【マジシャン紹介】ダイ・バーノン Dai Vernon 近代クロースアップマジックの父

ダイ・バーノンDai Vernon Revealation

ダイ・バーノンは20世紀のクロースアップマジックにおける最大の巨匠とも呼べる奇術家で、カードマジック、コインマジック、カップアンドボールその他、主にクロースアップマジック、サロンマジックの分野において広範な業績を残しました。

現代のマジシャンで、ダイ・バーノンの影響を受けていない人は皆無であろうと言えるほど、理論面においても作品面においても、マジック界で決定的に重要な位置をしめるマジシャンです。

なお、Vernonの日本語表記としては、バーノン以外にヴァーノンというのもよく見ます。
そちらのほうが英語発音に近いのかも知れませんが、カードマジック事典ではバーノンと表記されていることなどから、当サイトではバーノンに統一します。

 

ダイ・バーノンのマジック

カップ&ボールを演じるダイ・バーノン

カップ&ボールを演じるダイ・バーノン

ダイ・バーノンはクロースアップマジックを中心として、パーラーやステージ、メンタリズムなど、イリュージョン以外のあらゆる分野のマジックで業績を残しています。

とくにカードマジックにおける影響は顕著で、アンビシャスカードトライアンフスローモーション4Aツイスティング・ジ・エーセスなど、その後多くのマジシャンが追随しバリエーションを作る、メジャーなプロットの源流をいくつも作っています。

コインマジックにおいてもスペルバウンドチャイニーズクラシックなどは永遠に残るクラシックですし、バーノンのダイスルーティンやシンフォニー・オブ・リンキングリングスなど、本当にあらゆる分野に傑作を残しています。

 

なかでも極めつけとも言えるのは有名なカップ&ボールでしょう。

1956年刊行の”The Dai Vernon Book of Magic”で発表されたバーノンの手順は、それから半世紀以上が過ぎた現在でも、カップ&ボールの標準手順として揺ぎ無いものです。カップ&ボールを学ぶ人で、バーノンの手順を学ばない人は居ないと言えるでしょう。

 

なお、上のカップ&ボールを演じるダイ・バーノンの絵は、私が描いたバーノンの肖像です。恐らくは70代ごろの姿でしょうか。

 

バーノン・タッチ

ダイ・バーノンのマジックの特徴として言えるのは、全くの新しい原理や現象を創造するというよりは、既存のアイデアやマジックに新しい概念を加えて、オリジナルよりも数段素晴らしいものを作る、といったところかと思います。

ただし”Expert at the Card Table”をはじめとした多くの文献を読破し、あらゆるマジシャンと直に交流し続けることによって得た深い知識とセンスに裏打ちされていますので、単なる改案ではなくそれ自体がクラシックの源流となるだけの単純さと美しさを持った作品となっているのです。

 

バーノンが残した有名な金言に、”Be Natural”というのがあります。
これは様々な解釈がありますが、素直に訳せば、「自然であれ」ということです。

古い時代のマジシャンは、いかめしく着飾って大げさな身振り手振りを行い、おどろおどろしく不思議現象を起こす、といった姿が一般的でした。
それをバーノンは、普段の生活の延長上にあるような自然な振る舞いでマジックを演じることが大切だと説いたわけです。
バーノンのこの理念は徹底しており、文字通り一挙手一投足、腕や体の動きから指先の形にまで、”Be Natural”を貫くことを求めます。

“Be Natural”やミスディレクションなど、バーノンはそれまである意味感覚的に伝えられ演じられてきたマジックに、きちんと体系付けられた理論を構築します。
いわばマジックにおける近代は彼が築いたと言っても過言ではないでしょう。
ダイ・バーノンの理論はバーノン・タッチと呼ばれ、現代でも間違いなくあらゆるマジックのベースとなっています。

 

究極のマジックマニアとしてのダイ・バーノン

“Be Natural”に代表されるような、シンプルで自然なマジックの方向性が一般に認識されるダイ・バーノンの作風ですが、実は彼はこれとは真逆とも言える性質も兼ね備えています。
いわば究極のマジックマニアとも言うべき態度で、同じマジシャン仲間をひっかけるために、普通の一般向けのマジックとしては全く無意味なフェイントムーブや、難しいテクニックを駆使した作品が多くあります。
例えばカードマジックではエーセス・イン・エクセルシスなどはその代表例です。

とくにニューヨークに居た若い頃のバーノンはそういった傾向が強かったように思います。
エーセス・イン・エクセルシスもその時期の作品ですし、「フーディニを引っ掛けたトリック」のような逸話も残っています。

マジックをただの職業やアートとして扱うのではなく、本当に愛情を持って、生活や命そのものがマジックであると言える人だったのだ、と感じさせられます。

 

ダイ・バーノンの生い立ち

ダイ・バーノンのフルネームはデビッド・フレデリック・ウイングフィールド・バーナー(David Frederick Wingfield Verner)といい、1894年6月11日、カナダのオタワに生まれました。
予備知識無しでフルネームを聞くと、デビッド・カッパーフィールドの本名かと思ってしまう名前ですね。

後年、ダイ・バーノンは「マジックは3歳から始めた。3年間が惜しい」と語ったと言われます。
実際にはこの年齢はいくつかの異なる数字で語られることもありますが、とにかくかなりの幼少時からマジックに打ち込んでいたのは確かです。
カードマジックのバイブルと言われる「Expert at the Card Table」も、13歳の頃には全ての内容を記憶していたといいます。

その後ダイ・バーノンはニューヨークに移住し、紙切り芸(人物のシルエットなどをその場で紙を切り抜いて作る芸)などをして生計を立てるほか、短い時期ですがプロマジシャンとして活動もしました。
有名なハーレクイン・アクトと呼ばれるバーノンのステージマジックショーも、この時期に行われています。

他に有名なエピソードとしては、1919年にバーノンがフーディニにカードマジックを見せた件があります。
フーディニは脱出マジックで著名な、当時のマジック界の大スターでしたが、彼はどんなマジックでも3度見れば見破ることが出来ると豪語していたとのこと。
ダイ・バーノンはフーディニに、後に「フーディニを引っ掛けたトリック」として有名になるアンビシャスカード手順を7回見せ、フーディニを完全に騙しきったのです。
その後バーノンは「フーディニを引っ掛けた男(The Man Who Fooled Houdini)」として自らを宣伝することとなります。

ラリー・ジェニングスとダイ・バーノン1969年の来日

ラリー・ジェニングスとダイ・バーノン1969年の来日

プロマジシャンとしての活動は短い時期でしたが、その後の人生を通じて、バーノンは全米のあらゆる地域を回り、著名なマジシャンやテクニシャン、ギャンブラーと交流し、その技と知識を吸収します。

日本には、1969年にラリー・ジェニングスとともに来訪し、レクチャーツアーを行っています。

 

近頃わたしは、この時代のマジックの名手、ジョン・ラムゼイやナート・ライプチヒ、マックス・マリニといった人々のマジックとエピソードを研究する機会があるのですが、その中で感じることは、どのマジシャンもバーノンが関わっているということです。
この時代のマジシャン達を1本の線でつなぎ、現代に手がかりを残してくれているのが、ダイ・バーノンやチャーリー・ミラーといった奇術家なのだなと感じています。
そこには、かの石田天海師も繋がっています。

晩年にはハリウッドのマジックキャッスルの近くに居を構え、マジックキャッスルのレジデントマジシャンとして、またプロフェッサーとして、多くの若いマジシャンに影響を与えました。
ここでのダイ・バーノンの弟子と言えるマジシャンには、ラリー・ジェニングス、ブルース・サーボン、マイケル・スキナー、ジョン・カーニー、マイケル・アマーなどが挙げられます。
ダイ・バーノンは1992年8月21日、98歳の長い生涯に幕を引きました。

 

ダイ・バーノンの関連文献・映像

ダイ・バーノンの作品が解説された文献は多数ありますが、ここでは主なものを紹介いたします。

Secrets(20$ Manuscript)

これはバーノンの息子の出産費用を捻出するために売られたといわれる冊子です。

Stars of Magic

これは当時の超一流のマジシャンの作品を集めたオールスター傑作選のような本です。
バーノン作品としては、カッティング・ジ・エーセスアンビシャスカードカンガルー・コインズなど、現代にも残るクラシック作品が多数収録されています。

The Dai Vernon Book of Magic(1956)

チャイニーズ・クラシックカップ&ボールなど、今やクラシックとなった大傑作がオンパレードの名著です。

Dai Vernon’s Inner Secrets of Card Magic(1959)

Dai Vernon’s More Inner Secrets of Card Magic

Dai Vernon’s Further Inner Secrets of Card Magic

Dai Vernon’s Ultimate Card Secrets of Card Magic

Ultimate以外の3冊をまとめてバーノンの3部作と呼ぶこともあります。
“Book of Magic”がマジックのあらゆる分野をカバーしているのに対して、この4冊はカードマジック作品集として名高いです。ツイスティング・ジ・エーセスやマクドナルドの4Aなど、これもクラシックとなった名作がてんこ盛り。

“Book of Magic”と上記4冊は、いずれもルイス・ギャンソンの著です。
三部作は合本として、Ultimate Card Secretsは1冊として、それぞれL&L Publishingより復刊されています。

Revelations(1984)

これは”Expert at the Card Table”に対するダイ・バーノンの長年の研究成果をまとめた注釈本です。

The Lost Inner Secrets(1987)

The More Lost Inner Secrets

The Further Lost Inner Secrets

ルイス・ギャンソンによる旧3部作に対し、この3冊は新3部作とでも言うべきでしょうか。
マジックキャッスルに集ったブルース・サーボンらのマジシャンによるバーノンからの聞き書きを中心とした内容で、カッティング・ジ・エーセスの原案など、貴重な情報が詰まった本です。
さらに、バーノンの伝記を内容とした第4巻も刊行されています。

The Vernon Touch

これはアメリカの奇術雑誌Geniiに長年連載された、ダイ・バーノンのコラムを全てまとめた本です。

Vernon Revealations

映像資料としては、いくつかのビデオに散発的に収録されたものがありますが、本人の映像として最もまとまった形のものは、VIDEONICSから出ていた「Vernon Revealations全17巻」シリーズでしょう。
ギャリー・ウォレット、マイケル・アマー、スティーブ・フリーマンを交えたトークと実演の中で、バーノンの膨大な知識と経験が紐解かれる、貴重な内容です。
これは後にL&L Publishingによって8巻組のDVDに編纂され、さらにその後スクリプト・マヌーヴァ社によって日本語化もされています。

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  • @t_aldehyde 紙の書籍やレポートのどこかにある文言を探すのに、つい「Ctl+F」で検索して~と考えてしまう現象に名称はあるでしょうか。できたらいいな、ではなく、たまに素で一瞬そう思ってることが。
    about 4日 ago
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    about 3週 ago
  • 意味わかんない!「社会人としてありえない」有休取得の理由7つ!|「マイナビウーマン」 https://t.co/BaNIq8ba8w  これは、このような理由で有休を取ることがあり得ないのではなく、正直に会社に伝えるのがありえないと理解すべきかな。
    about 3週 ago

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