも載っているケン・クレンツェルの作品でしょうか。
ルポールの作品は、ライジングカードとしては恐らく最もシンプルな手法のものです。ただしシンプルだから簡単かというと、かならずしもそうでもないのがマジックの面白いところです。
クレンツェルの作品などはかなり技巧的に難しいのですが、そういう種類の難しさはルポールの手順にはありません。ただ、自分が何の動作を行っているのかということをしっかりふまえて”演技”しないと、全く不思議に見えない恐れがあります。
一旦コツさえ掴めば手法としては易しい手順で、時間的にもすぐに終わるので、いつでも急にリクエストされたときにすぐに演じられるレパートリーとして重宝します。
ルポールの即席ライジングカードの類似作品
John N. Hiliard著”Greater Magic”の中に、ルポールの”Impromptu Rising Card”の類似作品を見つけたので併せてご紹介しておきます。
名著”Greater Magic”の第16章は”Rising Card”と題されており、ギミックものと即席ものの両分野で数十種類のライジングカード作品が解説されています。
その中の即席方法”Impromptu Methods”の節にある”Method No.2″(作品名はここでは種明かしになりそうなので割愛します。)が、ルポールのライジングカードと似た方法となっています。
ルポールの手順ではデックを左手に表向きに持った状態で右手も表側からあてがいますが、”Greater Magic”の方法では逆に右手を裏側からあてがう点が異なります。
また、手順の最後の部分でも説得力を増すための多少細かいハンドリングが解説されています。
明らかに類似の方法に見えますが、”Greater Magic”のこの記事には考案者名が記されていませんので、これがルポールの方法なのか、別の人による作品なのかは分かりません。
「ルポールのカードマジック」にも参考作品に関する言及はありません。
発行年代としては、”Greater Magic”が1938年で”Card Magic of LePaul”が1949年と、10年以上の差がありますので、ルポールの手順は”Greater Magic”掲載作品のバリエーションと見るのが自然なところかな、と思います。
ルポールの即席ライジングカードを掲載した文献等
すでに冒頭でも触れましたように、この作品は彼の作品集「ルポールのカードマジック」(東京堂出版刊:高木重朗訳)に掲載されています。
しかし現在は絶版となっており、中古本を買い求めるしかないようです。
ルポールのカードマジック
また、「カードマジック入門事典」にもイラスト付で解説されています。
私が初心者だった頃、市販のマジックトランプでよくRising Cardをやってました。
そんな時に知人から、このルポールの作品を見せてもらってビックリした物です。(笑)
「なんで仕掛けのないカードで上がるんだ?しかも指一本で?」と・・ (^^;
その頃ですね、マジックトランプからバイシクルに移行したのは。(笑)
>峯崎さん
その種の仕掛け付ライジングカードというか、トランプ以外でうまく応用した商品に、テンヨーの万国旗のものが昔ありました。
10枚ぐらいのバラバラの国旗が印刷されたカードの中から客に1枚選んでもらい、戻して好きなだけ混ぜた後で、旗竿を端に引っ掛けて上に上げると、スーッと選ばれた国旗だけが出てくるというものです。
中学生ぐらいの頃にお気に入りのネタでした^^
傑作だと思うんですけど、これも絶版なんですよね~
「ふしぎ・ザ・ワールド」ですね、ずいぶん懐かしい手品ですな。
あとマクドナルドの景品で面白いライジングカードがありましたね。
どこかに置いてあると思うので後で探してみます。
景品の現物が見つかりませんでした・・
人様のサイトで申し訳ないですが、これですね。
http://hms.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-4a64.html
わざわざありがとうございます。
このライジングカードは、封筒にカードを入れて、横の穴にウォンドを差し込んで回すと上がってくる、というものでしょうか。
それでしたら、同じような手順が子供の頃に読んだマジック本に載っていた記憶があります。
確か、長谷川ミチさんの「マジック演じ方45」だったかな・・・
ライジングカード。とても魅力的な現象ですよね。impromptuであればなおさらです。93年12月3日に日本奇術協会が創刊号として発行した「ワンツースリー」という雑誌(編集人は坂井弘幸)の中でRudy Coby氏(四本脚で有名?)のNew wave card riseという作品があります。impromptuのライジングカードなのですが当時、私の好みではありませんでした。が、演じてみると現在でも予想以上のリアクションがある作品です。ご存知の方は是非一度、演じてみてください。もととなったアイデアはジェフ マックブライド氏でヒロ サカイ氏が許可をえて当時発表されています。ご参考までに。。
>muddyさん
New wave card rise、何となくどこかで聞いたことがあるような気がします。
ワンツースリーを持っていたという記憶はないのですが・・・
impromptuのライジングカードと言えば、Expert Card Techniqueに載っている手法も、簡単なのに意外と効果的なものでした。
こんばんわ。この作品大好きです!
1つ気になったのですが、静電気を使うという部分はルポール本人の演出ですか?
もし良ければ教えて下さい。
こんにちは。
ルポールの本の解説を確認してみましたところ、静電気とは言ってませんでした。
「磁化させる」と書いてありましたね。
わざわざご確認頂きありがとうございます。参考にさせていただきます。